第三話「異世界と狐」
「は?異世界??」
「そう」
はい?いやいや、ほんとはっきり言っちゃうけど……
何言ってんの?
とか言いつつ私は口では言わない。
散々泣いた私は隣に座っていたユウヤに、この場所について問いかけた。
てっきり『ここは日本の○○という所で〜』とか
悪くても『私達は今イギリスに居て〜』とか
そういう返答が返ってくると思った。
でも、実際は「俺達は異世界に飛ばされた」だよ?
突拍子も何も無さすぎて、一瞬だけの無言の空気が少し凍ったし。
急に別世界に来て「はい、そういう事だから受け入れてね」とはならない。
てか、私まだこの部屋から出てないから、実感が湧かない。
……はぁ、愚痴は終わりにしよう。
信じる信じない以前に、私は数々の未知に食い殺されそうになった。
結果的に右手は食べられ、死を覚悟した。
それが事実だ。
それが現実なんだ。
まだ、頭と心の整理が追いついてない。
未だに、心の整理だけが置いてきぼりにされている。
「……実感わかない」
「だろうな」
「ユウヤくん……いえ、ユウヤ」
「ユウでいい。こっちではそう呼んでくれ。」
「そう……なら、私もレンカでいいよ」
「ああ、そうする」
聴きたい質問がいくつかあるが、聴きたら後悔しそうな気がする。
いや、ここは意を決して聴こう。
「私達以外の3人は何処にいるの?」
「知らない。今の所、君以外は見てない。」
「そう……」
彼は淡々と、落ち着いて話を続ける。
驚く程に肝が据わってる。
あの3人のその中にはユウの友達のケンも居る。
だから、今何処にいるか心配だろうと思った。
でも、彼は落ち着いている。
思えば、まるで別人だ。
体も大きい。
心も体も成熟した大人の様で、1人だけ歳が違うかのように感じる。
でも中身は変わってないように見える。
起伏が浅い感じが残っている。
「もう少し休憩するか?」
「ううん、まだ大丈夫」
彼は私に気を使いながら話してくれる。
私のペースで話を続けてくれる。
今の私にとっては凄くありがたい。
「………それで話戻るけど、異世界って具体的には……その、どういう感じ?」
「そうだな……具体的には言えないが、剣と魔法がベースの世界といったら分かりやすいか?」
「……なる……ほど……?」
「なんだか腑に落ちない様子だな。まぁ、今はこの説明だけで我慢してくれ。口で説明するよりも、自分の目で見た方が早いだろうからな。」
「うん……」
剣と魔法が使える世界………
それは、どういう反応すればいいの……
魔法なんて眉唾物だと思っているが、話していた彼の顔は至って真剣だった。
この世界では魔法が使えますよヤッター!って喜べる訳でもない。
魔法に悪い印象は感じないが、魅力を感じる訳でも無い。
わたしも現実世界で魔法を題材としたアニメを見ていた。
私のみていたアニメはかなりファンシーな感じだったが、この世界ではどうなんだろう?
もしかしたら、アバダ〇ダブラと唱えるだけで人が死ぬ様な物騒な感じだったら?
ううぅ……体が少し震えてきた。
剣も魔法も怖い。
急に平成から戦国にタイムスリップしたみたいな感じ。
平和の時代に慣れきっている私は何処かで行き倒れるかもしれない。
早く帰りたい……
「そうだ、俺からも聴きたい事があるんだが、いいか?」
「別にいいけど、なに?」
「レンカ、お前今何歳だ?」
「ええ?17でしょ?ユウと同じ」
「そうか……まだ17歳なんだな」
「は?同じじゃないの?」
「………俺はな」
ユウは大人びていた。
外見からも中身からも。
背丈も少し伸びた気がする。
前は生やしてなかった顎髭も生やしていた。
私は薄々と感じていた。
もしかしたらユウは……
「俺はもう、35を過ぎている」
「──────────」
絶句。
目の前の同級生だった男は、私よりも遥かに歳上だった事に絶句。
35……?35って私だったらもうおばさんじゃん
「なんで……年齢が?」
「俺がこの世界に来たのはもう18年前だ。もう体にガタが来てるおっさんなんだよ。でも、それに比べてお前がこの世界に来たのは、ざっと2~3日ぐらいか?だから、俺とは年齢がかけ離れてるのだろう。」
「そんな……なんで……?」
「分からん。俺にも分からない事があるから、そこら辺は答えられない。」
「………………」
再び絶句。
いよいよ私も、何に対して動揺してるのか分からなくなってきた。
あぁ、頭が沸騰しそう。
もう疲れた。
寝ていい?
さっき起きたばっかだけど。
私よりも明らかに歳上なんだから敬語が必要?
でも、一応同級生だし、私が敬語使うのも何か違う気がする。
………やっぱ寝ていい?
「疲れたか?」
「大分、疲れた。主に心が」
「だろうな」
いやもう、あの右手を落とされたトラウマから一向に休んでない気がする。
体は癒えたかも知れない。
だが、疲れている。
主に精神の疲れが溜まりきっている。
何も考えない時間が欲しい。
なんで、私だけこんな………
「じゃあ少し散歩するか。歩けるか?」
「え?歩けるけれど。いきなりどうしたの?」
「気分転換だ。」
確かに今の私に必要な事でもある。
気分転換して取り敢えず精神を落ち着かせよう。
立とうと思ったが、体制が崩れそうになった。
ちょっと足の付け根が痛む。
多分、相当ベッドで寝てたのだろう。
それにしても………異世界かぁ……
この先……上手く行けるかなぁ……
────────────────────
そうして、私とユウは部屋の外に出た。
出ると横に長い廊下が続いていた。
雰囲気は本物の屋敷の廊下でゴージャスな感じだ。
だが、年季が入ってる様にも見える。
壁や床の色がくすんでいて全体的にかなり暗い。
だが、そんな暗さも陽の光が窓から入ってきている。
窓は廊下の壁にぎっしり立て付けられている。
個人的には私の好きな窓の形だ。
私はふと陽の光に誘われて窓を見てみる。
そこには、綺麗な草原が拡がっていた。
「──────」
その光景に唖然。
何処か懐かしく、そして綺麗だ。
寝転んだら暖かそう。
いつまでも見ていたい景色だ。
その草原の奥には森があり、更に奥には山がある。
山がある場所はかなり遠く、私の1.0の視力でやっと見えるぐらいだ。
正に自然だ。
日本の田舎とも違う。
何も手が加えられていない裸の自然。
「あそこはシアノ領の平原。あっちの森もシアノ領の管轄区域だ」
「シアノ領?」
「この地区を統べる貴族の名前だ。一応この屋敷もその貴族に貰った」
「屋敷を貰ったの!?」
「ああ、でかい恩を売りつけてな。お礼に貰ったんだ」
「タダで?」
「タダで」
「そうなんだ……」
相変わらず、スケールがデカすぎる。
もう自慢できるくらいだ。
私の友人は貴族から屋敷を貰ったんだぞ。と
なんて言っても、多分殆どの人は私と同じ反応をするのだろう。
それに自慢相手なんて、ここには居ないし。
「あれ?下に誰か居ない?」
美しい景色に見惚れていたが、下のガーデンのような場所に誰かいる。
棒……いや、剣を素振りしている。
上半身が裸の灰色髪で………また狐耳と尻尾のコスプレイヤーだ。
灰色髪の狐の男が、一心不乱に素振りをしてる。
この世界はコスプレの習慣があるの?
いや、そもそもあの耳どうやってつけてる?
あれもウィッグなの?
「ああ、あいつの名前はラフマ。狐の獣族だ」
「獣族?コスプレじゃなくて?」
「コスプレ?そんな訳ないだろ。あいつは狐と人間が混ざりあった種族。つまり、半人半獣なんだよ。」
「獣族なんて居るんだ……」
「ん?さっきもう1人の獣族と合わなかったか?」
「え?もう1人?……………あ」
さっき部屋に入ってきたピンク色の狐耳の子。
あれコスプレじゃなかったんだ……
ずっとふざけてるのかと思ってました。
なんか、ごめんなさい。
「まだ、この世界に慣れてないな」
「……ねぇ、元の世界に帰ることは出来ないの?私……こんな世界ではやって行けないって……」
「ああ、俺も未だにどうやったらあっちに戻れるのかは分からん」
「…………」
なら当分ここで暮らさないと行けないのか……
1年、10年、もしかしたら死ぬまでこの世界に閉じ込められるかもしれない。
実際にユウが18年もここにいるんだ。
帰れると思う方がおかしいのだろう。
誰か助けは来ないの?
お母さんとかは今頃何してる?
お父さんとかは私を探してくれてる?
ケイやナナとかは無事なのかな?
ああ、気分転換のつもりが、もう頭の中が疑問だらけになった。
私、これからどうしたらいいんだろう…?
「仕方ない……」
「……?」
「ーー・・!!ーー・・ーー」
「え?」
ユウが急に別言語で叫んだ。
いや、誰かを呼んだ…?
ん?これは…足音?
ドタドタドタと足音がする。
「ーーー・・!!・・ーー??」
誰かが廊下の横から出てきた。
あ、またピンク髪の狐の子だ。
やっぱり顔立ちがいい。
今ユウはこの子を呼んだのだろうか?
呼ぶ意味があるのだろうか?
もしかして私なんかしちゃった?
「・・ーー・・。・・ーー・・ーー??」
「ー・、・・ーー」
まーた、私置いてきぼりだよ。
これ私要らなくない?
いやそれより、異国の言葉をこんなにも流暢に喋れてるユウって凄くない?
ユウは文系か理系かと言ったら文系なんだろう。
今なら英語なんかもペラペラ喋りそう。
私も英語は得意だったけど、喋れはしなかったからね。
「・・ーーー・・。・・ーー。」
「・・ーー?!・・ーー?!」
「ー・ー。ーー・・。」
え?なになに。
ピンクの狐の子が急にこっちを見てきた。
なんだかすっごく目がキラキラしてる気がする。
「うぷっっ!?」
「ーー・・ーー!!・・・・ーーー!!」
え?!
急に視界から消えたと思ったら、抱き着かれていた。
一瞬の出来事すぎて反応が一瞬遅れてしまった。
おお、なんか獣臭がする。
嫌いな匂いじゃない。
それに尻尾が以外にでかく、ふわふわする。
抱き枕として使いたいぐらい。
いやいや、それより私はなんで抱きつかれてる!?
「そいつの名前はニノフ、今からレンカと友達らしい」
「いや、急すぎるでしょ!!何を言ったんよ!!」
「以外にレンカの匂いが好きらしいな」
「ちょっとスリスリしすぎ!!」
「ーーー・・ーー??・・ーー!!」
「ちょっ!尻尾が服の中に!!うふ、あはははは!!こしょばいこしょばい!!!」
「っははは、仲が良さそうで何よりだな。」
結局、その後数分間ぐらい抱きつかれた。