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15.姉妹、おやつを食べて、本を読む 中編

『...そこでは様々な冒険があった。面白いこともあれば、大変なことも。僕はその時の冒険をみんなにも知ってほしくて、物語として残すことにした。』


「えっ、このほんのおはなしってほんとにあったことなのかな?おねえちゃん」

「うーん、そうなのかな?わたしもはじめてよむからわからないの。でも、もしほんとうだったらなにかにやくだつかもね」

「そうだね!どんなおはなしがあるの?」

「えっとね、『黒龍との戦い』と、『大けがしたときの救世主』と『パーティー結成』と...うーん、いっぱいあるね」

「そうなの?じゃあ、こくりゅうとのたたかいをよんで!」

 ぼくもマリーに読んでほしいな。違う世界のお話だよ。きっと面白いと思うんだ。ぼくがそう思って楽しみにしていると、マリーが本のページをめくる音を立てながら、お話を読み始めた。

「いいわよ。じゃあ、よむね...」


『僕が冒険者になってすぐの頃、滞在していたとある村に、恐ろしい黒龍が現れた。黒龍は強力な魔物の一体で、普通の人では討伐するどころか、殺されてしまう一方だ。そんな魔物が、突如としてこの村に現れてしまったんだ。』


「おねえちゃん、こくりゅうってなあに?」

メアリーは黒龍について何も知らないようだ。ぼくもよく知らないので、マリーの解説を聞くことにした。

「こくりゅうはね、とてもこわいまものなの。そんなまものがビリーのいるむらにきちゃたんだって」

「そうなの?こわいよぉ、ビリーはだいじょうぶかな?」

「それはね、つづきをよんでみないとわからないね。つづきをよむよ」


『そのとき僕は、食料の調達のために市場に出かけていた。商人とお客さんの声でにぎやかな通りを歩いているときに、急に空が暗くなったかと思うと、黒龍が空を飛んでいるのが視界に入った。それを見た村人たちは、一瞬静かになった後、騒然となった。「黒龍が出たぞ!早く逃げろ!」という野太いおじさんの声や「討伐隊はまだなの!?」という悲鳴のようなおばさんの声、「うぇーん、こわいよぉ」という子どもが泣きじゃくる声などがが聞こえてくる。みんなが大慌てで黒龍から逃げ惑う中、僕は静かに黒龍を見上げていた。いや、正確に言えば、僕は恐怖で体が動かせないでいた。だって、僕はまだ冒険者になったばかりのひよっこで、魔物の討伐経験もあまりない。あってもゴブリンとかスライムを倒したぐらいの初級冒険者だ。』


「ビリー、にげて!」

メアリーの慌てた声が聞こえた。きっとビリーが心配でしょうがなかったんだろうね。

そんなメアリーをマリーは「きっとだいじょうぶ、まだつづきがあるからきいてて」といって、続きを話し始めた。


『そんな僕が黒龍なんてすごい魔物を倒せるわけがない。ゆえに僕は黒龍から逃げようかと考えていたけど、そういうわけにはいかなくなってしまう。黒龍が急に空から降りてきて、僕の近くにある広場に降り立ったからだ。その広場には、逃げ遅れた村人たちがまだいた。まずい、このままじゃ村人たちが殺されてしまう。僕は慌ててその広場まで走って、黒龍の前に立ちふさがった。でも、僕には黒龍を倒す力なんて持ってない。いや、実は倒せるかもしれない特殊能力を持っている。でも、それは、僕の体を代償にしなければならない危険なものだった。だから、ぼくはためらってしまっていたけど、僕の後ろにいた女性がすがるような目で僕を見つめてきた。お腹の大きさ的に赤ちゃんがいるのかもしれない。その視線を受けると、僕は特殊能力を使うためらいがなくなった。何としても守らないと...ぼくはそんな決意をして黒龍と向き合う。黒龍は僕をじっと見つめたまま動かないが、僕がちょっとでも動いたら、飛び掛かってきて僕や後ろにいる村人たちを殺すだろう。僕は黒龍から目を離さずに特殊能力を使うために腰に下げている剣を黒龍に突き付けた』


 マリーはそこでお話を区切ると、お茶を飲む音が聞こえた。喋ってるとのどが乾くもんね。

 マリーが読むお話を聞いてると、臨場感あふれる雰囲気がしてぼくはワクワクした。ビリーはこの後どうなるのかな?ぼくがそんなことを考えてていると、メアリーも同じことを考えていたみたいで、マリーにこんなことを聞いていた。

「おねえちゃん、ビリーはどうなっちゃうの?」

「どうなるかな?つづきをよんでみようか」

 マリーがそう言うと、一呼吸した後、続きのお話を始めた。


『僕は黒龍に向かって剣を突き付けながら、「お前は僕と同じ数の命を持つ存在だ。ゆえにお前は僕が受けたダメージと等しい割合のダメージを受ける」と言って特殊能力の発現に必要な宣誓を行った。そのあと、僕は自分の腹を自分の剣でグサッと突き刺した。僕の特殊能力は相手へのダメージカウンター。レアな特殊能力だが、僕はこの特殊能力を使うときに僕自身の体を傷つけなければならない。だから、僕が黒龍を倒すためには、自分の体を剣で突き刺すしかなかったんだ。僕はお腹のあたりが焼けるような痛みを感じながら、ドサッと音を立てて倒れた。かすむ視界の中、黒龍も僕と同じように腹のあたりから血を流して倒れているのが見えた。ははっ、やったぞ!僕はもう長くないだろうけど、これで、討伐隊が来たら、確実に黒龍を倒してくれるだろうから、もう安心だ。僕は周りにいる村人が慌てて僕を助けようとしている声を聞きながら、意識が消えて行った。』


「このおはなしはこれでおしまいみたいね」

 まさかの展開でぼくはびっくりした。まさか主人公が初手で亡くなるとか、そんなのありなの?村人を助けて死ぬなんて、かっこいいけど、子どもが読むお話にしてはちょっとひどくない?マリーも読みながら、驚いた様子だったから、もしかしたら続きがあるのかな?ぼくが疑問に思ってると、メアリーがマリーに質問する声が聞こえてきた。

「おねえちゃん、ビリーしんじゃったの?」

 メアリーの声がとても悲しそうな声に聞こえる。ぼくもビリーが死んじゃってたら悲しいから、メアリーの気持ちには全面的に同意したい。

「うーん、このおはなしだけじゃわからないね。でも、きっといきてるとおもうよ」

「どうして?」

「それはね、ビリーのしてんでかかれたおはなしだから、ビリーがいきてないとこのおはなしはかけないとおもうの」

「そうなの?よかったぁ」

 マリーの推測を聞いて、ぼくもメアリーと同じように安堵した。そっか、確かにビリーが死んでたらこんなお話書かないもんね。じゃあ、続きがあるのかな?そう思うとぼくは続きが聞きたくなった。

「おねえちゃん、ほかのおはなしがききたい!」

「じゃあ、さっきのおはなしのつづきをよんであげるね。きっとビリーがたすかるとおもうから」

「うん、おねがい!」

 マリーは別のお話を音読し始めた。

「つぎのおはなしは、『大けがしたときの救世主』っておはなしだね。それじゃあ、よむよ...」


『ふと気が付くと、僕は視界になにかまぶしいものを感じた。何だろうって思って目を開くと、日の光が部屋の中に入ってきて、僕を照らしていた。あたりを見回すと、ちょっとした家具や水差しにかぶせられたコップ、今僕が使っているベッドが目に入ってきた。ここはどこだろう?さっきまで僕は黒龍と戦っていて、黒龍と相打ちして死んだと思ってたんだけど...教会の人が言ってた天国って世界なのだろうか?僕がぼんやりとした状態で部屋の中を見回していると、ズキンとお腹のあたりが痛んだ。自分の体に視線を移すと、お腹に包帯がぐるぐる巻きと巻かれているのが目に入った。どうやら誰かが手当てをしてくれたみたいだ。ということは、ここは診療所なのかな?』


「ビリーはたすかったんだ!よかったぁ」

メアリーが安心したような声で歓声を上げた。きっとビリーがどうなってしまうのかドキドキしてたんだろうね。マリーもそう思ってたようで、「ええ、そうね」と返事をしてた。ぼくも、ビリーが助かってよかったって思う。この後の展開はどうなるのかな?ぼくはマリーの音読に耳を傾けた。

「それじゃあ、つづきをよむね」


『そんなことを考えてたら、ドアの開く音が聞こえてきた。誰か知らない女性が部屋に入ってきたのを見て、僕はお医者さんが来たのかなって思った。あっ、そうだ、黒龍がどうなったのか聞いてみよう。

「ビリーさん、お目覚めですか?」

「はい、今さっき起きたところです。それより、黒龍はどうなりましたか?」

「ビリーさんのおかげで、討伐隊がそろう前に村の皆さんの手で倒されました。皆さん無事ですよ」

「そうですか、よかったぁ。僕の頑張りは無駄じゃなかったんですね」

 僕はお医者さんだと思う人からそのことを聞いて安心した。でも、その女性は僕の返事を聞いて全然安心したようには見えない。なにか気がかりなことでもあったのかな?

「ビリーさんが無事ではないじゃないですか!村の皆さんもビリーさんのことをとても心配してましたよ!」

 あ、僕が特殊能力を使ったことで心配をかけさせてしまったみたい。僕はちょっと申し訳なく思いながらも説明をした。

「僕のケガは、特殊能力を使った影響でそうなってしまったんです。普段は使いませんから、もう大丈夫ですよ」

「あれのどこがケガで済むんですか!ケガじゃなくて重症でしたよ!わたしが助けなければ死んでたかもしれないのに...」』


「おねえちゃん、とくしゅのうりょくって、つかうとケガしちゃうの?」

メアリーが不安そうにマリーに質問していた。メアリーは昨日から特殊能力について興味津々だったもんね。だから気になって質問したのかな?そんなメアリーの疑問に対して、マリーは安心させるかのようにこう答えた。

「メアリー、あんしんして。ビリーみたいにとくしゅのうりょくをつかうときに、ケガしないとつかえないっていうのは、めったにないものなの。ふつうは、あるとくていのこうどうをするとか、あることばをいうとかが、つかうときのじょうけんになるの。だから、メアリーがとくしゅのうりょくにめざめても、けがをしないとつかえないってことはないよ」

へぇ、そうなのか。特殊能力を使うときにも、何か行動をしないといけないんだね。ぼくは特殊能力について、ちょっと理解を深めることができた。

「そうなんだ。よかったあ」

メアリーはちょっと安心したようで、お話の続きを聞くことにしたみたい。「つづきよんで」ってマリーにお願いしていた。マリーは「いいわよ、それじゃあよむね」と言って続きを読み始めた。


『僕が特殊能力のことを話したら余計怒られた。僕、ちゃんと弁解したんだけどなぁ。あと、この女性が僕を助けてくれたんだ。ぼくにとっての救世主だね。感謝しなくちゃ。僕はそう思ったので、お医者さんにお礼を伝えることにした。

「大けがした僕を助けてくれてありがとうございます。おかげで、ぴんぴんと元気になりました」

 僕は元気になったよってアピールするために両腕をぐるんぐるんと回して力こぶを作ろうとした。でも、途中でお腹の痛みが走って、思わず「痛っ」って声が出た。

「そんなことを言って、まだ全然回復してないじゃないですか...ちょっとお腹の部分をみせてくださいね」

 ぼくは特に断る理由もないので、素直にそうした。すると、その女性が手をぼくのお腹に当ててから「ヒーリング」と唱えると、僕のお腹の痛みはほとんどなくなった。ぼくは思わずその人を2度見した。この人は、世界でもほんの一握りの人しか使えない、回復魔法が使える特殊能力を持ってるのか。お腹に巻かれた包帯を取ってみると、傷口がほとんどふさがっていた。僕はびっくりして、その人に感謝することにした。』


「おねえちゃん、かいふくまほうってなに?」

メアリーは回復魔法を知らないみたい。特殊能力で魔法が使える世界だったら、回復魔法ってそんなにマイナーなものじゃないと思うけどなぁ。ぼくはそう思ったけど、マリーは丁寧に解説してくれた。

「それはね、けがとかしちゃったときにかいふくまほうをつかうと、きずがなくなって、いたくなくなるんだよ」

「そうなの?すごいね!」

「でもね、かいふくまほうがつかえるとくしゅのうりょくをもったひとは、ほとんどいないの。だから、わたしもかいふくまほうがつかえるとくしゅのうりょくのひとには、あったことがないし、みたことがないの」

「そうなの?いつかわたしもみてみたいなぁ」

「そうね、わたしもみてみたいわ」

へぇ、回復魔法が使える特殊能力を持った人は少ないんだね。だから、メアリーは存在自体知らなかったのかな?そんなことを考えていたら、マリーが「つづきをよむね」と言ってお話の続きを読み始めた。


『「ありがとうございます。おかげさまでだいぶんケガの痛みが良くなりました」

「皆さんを助けていただいたお礼です。気にしないでください」

 その人はちょっと嬉しそうに答えてくれた。でも、僕はその人の名前を知らないことに気づいた。

「あの、お名前はなんて言いますか?」

「マゼルダです。ここの教会で治癒術士として働いていました。」

 えっ、ここって教会だったの?僕は診療所と思ってたのでびっくりした。あと、マゼルダさんは治癒術士として働いていたって言ったけど、もうやめちゃったってこと?僕がびっくりしてるのが表情に現れてたのか、ふふって笑った後、こんなことを言ってきた。

「今はビリーさんのパーティメンバーとして活動しています」

 そう言ってニコッと笑ったマゼルダさんを見て、僕は唖然とした。いったい何がどうなってマゼルダさんが僕の仲間に?僕がそんな困惑をしてるさなかで、マゼルダさんは「これからよろしくお願いします。リーダー」と言ってきた』


「おねえちゃん、マゼルダさんってひとが、ビリーのおともだちになるの?」

「ううん、パーティーだから、ビリーのなかまになったんだよ」

「そうなの?すごいね!おはなしきいてておもしろかった」

ぼくはお話が急展開すぎてびっくりしちゃた。でも、メアリーと同じように面白いなって思った。それに、この世界の常識みたいなのも少し聞けるから、もっとお話を聞きたくなった。マリー、続きを読んでくれるかな?ぼくはちょっと期待しながら姉妹の会話に耳を傾けた。

思った以上に長くなってしまいました。改稿したら余計に...

改稿前とはちょっと違う内容になっていますが、今後の展開を考えるとこうなりました。ご容赦ください。

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