第14話
「忘れ物は無い?」
クララ様の問いかけに対して私は無いと頷く。クリス様もイェルガーも大丈夫であると返事をした。
「ではいきましょう」
これから宮廷に向かうちょっとした旅が始まる。この森を抜けた場所に国王陛下が馬車を用意してくれた。森の中は馬車が通らないので仕方が無いが、それでも用意してくれるだけありがたい。
荷物を持って屋敷を出て、うっそうとした木々が生い茂る森を歩く。時折鳥がひよひよと鳴いている声も、どこからか聞こえてきてほっこりとする。
「皆、ちゃんと付いてきている?」
先頭を歩くのはクララ様。思ったより足取りが軽く歩くスピードも早い。置いていかれないようにしなければ。
だが、ずっと地下牢暮らしが続いていたせいかちょっとスタミナが切れつつある。まだ、森の中なのだが。
(つ、疲れた……)
頑張って歩かなければ。すると前方が開けてきた。王家のものである白い馬車も見えてくる。
「あと少しよ!」
「は、はい!」
「マリーナ、大丈夫か?」
「は、はい……なんとか」
「荷物持つよ」
「えっ、いいんですか?」
「だっていかにもしんどそうだし」
クリス様が私の荷物を持ってくれた。手ぶらになったのでちょっとは歩きやすくなった。彼には申し訳無いが、楽になった。
そして森を抜けて無事に馬車へと到着する。2台並んで配置された馬車には私とクララ様、クリス様とイェルガーが分かれて乗る。御者が馬から降りてうやうやしく礼をした。
「クリス様、お待ちしておりました」
「皆様、どうぞお乗りください」
二手に分かれて馬車に乗り込むと、馬車は勢いよく進み始めた。
「わあっ……」
馬車のスピードは思ったよりも早い。それにあまり揺れない。座席もふかふかしていて快適だ。
「これ、食べなさい」
クララ様が私に渡してくれたのは、例の魔力の質を上げるためのビスケット。
「ちょっと金色に近づいたんじゃない?」
「そうですか?」
「そんな気はするわね」
私から見るとあまり変わったようには見えない。ただ、日の光に透かして見ると、少し金色に見えるようになったような気もする。
「いただきます」
「どうぞ」
ビスケットを馬車の中で頂く。パリッとしていて甘味もくどくなく美味しい。
馬車の窓から見える街並みは、のどかで畑があちらこちらに見える。宮廷はまだまだ遠そうだ。
「あとどれくらいかかりそうですか?」
「夜頃になるかも。日暮れは間違いなく過ぎると思って」
「分かりました」
まだまだ、宮廷への道は長い。だが、泊まらなくて良いのは良い事かもしれない。