いらっしゃい 1
大きな屋敷の中で掃除をする緑髪の男性。机も棚も床さえも、顔が写りこむほどにピカピカに磨かれている。この屋敷の持ち主である彼、ジュピターは鼻歌交じりに至る所を意味もなく綺麗にしながら来客を待っているのだ。ふと、屋敷の扉が強くたたかれる。鼻歌を止め、弾んだ足取りでジュピターは扉を開いた。
「いらっしゃい」
「…」
虚ろな目でぼんやりしている茶髪の少年…プルートゥは持っている段ボールをジュピターに渡す。中には衣服とお金がごちゃ混ぜになって入っていた。浮かべていた笑顔を引きつらせながらジュピターは自分を見上げているプルートゥに声をかける。
「えっと、服もお金も僕は必要ない、かな」
「…オセワになるから」
「そっか。でもこの服はプルートゥ君の物だし、お金も欲しい物に使っていいんだよ」
プルートゥは段ボールをジュピターから受け取り、頷く。部屋に案内しようと視線を上げると、巨大な台車とキックボードをくっつけたような物に乗った鮮やかな青髪の青年とその近くに金髪の女性がいることに気付いた。台車部分の上には大きな段ボールが何個も置かれている。
「ウラヌス君にヴィーナスさん、いらっしゃい」
「いらっしゃってやったぜ!」
「今日からよろしくね、ジュピターさん!」
グッと手を突き出すウラヌスに、ニコニコと愛くるしい笑顔を浮かべるヴィーナス。大きな段ボールの中身はウラヌスの仕事道具か、もしくはヴィーナスのコレクション達だろう。二人の部屋は大部屋にして正解だったとジュピターはますます笑顔を引きつらせる。これ以上荷物がロビーに溜まるのは見栄えがよろしくないだろうとさっさと三人を部屋に案内することに決めたのだった。
「…あの」
「ん、何だ?」
「勝手に描写しないでくれますか、サン君」
完全に笑顔を崩し、オレに向かってため息を吐くジュピター。オレの名前はサン。巷で流行りのイケメンアイドル俳優ってやつだ。
「サン君久しぶり!ってかいつからいたの?」
「よぉ久しぶりだなヴィーナス鑑定士。いつからも何も最初からだぜ。今日はオフってるもんで」
ヴィーナスとハイタッチを交わして他の三人の方へ向かう。久々の出会いに嬉しさをこらえきれない子供が一人いるが、ガン無視決め込んでジュピターに話しかける。
「で、オレらの部屋はどこになるんだ?」
「…案内するよ。まずは一階にあるプルートゥ君とヴィーナスさんの部屋からね」
段ボールを持つプルートゥに台車を押すウラヌス。荷物を持ってない手ぶらのオレとヴィーナスは大人しくその後に着いて行った。