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プロローグ

この作品はアルファとムーンで更新していた「元聖女候補の監禁令嬢は元婚約者の王子から一途な溺愛を注がれる。」を性描写を無くし全年齢向けにリメイクしたものになります。

一応R15に設定していますが性描写はありませんのでご了承ください。

 この国、ザパルディ国にはある神話がある。

 ザパルディ国には1000年に一度、聖女と呼ばれる莫大な魔力を持つ娘が誕生する。

 その聖女と結ばれた王子には、莫大な加護がつき、国が豊かになるというものだ。

 聖女の特徴は3つ。まずは美しい金髪、次に美しい容姿、そして血のような真っ赤な瞳。その特徴を備えた少女が成人した時に神託を受けると、聖女として目覚め、証が浮かび上がる。

 それらを全て兼ね備え、莫大な魔力を有する娘こそが、聖女である。そんな聖女の再来を民はずっと待ちわびている。

 

 ここは、穏やかな時が流れる午後の宮廷の中庭。木漏れ日が暖かく、周りの人間や草木を照らしてくれている。


「クリス様!」


 私はマリーナ・ジェリコ。ジェリコ公爵家の令嬢だ。今日は両親と共に、幼馴染で婚約者、王子のクリス様の元に遊びに来ている。


「マリーナ! いつ見ても金髪と目の色が綺麗だね。ルビーみたい!」


 メイドと共にクリス様が廊下から私を見つけ、中庭へと勢いよく駆けよって来る。クリス様は私の容姿をほめてくれた。金髪で赤い目。これは聖女の証だと両親からいつも言われている。本当に聖女だとわかるのは大人になってかららしいけど。私はクリス様と手を取り合い、何をして遊ぼうかと話す。


「じゃあ、水魔法で遊ぼう。今日収得したんだ」


 クリス様はそう言うと魔導書を持って、目を閉じて呪文を詠唱する。すると空中に私の頭と同じくらいの大きさの水の塊が浮かび上がった。これをボール代わりにして遊ぶ事になる。


「えいっ」


 腕で水塊のボールをトスして、クリス様の元へと返す。水塊に触れるとひんやりとした感覚が腕に降ってくるが嫌な感覚は無い。


「ひやっとしてて気持ちいい!」

「ほんとだ、マリーナの言う通りだね!」


 こうして日が暮れるまでクリス様と一緒に水塊で遊んだのだった。

 帰り際、私はクリス様の右手を両手で握る。


「クリス様、またご一緒に遊びましょう!」

「うん、また来てね、マリーナ!」


 宮廷を笑顔を浮かべる両親と手をつなぎながら去り、帰路についた。辺りは暗くなっている。早く帰らないと。


「マリーナ、今日の夕食は君が好きなステーキにしようか」

「お父様ありがとう! ステーキ大好き!」


 それから約1週間後の事だった。家庭教師による午前の授業が終わり、昼食を両親と家庭教師と共に食堂で食べている時の事。執事が青ざめた表情で汗を流しながら食堂へと走ってやってきて、父親の元へと耳打ちする。


「えっ」


 父親が驚きの声を上げた。私は父親の方を見て、なんて言われたのかと質問をした。


「マリーナ、君とクリス王子との婚約が、破棄されたんだ。しかもクリス様は行方不明になっているらしい」

「え」

「しかも、宮廷からの話だ」


 婚約破棄。しかも、クリス様のご意思ではなく、宮廷からのものと父親は震える声で語る。


「クリス様はなんて……!」

「彼からの話は何も……」

「クリス様が、そんな事をするわけ」


 ないじゃない。という言葉が出そうになったが、そのまま胸の奥に引っ込んでしまった。

 宮廷からの一方的な婚約破棄と行方知れずになったクリス様。私はもう、クリス様に会えないのだろうか。


「ねえ、私はもうクリス様に会えないの……?」

「まだ、わからない」

「クリス様に会いたい! もうずっと会えないなんて嫌だ!」


 私は正直に胸の内を言葉にして叫んだ。両親は眉を八の字にして黙るだけだ。執事はそのまま一礼して逃げるようにこの場から去っていった。


「マリーナ、大丈夫よ。何とかなるわ」

「お母様、ほんと? 何とかなる?」

「ええ、大丈夫よ」


 いつもなら母親の大丈夫と言う言葉を受けると安心できたのに、この時だけは全く安心できなかった。クリス様も見つかる事無く、時が過ぎる。

 クリス様がいなくなって、一方的な婚約破棄がなされて約1週間後の事だった。私は家庭教師と図書館に訪れて家に帰って来た時だった。


「お父様! お母様!」


 両親を呼んだが、返事が無い。しーんと静かな音の無い世界が家の中に広がっている。いつもなら帰って来た時はいつも両親がとびきりの笑顔で出迎えてくれるはずなのに。


「ひっ」


 靴にべちゃっと何かが付いた。靴裏を見ると血が付いている。それに玄関フロアにはおびただしい量の血痕が落ちていた。


「! やだ!」

「マリーナ様!」


 家庭教師に連れられて、家の奥に向かっていく。


「お父様? お母様?」


 そこには全身血だらけのまま動かなくなっている両親がいた。私は両親に駆け寄り必死に名前を呼ぶが、反応は全くない。2人とも首元からの出血が特にひどく見える。

 こういう時は治癒魔法だ。私は両手をそれぞれ両親の首元付近に当てて呪文を唱えるが、周囲が青白く光るだけで全く反応が無い。


「マリーナ様、もう……」

「や、やだ! お父様とお母様が死んじゃうなんて嫌だ!」


 クリス様だけでなく両親までいなくなるなんて、私には耐えられない。私は何度も両親の身体を揺さぶりながら声の限り叫んで呼ぶが、ついぞ反応が無かった。気が付けば私の顔は涙と鼻水で大きく濡れていた。

 家庭教師はその間、宮廷から兵と侍医を呼んでいたらしく、駆けつけた彼らによって両親の死亡確認がなされた。


「マリーナ様、祖父母も血だらけで倒れていまして、死亡が確認されたようです」

「うそでしょ……おじいさまとおばあさまも亡くなるなんて」


 私の頭の中が真っ白になって、何にも浮かばなくなった。


「これから私、どうしたらいいの……?」


 その問いに、誰も答える者はいなかったのだった。





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