7.部屋の主、お昼寝する
ぼくは少しの間、誰もいない部屋の中にいた。姉妹が昼食を食べに行っているからだ。そんなときに思うのは、寂しいなぁとか、誰かに相手にしてほしいなぁとかそういった思いだ。ぼくは寂しがり屋だったのかな?ベッドに変身させられる前はそんなことなかったんだけど。ものになったから使ってくれないと寂しく感じるようになったのかな...理由がそうかもしれないとわかっても、ぼくの寂しさは消えない。だからぼくは、あえて違うことを考えることにした。
例えば、元の世界にはどうやったら戻れるのか?そしてどうやったら人間の姿に戻れるのか?といったことだ。
とはいってもどちらも手掛かりなんてなんもない。さっき初めて聞いた"特殊能力"というワードが何かしらのヒントかもしれないけど、情報が少なすぎて何もわからなかった。他に何か手掛かりになりそうなものはないかな?ぼくは声は出ないけどうんうん唸りながら考えてたら、ドアの音が聞こえてきた。姉妹が部屋に戻ってきたみたい。
「おいしかったわね、メアリー」
「うん!わたしシチューだいすき!またたべたいね」
「お嬢様方、喜んでいただけてよかったです。この後はどうされますか?」
「へやのなかでゆっくりすごすわ。とくによていはないからあさとおなじかんじでおねがい」
「かしこまりました。なにかありましたらベルでお呼びくださいね」
ドアの音が聞こえてきたから使用人の人が退室したみたい。2人はシチュー食べたんだね。シチューっておいしいよね。ぼくも大好きなんだよ。人間に戻れたら食べたいなぁ。ところで2人はどんな遊びをするのかな?
「ねえねえ、おねえちゃん、おえかきがしたい」
「いいわよ、おえかきセットを持って机でするわよ」
「うん、わかった」
お絵かきするんだね。2人はどんな絵をかくのかな?ぼくは2人が絵を描いてる音を聞きながら気になったので、会話に耳を傾けることにした。
「ふんふんふーん、おねえちゃん、これ、なんでしょー?」
「うーん、ねこのえ?」
「ぶっぶー、ちがうよ」
「じゃあ、くまのえ?」
「ざんねーん。ヒントはね、えっと、しろくろのどうぶつ」
うーん、猫みたいで熊みたいな白黒の動物って...パンダかな?もしかしてこの世界にもいるのかな?
「うーん、もしかしてパンダ?」
「せーかい。おねえちゃんはどうぶつあてるのにがて?」
「いいえ、メアリーのえがわかりにくくてむずかしかったの」
「えーっ!わたしえがへたなの?」
「まだまだうまいとはいえないわね。れんしゅうしよう、メアリー」
「うん、がんばる!」
メアリーは絵がうまく描けないんだね。どんな絵かはわからないけど、大きくなったら上手くなるんじゃないのかな?ぼくはそう思った。あっ、マリーはどんな絵を描いてたんだろ?
「おねえちゃんはなんのえをかいてたの?」
「わたしはね、じゃじゃーん。こんなえをかいてたの」
「うわぁ、すごいね。おねえちゃんのがっきだぁ。なんでおねえちゃんはそんなにうまいの?」
「それはね、えのせんせいにえのかきかたをおしえてもらったの。メアリーももうちょっとおおきくなったらおしえられるわよ」
「そうなんだぁ。でも、わたしもできるようになりたい!いまおしえて、おねえちゃん!」
「いいわよ。じゃあ、ここをこうやってー...」
マリーのお絵かき講座が始まった。ほんとマリーはすごいなぁ。いろんなことができるからいっぱい勉強したんだろうなぁ。そう考えるとぼくはマリーを尊敬したいと思った。
それにメアリーも頑張って新しいことに挑戦してる様子を想像すると、微笑ましくなる。頑張れって応援したくなるよね。だからぼくはメアリーの応援も心の中でしてた。
少し時間がたったころ、マリーのお絵かき講座は突然おわった。メアリーが眠くなってしまったからだ。
「おねえちゃん、ねむたくなっちゃった」
「わたしも...おひるねにしよっか?メアリー」
「うん」
2人はそのように会話すると、ぼくの上に戻ってきた。メアリーがちょっとふらふらしながら乗ってきて、後ろからマリーによって支えられてた。ぼくはメアリーが倒れないように、メアリーの足をしっかり支えてあげた。マリーはまだ元気そう。しっかりした足取りで、メアリーと一緒にぼくに乗ってきた。さりげなくメアリーを支えながらベッドで寝る準備をするマリーは、本当に面倒見のいいお姉ちゃんだよね。ぼくもこんなお姉ちゃんがいてほしいなぁ。
ちょっとするとメアリーは眠ってしまった。小さくスピー、スピーと呼吸しながら口元をもぞもぞさせてる。今はぼくがメアリーの夢を想像してないから、どんな夢を見てるんだろうね?いっぱい寝て元気になってほしいな。ぼくはそんなことを思いながらメアリーを見てた。
マリーはそんなメアリーを横になったまま見てた。マリーはメアリーの寝顔を見て幸せそうに笑ってた。きっとマリーにとって、メアリーの幸せがうれしいんだと思う。そんなマリーもそのまま寝ちゃった。ぼくは幸せそうな姉妹の関係を見ててうらやましい気持ちになった。ぼくもこの姉妹の中に混ざりたいなぁって。でも、ぼくはベッドで、人間じゃないから、物としてしか扱ってくれない。姉妹に混ざることなんて夢のまた夢だ。そう考えるとぼくは寂しい気持ちになった。今は姉妹がぼくの上で寝てたり、遊んでくれるから、温かくて幸せな気持ちになれるけど、姉妹がぼくから離れたらそうはならない。もし、もう人間に戻れなくなってしまったとしたら、だれにも使われないベッドとして過ごすしかないのかな。一番は人間に戻ることだけど、そうなってしまったらほんとに嫌だな。せめて姉妹に使われたいよ。ぼくはそんな思いを抱きながら姉妹の体をベッドとして支えていた。