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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一対多世界解釈

作者: 空見タイガ

 電話にでんわ~と素通りしようとした途端に紙袋の底が破けそうになって慌ててリュックサックに紙袋ごと収め終わったあともすぐそばの公衆電話が鳴り続けていたのでしぶしぶと受話器を上げてみた。

「オレ、オレだよ、オレ」

「ままま、間に合っています」

「そう、間に合った! オレは未来のおまえだよ」

 きょろきょろ。向かいの歩道では学校帰りの女生徒たちが縦一列に並んで歩いている。街路樹の葉っぱもみどり。アスファルトに落ちる影はまだまだ濃い、夏の夕方の風景である。

「あのう、どちらさまですか」

「トキヤスだよ、トキヤス!」

「トキヤスは僕の名前です」

「そりゃそうだよ。オレはおまえだもん」

「で、でも一人称が違います。僕はオレなんて言うタイプじゃありません。解釈違いです」

「高校デビューでオレはオレになったんだよ」

「僕は高校デビューをするタイプじゃありません。解釈違いです」

「変わる出来事があったんだよ。ヒロトのことで」

 手に持っていた受話器をぐっと握って耳に押しつけた。

「も、もしかして、これからヒロトが危ない目に遭うから、その未来を変えるために電話してきたんですか」

「マァ、カンタンに言うとそうなるわな」

 ヒロトに何かが起きると、僕は高校デビューをして一人称をオレにするんだ。ごくっとツバをのんだ。受話器からもツバをのむ音が聞こえた。誤嚥のむせびも聞こえた。

「ヒロトんちに行ってマンガを返しに行くんだろ。そこでおまえの運命がガラっと変わる転換点がやってくる」

「僕の運命のテン・寒天……」

「部屋に入ってマンガを返したあと、おまえはヒロトの勉強机に備え付けの回転椅子に座り、ぐるぐると椅子を回転させながら、ベッドに寝転がって漫画を読み返しているヒロトの尻を盗み見る。それで……」

「尻なんか見ないよ」

「見るんだよ! それでヒロトがおまえの視線に気づいてしまう。おまえはヒロトに気づかれたことに気づいて動揺して足を机の脚にぶつけ、椅子はヒロトの真正面を向いた状態で静止する」

「ダサすぎる」

「長い沈黙を破ってヒロトが言う。『なあ、なんかおれのことえっちな目で見てない?』と」

「うわあああ」

「そこで『はい、えっちな目で見ています』と答えなさい」

 無意識のうちに受話器を元の位置に戻しそうになったが、はっと気づいて事なきを得た。ふたたび受話器を耳に押し当て、慎重に相手の話を聞き取る。

「そこで『はい、えっちな目で見ています』と答えなさい」

「だめだ、意味わかんない!」

「素直に従え。でなきゃ、ずっと後悔するぞ」

「ヒ、ヒロトは幼稚園からの幼馴染で、尻なんか見たくもないし、え、え、えええええっちな目でなんか一度も見たことないのに、なんで後悔するんですか」

「じつはえっちな目で見ていたからだ」

「見てないってば!」

「反射的に『見てないってば!』と答えたオレに『ならいいけど』とヒロトは返して、何事もなかったかのようにその日は解散した。それからも美しき友情は続き、ヒロトが大学で知り合った女と結婚して就職で遠方に引っ越しするまでは仲良くやっていた」

「するまではって……もしかしてヒロトの身に何か?」

「ヒロトの質問に答えたあの日からずっと後悔していたオレは大学受験を失敗し、就活に失敗し、金がないので遠くにいるヒロトの家まで遊びにも行けずに、そしてヒロトから家族の話を聞くたびに失われた可能性が鮮明に思い浮かんで苦しいので、疎遠になった」

「べつにヒロトに『えっちな目で見ている』と伝えても受験と就職に失敗して金に困る未来は変わらないよ」

「おまえはそれでいいのか」

「よくないよ!」

「そうだ、よくない。未来は自分の意志で変わるんだと信じなければ希望はない」

 過去の自分に意志を伝えて未来を変えるやつがいるかよ。丁重に断ろうとしたが、電話の先で「シクシク、シクシク」とハッキリとした発声の泣き真似が聞こえてきた。

「もし、あのとき、自分の本心に気づいて素直に伝えていれば……ぶかぶかの体操服を着たヒロトがベッドに仰向けになって恥じらいながら開脚する姿を好きなだけ見られる未来があったかもしれない」

「もう切ります、永久にさようなら」

「ああああああ同じ中学のオシマが三ヶ月後にヒョロヒョロと走るじいさんの自転車に後ろからはねられて打ち所が悪くて死ぬから助けてやれええええ」

 受話器を置いて、ふたたび周囲を見回した。何者かが僕の反応を窺っている、わけでもなさそうだ。よし、すべてを忘れてヒロトの家に向かうぞと思ったと同時に公衆電話が鳴った。

 ヒロトとオシマくん以外にも伝えるべき事項があったのかもしれない。この電話を無視して未来にとんでもないことが起きたら……しぶしぶと受話器を持ち上げて「今度は何ですか」と聞いたら「もちもちぃ」と返ってきた。

「ボク、ボクだよ、ボクボク」

「なんでさっきと一人称が変わってるんですか」

「さっきぃ? ボクが電話を掛けるのは今回がはじめましてだよーん、むかしのトキヤスくん」

 なにこれ。

「もしかして、過去の後悔から口調と性格が変わった未来の僕ですか」

「察しいいねえ、そうなのよお、これから起こる悲惨な出来事を防ぐためにお電話を差し上げたのよ」

「ヒロトの質問に『えっちな目で見ています』と答えなかったから人生がおかしくなったとか言うんでしょどうせ!」

 話を早く終わらせようと語調を荒らげると、電話の先で「ぐすん、ぐすん」とハッキリとした発声の泣き真似が聞こえてきた。

「違う、違うのよお。ボクはあの日、つまりむかしのトキヤスくんにとっての今日、ヒロトちゃんに『えっちな目で見ています』と答えたの。そしたらものすんんんごく冷たい目で見られて、『もう近寄らないでくれ』と言われて疎遠になったの」

「疎遠になる日が早まっただけだった!」

 未来の僕を名乗るボクは不思議そうに「ン?」と反応したが、そのまま話し続けた。 

「ボクは後悔に後悔を重ね、自暴自棄になり、高校受験も失敗して中退、高校を中退した子どもを積極的に受け入れてくれる職業で身をやつし、もうボンロボロで夢も希望もなかったの」

「告白ルートのほうが悲惨な目に遭ってる……」

「お願い。えっちな目で見ているかどうかヒロトに聞かれたら、『友だちをえっちな目で見るわけないだろ!』と大声で怒鳴りかえして友情をアピールしてほっしいの」

「必死にアピールする時点で友情以外のものが先行している感あるから。そもそもなんで『えっちな目で見ています』なんて言ったんです。えっちな目で見てなかったでしょ!」

「魔が差したというか……ここで欲望を全開にすればビキニ姿のヒロトとツ――」

「もう切ります、永久にさようなら」 

「きゃああああああ同じ中学のオシマちゃんが半年後にご近所のお子さんが誤ってマンション高層階のベランダから落としたおもちゃで頭をぶつけてお亡くなりになるから注意しなさああああい」

 受話器を置いて、よし、すぐさまヒロトの家に向かうぞと思ったと同時に電話が鳴った。

「嘘つきめ」

 僕が先手の嘘つきを放ると、「ヒュッ」と受話器から聞こえた。

「かつての僕って電話をとるたびに相手を罵倒する習慣があったんだっけ」

「未来の僕だろ? ヒロトの質問にうまく答えられなかったから後悔で受験も就活も失敗してお金がないんだってな」

「すごいすごい、その予知能力があればもっと上手に生きられただろうに」

「そんな人生の落伍者がどうして未来から過去に電話できるんだ? 大金を積んでも未来に情報を送りたいやつなんて山ほどいるはずだ」

 いらだちから挑発してみると、電話の先で「ククク」とハッキリとした発声の笑い声が聞こえてきた。

「かんたんな話だよ。後ろ向きに前進する謎の生命体、ナカノがありとあらゆる工作をしかけて設立したナカノ・タイムズ・トランスポート社が斜め後ろにつながる電話網を用意して過去と未来を結んだんだ。この新技術が社会にどのような混乱を与えるのか不明瞭で、まだ実用には至っていないけどね。インターネットを通して不特定多数を相手に未来情報を送信する実験もしていたんだけど、陰謀論や絶対に当たらない予言扱いされて信じてもらえないし、そっちの時代だと検索妨害やボットが流行しているせいで、そもそもメッセージを読んでもらえないんだよ。で、ナカノが踏切を横断する途中で誤って前向きに後進してずっこけたときに助けた僕が素直で実直な若者の代表として被験者に選ばれて、過去の自分にコンタクトをとることが許されたんだ」

 いちど目を閉じて、深呼吸をして、情報を整理して、目をかっと開いた。

「よくわかんなかったです」

「そうなんだよね、未来のスケールが大きすぎるせいで過去にそっくりそのまま伝達できないんだよ。どんなに正確な情報を持っていても、伝えるときに欠落してしまうものがある。今の君がどうしてそんなに怒っているのか僕は覚えていないからわからないけど、きっと君が言っている嘘つきも嘘をつくつもりはなかったんだよ。伝えたいことを伝えようと思って急いだら、情報が抜け落ちてしまっただけで」

 相槌を打ちながら考えた。この未来の自分がいちばん理性的でまともっぽいし、こいつの意見を尊重してみよう。

「で、未来の僕はどうして後悔しているの?」

「うん、僕はね。『なあ、なんかおれのことえっちな目で見てない?』と聞かれて、一瞬だけ黙ってしまったんだ。もちろん否定したんだけど、その沈黙が僕たちのあいだに何か煮え切らない感情を残してしまったらしくてね。彼の結婚式で友人代表のスピーチを任せられるほどに親しく付き合ってきたけど、二人でいるとき、ちょっと気まずくなる瞬間があるんだ」

「ちょっと気まずいぐらいでよかったですよ。本当のことを伝えたらヒロトに拒絶されていましたよ」

 ぐすっぐすっ……今度は泣き真似ではなさそうだった。

「でも、思うんだ。こんなに気まずい感じになったのは、その、ヒロトは僕に気があったんじゃないかって。もし、僕があのとき、迷わずに違う回答をしていたら、今ごろヒロトのチンチ――」

「もう切ります、永久にさようなら」  

「ぬあああああああ同じ中学のオシマ君が五年後に階段の下から四段目で転んで打ち所が悪くて亡くなるから阻止してくれえええええええ」

 受話器を置いて、耳を塞いで、走って、気づいたときにはヒロトんちの前にいた。

 呼び鈴を鳴らすとヒロトが現れた。彼は制服から着替えていて、ふつうのTシャツに短いパンツを穿いていた。いつもどおりの、ふだんどおりの幼馴染の部屋着だ。

「道草はおいしかったかね」

「マジまじかった」

 ヒロトの後ろについて彼の部屋に入った。バタンと扉を閉めたあとに、閉めなきゃよかったと気づいたが、もう密室だ。

「もう密室だ!」

「開けられるだろ」

 リュックサックから取り出した紙袋をそっと床に置くと、ヒロトはそそくさと紙袋を奪った。彼は取り出した漫画の一冊を天井の照明にかざして検分したのち、ベッドにダイブして漫画をぺらぺらと読み始めた。ふだんはそんなに読み返さないのに手元に返ってきたら読み返したくなるあの現象だ。

 勉強机に備え付けの回転椅子に座って、ベッドでうつ伏せになったヒロトがバタ……バタ……と片足ごとに膝から下を上げたり下げたりする緩慢な動きを眺める。平和の象徴だ。このゆるいバタバタを保存して心が乱れたときに見返したい。人は単純な繰り返しを見るだけで楽しくなり退屈になり眠たくなり安らげるんだ。けっして尻を見ているわけではない。

 ちっともまったくこれっぽっちも凝視してない。

 しばらく経った。ヒロトは「うーん」と言いながら体勢を変えて仰向けになった。細い腕を頭上に伸ばして漫画を読んでいる。関節がかわいい。しばらく見つめているとヒロトがちらりとこちらを見た。

 ここからが未来の分岐点だ。いったいどうするべきだろう。ヒロトへの欲望を否定するか、肯定するか、曖昧にごまかすか――ヒロトは眉間にしわを寄せて言った。

「もう帰れよ」

 あれ?

「用は済んだだろ」

「済んでないよ」

 ヒロトは「うんしょ」と言いながら体勢を変えてベッドの上であぐらをかいた。椅子に座っている僕をまっすぐ見上げて。

「早く帰って宿題をしたまえよ。この前の試験の結果も悪かったんだってな。おまえの母さんが言ってたってうちの母さんが言ってたぜ。このまま分からないところを放置すると、あとで取り返しのつかないことになるぞ。高校入試では内申点も見られるし――」

 何なんだこれは。未来からの電話を取って到着が遅れてしまったせいか? 未来の展開に備えていつもより大人しくしていたせいか? そもそも未来を知ってしまったのがまずかったのか? 僕は予期していなかった衝撃に振り落とされないように椅子の背もたれに必死にしがみついて叫んだ。

「そんなばかな!」

「馬鹿はおまえだろう」

 背もたれに勢いよく掛けられた僕の重みにより椅子がほんの少し回転した。その少しの回転に驚いてひっくり返って椅子から滑り落ちて尻餅をつく。僕を見下ろす立場となったヒロトは「ほうら、馬鹿だ」と言いたげな顔をした。

「違うよ、ヒロト……僕に説教してないで聞きたいことがあるでしょ」

「部活も頑張ってないし遊び回っている不良でもないのになんで成績が悪いんだ?」

「『なあ、なんかおれのことえっちな目で見てない?』と聞けよ!」

 ヒロトは目を丸くした。その姿は目をまん丸にした猫のかわいさに相似していた。息がつまりそうになりながら続けた。

「僕がヒロトの尻を見ていたかって聞いてくれよ!」

「おれのお尻を見てたの?」

「おれのお尻を見てたの? って僕に聞いてくれ!」

「聞いただろう」

 未来情報を送信? そりゃ信じてもらえないはずだ。一つの現在に多数の未来が襲いかかってくる。それを人は「可能性」と呼ぶ。可能性がある? そんなことは未来人に説明されなくても知っている。今の僕たちが知りたいのは「正解」で、でも正解は自分で選んだ未来にならないとわからない。

「――質問されなくたって答えるさ。ヒロト、僕はきみの尻を見ていたし、きみのことをかわいいと思うし、きみに嫌われたくないけど、でも何より友だちなんだ! えっちな目で見たけど、えっちな関係になりたいわけじゃない!」

 ぜいぜいと息を吐き、力強く目をつむって項垂れた。勢い余ってまくし立ててしまったけど、僕の未来はどうなるんだろう。いや後悔はない。後悔するとわかっていて行動はしない。今、そのときに選んだ選択がつねに今の僕にとって最善なんだ。でも……それでも……。

 ちらっ。ヒロトはぺら……ぺら……とできるかぎり音を立てないように漫画を読み返していた。僕が勢いよく椅子から立ち上がってシャアアアアアと威嚇すると、彼は小動物のようにびくっとした。

「ヒロト、おい、ヒロト!」

「目障りだから座れよ」

 着席。ヒロトは漫画をベッドに置いて腕組みした。呆れと眠気の中間にある顔をしていた。

「いいかね、ダチがいい匂いのシャンプーを使っていてドキっとするとか、色白で背も低いダチの所作にぐっとくるとか、そんな瞬間は誰でもあるから。凡庸な思春期、ご苦労さまでした」

「だ、誰でもって何なのさ。統計をきちんと取ったのかあ」

 ヒロトは腕を組んだまま上体を反らして僕に蔑みのまなざしを注ぎながら「なんで大して努力も苦労もしてないのに自分だけのオリジナルの葛藤があると思うのかねえ」とぼやいた。僕はガーンとなってふたたび椅子から落ちそうになったけど踏ん張った。

「僕の想いはそんなものじゃない!」

「なら出禁な」

「ウソウソ、不如意のムラムラ! 不意のムラムラです!」

「おまえは部活もせずに勉強もせずに性欲処理もせずに何をしてんだよ」

 足で床を蹴ってから椅子の上で膝を抱え、僕はぐるぐると回転し始めた。確かに僕はいったい何をしていたんだろう。禁欲したらモテるような気がして、本当は毎日三回ぐらい発散したいのに一日一回で我慢していた。

 今日から一日二回にしよう。

 僕の決意を見て取ったのか、ニヤニヤとし始めたヒロトが椅子に手を伸ばして回転を手伝ってくれる。その遠心力で不意ムラがどこかに飛んでゆくのを感じる。悪魔のように笑うヒロトの声を背景にして僕の目は回る。

 針は回る、回る、季節は巡る。大学をなんとか四年で卒業して事務所の壁の色が黄疸のように濁っている不吉な零細企業に入社したものの二年目で経理の横領が発覚して退職者への賃金の支払いも滞り始めた上に頼れる古株の重鎮が別件で逮捕されたので会社がハチャメチャになって倒産して無職になった僕は、河川敷でずっこけて川にぼちゃんと落ちて溺れそうになっていたナカノを助けたことをきっかけにナカノ・タイムズ・トランスミッター社に就職した。

 しかし「昔、未来の僕たちから電話が掛かってきたんですよ」とナカノに告げたところ「ありえないネ」と鼻で笑われたので当時のやりとりを説明しているうちに言い争いにまで発展して関係が悪化。気まずい思いをしながらも窓際でじっとしているうちに何のスキルも身につかぬまま数年が経ち、斜め後ろにつながる電話網の実証実験がようやく始まった。

 ナカノは先端を鋭利に尖らせた指し棒で僕の背中を何度も突きながら広い実験室の奥にある最新式電話ボックスまで僕を誘導した。電話ボックスを取り囲むように取り付けられた電飾がつねに虹色に光っていて異様な見た目だったが、中に入ってみると急にすべての電飾が真っ赤になって、より異様になった。

 電話機のダイヤルを何度も回してつながる瞬間を待つ。やけにつるつるとして滑り落ちそうになる送受話器を両手でしっかり掴んで片耳に押し当てる。ドキドキと高揚、そして緊張。それは電話ボックスが全体的に真っ赤だからかもしれないし、ガラスにびっったりと張り付いて僕の横顔をじっと見守っているナカノにびびっていたからかもしれない。でも、いちばんの理由は不安のせいだ。

 僕はかつての未来の僕のように自分の思いを伝えられるだろうか?

 電話がつながった。先手で「もしもし」を投げる。よし、電話をすぐに切られないように楽しいおしゃべりをしてから本題に入るぞ。最後の心構えを済ませたあとで、あの頃の僕の声が聞き取りやすい明瞭な音で返ってきた。

「Hello?」

「あはは、僕は未来からの君だよ。迷える君に助言したいんだけど……」

「Who's calling, please?」

「うあああああん! 君の未来は未来にいる僕にすらわからない! だから今の自分が思う最善を選んでくれ! そして同じ中学のオシマくんが十年後に付き合う女の子は僕の元上司と結託した結婚詐欺師だから絶対に交際を阻止してあげて! I was you! I like Hiroto! Hiroto is my friend forever! Never mind! Let's go future! Help Oshimaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

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