6.部屋の主、部屋の中で遊ぶ 後編
「じゃあ、いまからジャーマンポテトをつくるわよ」
「やったー!わたしがだいすきなごはんだぁ!」
へぇ、ジャーマンポテトを作るんだね。ぼくもその料理好きだなぁ。チーズがかかってると美味しいんだよね。うぅ、想像したら食べたくなってきちゃった。でもぼくは今ベッドになってるから食べれないよぉ。ぼくはそのことが悲しくなったけど、ぼくにはどうしようもできないから諦めるしかなかった。とりあえず、ぼくの上で遊んでる姉妹を見て癒されよう。そう考えてぼくは再び姉妹の様子と会話に耳を傾けた。
「まず、ジャガイモをおなべにいれて、いためるの。あっ、ちょっとまっててね」
マリーはそう言うと、一度ぼくの上で立ち上がってぼくの足元のところまで走ると、ベッドから降りて行った。何かを取りに行ったみたい。なんだろなぁ。あっ、もしかして調理道具がないのかな?
ぼくの予想は合っていたみたいで、少ししたらマリーが何かを持ってぼくの上に戻ってきた。今度はぼくに乗る前に立ち止まらなかったみたいで、ぼくの足元の方から急に足が出てきてそのまま乗ってきた。ちょっと慌てていたのかな?マリーもうっかりさんなところがあるんだね。ぼくはマリーにちょっと親近感がわいた。ちなみにマリーが手に持っていたものは、ちょっと大きめのかごと、なぜか木べらを持ってた。なんで木べらだけ本物?ぼくは謎に思ったけど、何か理由があるのかもしれないって思って気にするのをやめた。
「おなべと木べらをわすれてたからとってきたわ。つづきをするわよ」
「うん、わかった!」
マリーはさっき机に見立てていた枕の上に鍋{大きめのかご}を置くと、説明を始めた。
「まずはこのおなべにジャガイモをいれていためるの。すこししたらたまねぎをいれてね」
「うん。まぜまぜ~ころんころん」
「ぷっ、メアリーはなにをいってるの?」
「まぜまぜのうた。こうしてるとうまくできそうなの」
「いいわね、メアリー、そのちょうしでつづけましょうか」
うわぁ、メアリーがかわいすぎる。ほんとは天使だったりして。姉妹の会話を聞いてると面白くて楽しい気分になるね。ぼくはこの姉妹のベッドになれてよかったかもしれない。そんなことすら考えるようになっていた。
「うまくまざったよ!おねえちゃん、つぎはなにするの?」
「どれどれ、ほんとだわ。じょうずにできてるわね。つぎはね、おにくをいれるの」
「おにく!おいしいおにく!」
「そうわね。でも、おにくをちゃんとやかないと、おなかをこわしちゃうから、ちゃんとやいてね」
「うん!ちゃんとやくね」
メアリーはそう言うと、上手に鍋の中身を混ぜ始めた。メアリーが木べらで鍋の中身を混ぜるたびに、中に入ってるものがゴツンゴツン音を立ててる。最初はぎこちない手つきだったけど、だんだん上手になっているのを見ると、メアリーの成長を感じた。そのうち本当にお料理できるようになるんじゃないのかな?ぼくはそんなことを思ってた。
「メアリー、いい感じよ。そろそろできたかしら?」
「わかんない。あじみしてもいい?」
「いいわよ。おあじはどうかしら?」
マリーがそう言うと、メアリーはお鍋の中身を手でつかんで、口元で食べるふりをした。なんかうさぎさんみたいだ。
「おいしい!うまくできたよ。おねえちゃん」
「よかったわ。おいしくできてなによりね」
「おねえちゃんもたべてみて。おいしいから」
「わかったわ。モグモグ、あら、ほんとだ。おいしいね。じょうずにできてるわ」
「やったー!おねえちゃんにほめてもらえたぁ。うれしい!」
メアリーがそう言うと、満面の笑みでお姉ちゃんに抱き着いた。マリーはメアリーの突然の行動についていけず、メアリーに押し倒された。でも、マリーはメアリーを邪険にせず、しばらくギューっとくっついてた。実はマリーも甘えん坊さんなのかな?姉妹のスキンシップが多いから、ぼくはそうなのかもしれないと思った。でも、ぼくは2人がそのままでもいいかなって思う。だってどっちもかわいいから。そんな二人をぼくは優しく下から受け止めていた。
そのままの体勢で10秒ぐらいたったころ、メアリーがマリーに抱き着いたままお願いをしていた。
「おねえちゃん、きょうのあさ、わたしのいうことをなんでもひとつきいてくれるっていってたよね?そのおねがいをしてもいい?」
「いいわよ。どんなおねがいをしたいの?」
「えっと、わたしのダンスをみてほしいの。おねえちゃんはきのう、タイミングがわるくてみれなかったから」
メアリーがそう言うと、マリーはおどろいて、びっくりした後、すごくうれしそうな顔になった。ぼくもメアリーがこんなお願いをするとは思ってなかったからびっくりだ。それだけメアリーはお姉ちゃんにダンスを見てほしかったのかな?そう思うとメアリーの健気さにぼくは感動した。
「もちろん!みせてほしいわ。おねがいね、メアリー」
「うん、おねえちゃんがよろこぶダンスをするね!」
「じゃあ、ステージはここにしようかしら。どうせならしようにんもよんだほうがメアリーもよろこぶよね?...そうとなったらじゅんびするわよ!メアリー、まずはおかたづけしましょう」
「わかった。おかたづけする」
マリーがそう決めると、2人はお片付けを始めた。マリーが鍋{大きめのかご}と木べらと包丁{剣の形をした木のおもちゃ}を、マリーがまな板{大きい絵本}と材料{木の積み木}をそれぞれ手にもって、ぼくの上から降りて行った。きっと、元の場所に戻してるんだね。ぼくは2人がちゃんとお片付けしてる音を聞いてえらいなぁって思った。ぼくとか、自分から片付けようとしたことがなかったからね。ぼくが人間に戻れたら、2人を見習おうと思った。
片づけが終わったみたいで、さっきまでガタガタしてた音が聞こえなくなった。そしたら今度はベルの音がした。あっ、使用人を呼んだのかな?きっとマリーはメアリーのダンスを自慢したいんだと思う。少しすると使用人が部屋の中に入ってきたみたい。マリーと使用人の話し声が聞こえてきた。
「いまからメアリーがダンスをおどるから、ステージのじゅんびをおねがいするわ」
「マリー様、メアリー様はどこでダンスを踊られるのですか?」
「わたしとメアリーのベッド。ちょうどたかさがあるし、ちかくにテーブルとイスがあるから、ステージにちょうどいいとおもうの」
「かしこまりました。昼間ですがシャンデリアに火はつけられますか?」
「もちろん!そっちのほうがメアリーのダンスがよくみえるもの」
あっ、ぼくがステージになるんだね。ってことはメアリーのダンスが見れるんじゃない?そう考えるとぼくはテンションが上がってきた。唯一残念なのは、ぼくの視界がベッドマットレスの真上しかないから、メアリーのダンスを下から見るしかないんだよね。下からだと、ちょっとメアリーのダンスが見ずらいだろうだけど、他に見れる方法がないから仕方ないよね。あと、シャンデリアの火をつけるって言ってたから、火をつけるところが見られるね。どんな風にシャンデリアに火をつけるんだろう?
そんなことを思ってると、突然シャンデリアに火が付いた。えっ?どうやって火をつけたの?シャンデリアに誰も触ってないよね?手品みたいに火が付いたからびっくりした。もしかして魔法だったりするのかな?ぼくもあんなことできたりするのかな?もしできたらすごいよね。だれがシャンデリアにどうやって火をつけたんだろう。教えてほしいなぁ。
そんなことを考えていたら、マリーと使用人の会話が聞こえてきた。
「いつもありがとう。いつみてもおもうけど、あなたのとくしゅのうりょくはすごいわね」
「滅相もございません。お嬢様。そのうち、お嬢様にも何かの特殊能力が現れるはずです。きっとすごい能力だと思われます」
「そんなことないわ。わたしはただのこどもなんだから。でも、いつかそういうのうりょくがあらわれるといいなぁ」
「心配せずとも、きっとそうなられますよ。応援しております」
へぇ、特殊能力で使用人が火をつけたんだぁ。って特殊能力?この世界ってそんなファンタジーな世界だったんだ。いままでそんなもの見たことがなかったから知らなかったなぁ。もしかしたらぼくも持っていたりして...あっ、でもぼく人間じゃないから何もないかもなぁ。そう考えるとちょっと落ち込んだ。
そんな状態のぼくを、使用人たちはメアリーのステージとして使えるように整えていった。布団と枕はどかされ、シーツは新しいのに付け替えられて、シーツの上にはちょっと厚めのマットが敷かれた。相変わらずぼくの視界は防がれない。不思議だなぁ。たぶん上から見ると、舞台みたいに見えるのかもしれないね。用意もすぐに終わったみたいで、使用人たちはマリーに声をかけていた。
「マリー様、準備が整いました」
「そう、じゃあ、いまおうちにいるしようにんをぜんいんあつめてきて。みんなにみせてあげたいの」
「かしこまりました。少々お時間をくださいませ」
使用人はそう言うと、何人かが部屋の外に出て行ったようだ。メアリーは緊張しないのかな?
「メアリー、じゅんびはできた?」
「うん!ちょっときんちょうするけど、たのしみにしてて!」
心配しなくてもメアリーは大丈夫みたい。ぼくもメアリーのダンスは楽しみだから、早く見てみたいな。どんなダンスをするのかな?
少し時間がたつと、使用人たちが全員集まったようだ。今までで一番多くの足音や声が聞こえる。「メアリーお嬢様がダンスを披露するんですって」とか「ご両親がご不在なのが残念でなりませんね」とかそういったひそひそ声が聞こえてきた。使用人たちも楽しみにしてるみたい。そんな期待に満ちた中で、マリーがしゃべり始めた。
「きゅうでごめんなさい。でも、しようにんたちにどうしてもみてほしいのがあったの。メアリーがダンスをひろうしてくれるわ。たいかいではにゅうしょうできなかったけど、ここはわがやだから、うまくできなくてもメアリーをほめてほしいの。みんないいかしら?」
「もちろんです。メアリーお嬢様の頑張りを私たちが否定するはずがありません。ちゃんと応援いたしますよ」
「おねえちゃん、しようにんのみんな、わたしそんなにへたじゃないもん。ちゃんとおどれるところをみせてあげる」
「がんばってね、メアリー。応援してるわ」
「うん!わたしがんばるよ。おねえちゃん、しようにんのみんな」
メアリーがそう言うと、場の雰囲気が優しいものになった。見守るような感じで、みんなメアリーを見てるみたい。メアリーがぼくに近づいてくる足音が聞こえたかと思うと、いつも通り、ぼくの足元からぼくに乗ってきた。服装は朝のお着換えで着てた、少し丈の短いピンクのワンピースのままだった。ステージって言うぐらいだから、ぼくは靴のまま乗られるかもしれないって覚悟をしてたけど、メアリーはちゃんと靴を脱いで乗ってくれた。すこし気になったのは、マリーとメアリーがぼくに乗るとき、いつもはだしで乗ってくるけど、靴下を履いたりはしないのかな?何かの物語で、高貴な人は靴下を履かないとはしたないって言う内容を見たことがあるんだけど、世界が違うからそういった常識とかも違うのかな?
ぼくがそんな考えをしてる間に、メアリーはぼくの真ん中でしゃがんだ。ダンスを始めるみたい。急にどこからか音楽が聞こえてきたのでびっくりしてると、メアリーがダンスを始めた。とはいってもそんなに難しいことはまだできないみたいで、ぼくの上で跳ねたり、体をゆらゆらさせたり、手を上に伸ばして腰をふりふりしたり、両手を広げてくるくる回ったりするぐらいだった。でも、踊ってるところをみてるとやっぱりかわいい。小さい子特有のはにかみ笑みで、音楽に合わせてつたないダンスを踊ってる姿を見た、マリーや使用人たちは「はぁ」とか「ふぅ」とか言って嬉しそうにしてるみたい。やっぱりメアリーは天使だと思うなぁ。ぼくはそんなことを思った。
やがてメアリーのダンスが終わると、メアリー以外のみんなから拍手が起こった。それを聞いたメアリーは「うぅ」と恥ずかしくて照れたみたいで、ぼくの上から歩いて降りると、お姉ちゃんのところに走って行ったみたい。またギューってしに行ったのかもね。そんな姉妹の様子を想像してたら、使用人たちから感想を言われているのが聞こえてきた。
「メアリー様、とてもお上手でかわいらしかったですよ。また今度見せてくださいね」
「メアリー様、とても頑張られましたね。見ていて楽しかったです」
「しようにんのみんな、ありがとう!おねえちゃんはどうおもった?」
「そうね、メアリーがじょうずにおどれていてびっくりしたわ。よくできたわね!」
「わーい!おねえちゃんがほめてくれた!うれしい!ありがとう」
ぼくはそんな姉妹の話し声を聞いてて、胸が暖かくなった。こんなに仲のいい姉妹もなかなかいないんじゃないかな?勝手な想像だけどそんな気がするなぁ。だからぼくはこの姉妹に使われることが少し誇りに思えた。
「お嬢様方、お昼ご飯の時間です。食堂へ向かいましょう」
「はーい。行こう、メアリー」
「うん、おねえちゃん」
あっ、もうそんな時間なんだね。2人と過ごすと時間があっという間に感じてしまうなぁ。そんなことを思いながらぼくは姉妹が部屋を出ていく音を聞いていた。使用人たちは部屋の片づけとかしてくれていたみたいで、ぼくの上にあったものも元の状態に戻った。ぼくは使用人の人に感謝をしながらも、2人がまた使ってくれるといいなぁと思ってた。
どうにか後編で納めることができました。長くなりすぎないでよかったぁ...
ダンスの下りについては作者の知識不足で全然うまく書けてません。
本当はもうちょっと細かく書けたらよかったんですけど、、、
機会があったら勉強してみたいと思います。