5.部屋の主、目覚める
翌朝の少し遅い時間、マリーはもぞもぞっと動いたかと思うと、ゆっくりと目を開けた。外の光が入ってきてからたぶん二時間くらいたったのかな?小さくあくびをすると、ゆっくりと体を起こした。まだ寝ぼけているようで、動きが凄くゆっくりしていた。でも、メアリーがまだ気持ちよさそうに寝てるのを見てたら目が覚めたみたい。マリーは手を上に上げて大きく伸びをしたら、メアリーの枕元に顔を近づけた。なにをするのかなって思ってると、メアリーの耳元にフーっって息を吹きかけた。その途端メアリーは身じろぎして、ビクッってなったかと思うと飛び起きた。勢いが良すぎてマリーのおでことぶつかってしまい、ゴツンというにぶい音が響いたと思ったら、マリーとメアリーは泣き出してしまった。ぼくはどうしようとおろおろするけど、ベッドだからどうしようもできない。二人が痛みに悶えてゴロゴロ転がっているのをやさしく受け止めてあげるしか慰める方法がないことが、ぼくにとって心苦しかった。姉妹の泣き声に驚いたのか、ドアのガチャンという音がしたかと思うと複数の足音が聞こえてきた。どうやら使用人の人たちが部屋の中に入ってきたみたい。2人の女性の使用人が見えたかと思うと、それぞれ一人ずつ抱っこして、あやしていた。2人ともぐすんぐすん泣きながら、すこしずつ落ち着いて行ったけど、ぼくは姉妹が大丈夫か心配になった。ケガしてないかな?痛みはおさまったかな?仲直りできるかな?ぼくは姉妹がまた仲良く遊べるといいなぁって考えてた。2人が楽しそうだと、ぼくもなんだか楽しい気分になるからね。あと2人がぼくの上から使用人によってどかされてしまったから、さっきまで感じてた2人の重さや温かさがなくなっちゃって、ちょっと寂しい。はやくぼくの上に戻ってきてほしいなぁ。
ちょっと時間がたったころ、メアリーがマリーに話しかけていた。
「おはよう、メアリー。ねおきにあたまをごっつんさせてしまってごめんね」
「ほんとにいたかったんだから、ゆるさないもん。おねえちゃんのイジワル」
「ほんとにごめんって。メアリー、わたしなんでもいうこときいてあげるからゆるしてくれる?」
「うっ...なんでも?でも、まだおこってるもん」メアリーは使用人に抱えられたまま、プイっとマリーから顔を背けて、使用人に頭をなでなでしてもらってた。
「うぅ、じゃあ、わたしのぶんのおやつに出てくるケーキもあげるから、それでもダメ?」マリーはメアリーと仲直りしたくて、使用人にベッドに降ろしてもらって、抱きかかえられてるメアリーに向かって上目遣いでお願いしてるみたい。
「ケーキ!? ケーキを2つたべていいの?... たべたい! わかった、おねえちゃんとなかなおりする!」
メアリーのぐずりはやっとおさまって、メアリーも使用人に言ってベッドに降ろしてもらってた。そのあと姉妹は向き合って、仲直りのギューをしてたよ。2人ともかわいいよね。ちゃんと仲直りできてよかったね。ぼくもケーキ食べたい…まず人間にもどれるかな?まだ手がかりすら見つけれてないけど、何か方法はないのかな?
ぼくが元に戻る方法を見つけられるかはわからないけど、きっと何かあるはず。自称神だって罰って言ってたんだから。うん、ぼくは元に戻れるときが来るまで我慢するぞ!がまん、がまん...うぅ、やっぱり帰りたくなってきた。姉妹に使われるのは嫌じゃないけど、やっぱり自分のおうちで家族と過ごしたいよぉ。ぼくはまた寂しくなってきた。でも自分じゃどうにもできないから、とりあえず姉妹を見て寂しさを紛らわそう。ぼくは落ち着かない気持ちを抱きながら姉妹を見る。でも、すぐにぼくは落ち着いていられる状況ではなくなってしまう。
理由はマリーとメアリーはギューっとハグした後に取った行動がまずかったからだ。二人はぼくの上でお着換えを始めてしまったんだ。いくら小さい子だからと言ってぼくはそんなにまじまじ見たらいけないと思うのに、目をつぶることもできないせいで、視界に入ってしまう。使用人の人も手伝ってるみたいだけど、当然その陰に隠れるわけもなく、マリーとメアリーのパジャマの下が見えてしまいそうになる。なんとしても見ないようにしないと!ぼくはあれこれ考えた結果、マリーとメアリー以外の物に意識をむけることにしたんだ。つまりシャンデリアに意識を向けたんだ。なんか視界の端に肌色の何かが見えたりしたけど、きっと気のせいだ。てか気のせいだと思ってないとへんなことを考えてしまいそう。そんな悶々とした時間が数分続いた後、姉妹はぼくの上で立って、足元のほうから降りて行った。はぁ、どうにか見らずに済んだよ。できればもうぼくの上では着替えないでほしいな。ぼくは切実にそう思った。
2人は朝食を食べに行ったみたい。二人と使用人たちが出て行って静かになった。ぼくは使用人たちが出ていく前に整えられたから、きれいになってる。でも、整えられたせいで、さっきまで残ってた2人のぬくもりがなくなっちゃった。ベッドのマットレスになったからなのかわからないけど、ぼくはそれがさびしいなと感じてる。早くぼくを使ってくれないかな?みたいなことを考えてるようになったんだ。ものになるとそんなこと考えるようになるのかな?もしほんとだったらぼくはものを大事にしてあげたいな。以前のぼくならそんなこと考えなかったけど、今ではそう思うようになったよ。