時間よ
夏のホラー2023投稿作品です。
幽霊、怪物は出ませんが、
とても怖い『おばけ』が出てきます。
その『おばけ』とは何か?
その正体は読んでお確かめ下さい。
いつぶりか思い出せないまま、わたしはまだ日のある通りに足を踏み出した。
昨日も残業、今日も残業、明日も残業確定と、夜半前まで残業するのが当たり前の日々。陽の沈むのが最も遅い6月でさえ暗い夜道を帰っていたのだ。定時の6時で終われるのは本当に奇跡みたいだ。
本来であれば気持ちよく会社を出られただろうが、わたしの胸の内は重苦しい不快感に占められていた。
同じ業務部の先輩ふたりから、「もう帰れるの? いいわねぇ」などと嫌味同然のことばをかけられたからではない。そんなことは日常だから、もう、そんなことで鬱々とした気分にはならない。なりたくもない。
鬱々の理由は、わたしの仕事のことだ。
わたしの仕事は会計処理。設立から何十年も経っている会社らしく、わたしが生まれるより前にあったかのような古ぼけたパソコンを使っている。わたしはそれに数字を入力し、請求書などをプリントする。そんな仕事だ。
システムもかなり古く、パソコンを使っての業務なのにスピード感がまるでない。エンターキーを押すと、処理の結果が表示されるまでしばらく待たされる。エンターキーを叩いてから席を外し、湯を沸かし、紅茶を入れたカップを手に戻ってみても、ディスプレイ上の砂時計がまだくるくる回っているなんて珍しくなかった。
しかも、パソコンで作業しているのにかかわらず、チェックはプリントした書類を別の書類とにらめっこするやり方だ。これを毎日繰り返す。最後が力技のアナログ対応なので、どうしても時間がかかる。日々の残業がいつも4時間を超えるのは当然だ。
わたしは、この会社の古い……じゃない、歴史と伝統あるシステムにうんざりさせられてきた。入社してほんの数年だが、いっこうに慣れることができなかったのだ。
新しいシステムにはまるで興味を示さなかった会社だが、政府の定めたインボイス制度に対してはさすがに無関心を決め込むことができなくなった。年代物のパソコンを新しいものに切り替え、社内の会計処理を完全にデジタル化することになったのだ。
今までシステムの古臭さに悩まされたわたしにすれば、非常にありがたい状況になったのだが、手放しで喜べるほど甘いものでもなかった。
一新されるシステムには、過去5年の経理情報がない。データを移しさえすればいいのだが、これまでのシステムが古すぎて、直接データの移行ができないとのことだった。
――つまり――。
新しいシステム移行のために、過去のデータをアナログで移さなければならないのだ。最低でも5年分。必要があれば、さらに10年分のデータを移さなければならない。
データの管理はフロッピーディスクで行なわれていた。この令和の時代に。今回、システム刷新を請け負った業者さんでさえ目を丸くしていた。
しかし、業者さんもこうしたクライアントに慣れているようで、それ以上驚いた様子は見られなかった。新しいシステムは、インターネットを通じてデータをクラウドにコピーすればデータ移行は簡単にできると、自信たっぷりに説明してくれた。ただ、ディスクを一枚一枚読み込む作業が必要であることも付け加えて。
問題は、そこだ。
過去何十年ものフロッピーディスク。
それは業務部と同じフロアの別室にある。わたしがひとり暮らしをしている部屋よりも大きい部屋に、わたしより背の高いスチール棚が身を寄せ合うように並んでいる。フロッピーディスクはその半分近くを占めていた。
わたしは明日からフロッピーディスクの詰まった箱を抱えて旧時代のパソコンまで運び、必要なものを探し出し(これが本当に手間なのだ)、一枚ずつ中身をコピーしていかなければならないのだ。そして、コピーを終えたデータは、片っ端からクラウドにアップしないといけない。
単純作業の繰り返し。しかも、それを明日の土曜から月曜までの3日間いっぱい。世間では『海の日』を含めた三連休。わたしはその3日間を仕事に捧げなければならない。ほかの社員が休みの間にシステム移行を終えて、連休明けから稼働できるようにするためだ。
データを移すには、フロッピーディスクドライブを備えた古いパソコンを残す必要がある。しかし、社内全体を新しいパソコンに入れ替えるため、会社には1台しか残されない。したがって、業務に携わることができるのはひとりだけだ。そして、三連休をふいにする役目は、当然であるかのようにわたしに決められた。もちろん、わたしはその役目に立候補などしていない。段取りが決まってから、一方的に申し渡されたのだ。役目を決めるのに、わたしに相談や話し合いの場が設けられたことは一切なかった。話を聞かされたときにはすべてが決まっていた。三連休に予定があったわけではない。ただ、仕事のことを忘れるための3日間を、仕事で埋め尽くされることに絶望感と怒りの感情しか湧いてこなかった。
そんなわけで、わたしの心は今、鬱々とした気分に満ちているのだ。
今日、めずらしく残業がないのは、会社の古いパソコンを撤去して、新しいパソコンに入れ替える作業が6時に始まるからだ。ほかの社員はそのために残っているが、明日に仕事の入っているわたしだけ、お役御免となった。彼らはパソコンの入れ替えだけすれば、残りは業者さんがセッティングをしてくれる。1時間ほどの残業で、彼らは明日から三連休が取れるのだ。
「もう帰れるの? いいわねぇ」と言っていた先輩ふたりも同様だ。そんなに残業するのが嫌だったら、代わってあげるのに。いや、むしろ代わって。
憂鬱だ。本当に憂鬱だ。
かなうのなら――。
――時間よ、止まれ。
明日が来ないように。
のどの奥から願いとも、呪いともつかないものがあふれ出そうになって、あわてて飲み込む。いや、少しは漏れ出てないかと少しあたりを見るが、すれ違う人びとはわたしをちらりとも視線を向けることはなかった。
自意識過剰。恥ずかしさで顔が熱くなってくる。ああ、いやだ。会社を出て、通りを少し歩く、ほんのわずかな時間でさえ、わたしにとって苦痛なものになっている。
時間。
わたしの時間。
なんだろう。今まで何に使ってきたのだろう。
朝起きて、会社に行って、仕事して、コンビニで買ったお弁当を食べて、また仕事して、会社を出たら深夜も営業しているスーパーに寄って買い物して、晩御飯を食べて、シャワー浴びて、そして、寝る。休日は溜まった疲れを癒すため、たいていがほぼ寝て過ごす。その繰り返しの日々。ノートに数行でまとめることができるわたしの時間。
つまらない。くだらない。でも、それをどうにもできない自分に一番がっかりしている。
今日だって、せっかく定時に終われたのに、このあとの予定などまるでないのだ。スーパーに寄って買い物するのが何時間か前倒しになっただけだ。
わたしは、なんてつまらない人間なんだろう。
定時で仕事を終えて、わたしと同じように通りを歩く人びとを避けながら、わたしはそんなことをぼんやりと考え始めていた。
別にしたい仕事があったわけではない。短大を出れば、そのまま働くつもりだった。四年制に行けるほど学力があったわけでなし。家は裕福でないうえに、弟が受験を控えていた。あっちのほうが真面目で学力もある。姉としては優秀な弟の進学を応援したかったから、自分が家計の負担になりたくなかった。だから、最初に決まったところに就職しちゃえと考えてそのとおりにしたのだが、それがいけなかった。
今、わたしの心の中は嫌なもので満ち満ちている。
それを『後悔』と表現するのは簡単だ。でも、そうしたくない。悔しいし、何よりあのときの自分を恨んでしまいそうだから。
自分を恨んでしまうなんて、ほんと最悪だ。
このまま暗い気持ちを抱えたまま、わたしは時間を無為に消費して、そのまま消費尽くしてしまうのだろうか。何のためにわたしの時間はあるのだろう?
とつぜん涙がこぼれそうになって、あわてて袖で涙をぬぐう。こんなことで惨めな気分になるのか、今のわたしは。
涙をぬぐった一瞬、前方がおろそかになった。そのせいで、わたしは前を歩いている人の背中に思いきり顔をぶつけてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
わたしは鼻を押さえながら詫びた。
わたしがぶつかった相手は、背の高い背広姿の男性だった。わたしがぶつかったことに気づいていないかのように背中を向けたままだ。
「あの……、ごめん……なさい……」
再び詫びるわたしの声が尻つぼみに小さくなる。わたしの目は、すでに異変を見出していた。
目の前の男性はその場に立っていたわけではなかった。背筋をピンと伸ばして歩いている姿だった。きれいな黒い革靴のかかとがわたしの足もとに見えた。男性は歩いている姿のまま硬直していたのだ。
どういうこと?
頭のてっぺんに疑問符を浮かべながら、わたしは男性の前にまわって顔をのぞきこんだ。
男性はわたしより少し年上らしい感じで、さわやかな印象を抱いた。ただ、そのさわやかな顔は目の前に立ったわたしを見ていない。わたしの頭の疑問符を貫通して通りの向こうを見ている。
何年か前、マネキン人形になりきっているパフォーマーを街で見かけたことがあった。何かの動作の途中で停まったポーズで、視線さえ固定していた。
わたしの目の前の男性は、そのパフォーマンスをしているかのようだった。
でも、違う。わたしはあたりを見渡しながら思った。これは、あのときのパフォーマンスとは、まったく違う!
動作の途中で停止していたのは、その男性だけではなかった。
わたしたちとすれ違いに歩いている女性。その女性を後ろから抜こうとしている自転車に乗った男性。通りを行き交う何台もの自動車。そして、赤く染まった空を行き交う何羽かの鳥たち……。
わたしの視界にあるすべてが停止していた。
観ている動画を一時停止したような光景が展開されていたのだ。
わたしは両足を踏ん張った。思わず後ずさりして転びそうになったからだ。気がつけば何の物音も聞こえなくなっていた。風の流れも感じない。
わたしを取り巻くすべてが時間を止めていた。人も、鳥も、風も、いや、音でさえも。きょろきょろと辺りを見渡しているわたしを除いて。
「どういうこと? 何がどうなっているの?」
声が思わず漏れた。日頃、ひとりごとを口にはしないが、このときばかりは声を抑えられなかった。わたしの声が、無音の世界に響く。
しかし、わたしの声は、再び時間を戻す呪文になりはしなかった。世界は時間を止めたまま沈黙を続けている。
「なに、どういうこと? いったい、何なのよ!」
呪文に効果がないことを知りながら、わたしは大声をあげた。
もちろんだが、世界は何も返さない。
ただ、沈黙が答えてくれるだけだ。
今、この世界で……、
動いているのは……、
音を発しているのは……、
「わたし」ひとりだけなのだと。
気がつくと、わたしは歩道の上でお尻をぺたんとつけていた。昔風に言えば、『腰を抜かした』ということなのだろう。個人的には、立っていることを意識から飛ばしてしまったからだと思う。
どのぐらい時間が経ったのだろう。わたしはしばらく座り込んだままだった。
「どのぐらい」なんてナンセンスなことだ。だって、世界は時間を止めてしまっているのだから。
いつまでも座り込んだままではいられない。少し気持ちが落ち着いたのを感じながら、わたしはゆっくりと立ち上がった。
スカートについた汚れを払いながら、空を見上げる。
空は会社を出たときと同じ夕焼けの色だ。夏至を過ぎ、これから少しずつ陽の落ちる時間は早くなっていく。夕焼けの空は紫色へ、そして、夜の色へと変わるはずだ。
あれからどれだけ時間が過ぎたかわからないが、空の色に変化はない。
眼前にまざまざと事実を突きつけられていたにもかかわらず、わたしは空を見上げたおかげで、ようやく世界の時間が完全に停止しているのだと理解できた。それを事実として受け入れられた。
わたしは、ゆっくりと歩き始めていた。
どこへ?
ひとり暮らしをしているわたしの部屋へ。
唯一、わたしが逃げ込める、わたしだけの小さな世界へ。
逃げ込んでどうする?
先輩ふたりの嫌がらせを受けた晩は、ベッドの上から羽毛布団をかぶり、うずくまるように身体を丸めながら眠った。早く意識を失えと念じながら。そうすれば、少なくともモヤモヤした心は多少リセットされ、翌朝、普段通りに出社することができた。
こんども同じようにベッドへ逃げ込む?
逃げ込むだけならできるだろう。
でも、はたして、明日は来るのだろうか?
目覚めてレースカーテン越しに見える景色が、今と同じ夕暮れであったら――。
よそう。考えるのは。
わたしの歩みは早くなっていた。しかし、その歩みはところどころで鈍くなる。
通りには数え切れないほどの人びとが、マネキンのようにそれぞれのポーズで停止していた。人びとの視線はわたしを捉えておらず、当然だがわたしを避けることもしない。
普段であれば、どれだけ大勢の人びとが歩く通りであっても、わたしはあまり肩をぶつけることなく歩くことができた。それは意識的、無意識的の両方で互いに避ける行動を取っていたからだ。
今の人びとは何の行動も起こさない。もちろん、わたしを避けることも。
通りにくいわずかな隙間をかき分けるようにしながら、わたしは先を急いだ。時間が止まっているのであれば急ぐ理由はないはずだが、わたしは一刻も早く、この異常な世界から逃げ出したかったのだ。
だから、わたしが車道に目を向けたのは、ほんの偶然である。
それまで、わたしの視線は舗道しか向いていなかった。人びとにぶつからないように歩くだけでいっぱいいっぱいだった。
それなのに、わたしは車道に視線を向け、そして、歩みを止めた。
車道の向こう側にも、こちらと同じような舗道があり、そちらも大勢の人びとが歩いている姿で停止していた。
その中で、ひとつだけ、車道に飛び出している姿があったのだ。
5歳か、そこらの年齢だろうか。
小さな男の子が車道に向かって手を伸ばしながら、駆け出している姿だった。小さな手は、その先に漂う菓子袋に伸びている。
どうも、ビルの谷間から吹き降ろされる風が、男の子の手もとから菓子袋を車道まで吹き飛ばしたようなのだ。
男の子は大きな口を開けて、あわてて菓子袋に飛びつこうとしたように見える。身体は完全に車道に飛び出しており、その少し前を黒塗りのタクシーが迫っていた。
もし、時間が停止していなかったら……。
男の子はタクシーにはねられていたことだろう。とんでもない惨事が起きるところだった。
わたしは思わず車道に飛び出していた。
もし、この瞬間に、時間が再び動き出したら――!
ちらりとかすめた考えが、わたしにそんな行動を起こさせたのだ。
わたしは男の子の身体を抱えると、そのまま急ぎ足で舗道まで運んだ。男の子をそっと舗道に降ろすと額の汗を拭う。このわずかな間で、わたしはおでこからも、首筋からも汗が流れだしていた。わきの下にも汗の感触がある。
幸いというべきか、時間はまだ、停止したままだった。
男の子はひとりで歩いていたのだろうか? 少しあたりを見渡すと、男の子の母親らしい女性を見つけた。彼女をのぞけば、親らしい人物が見当たらず、さらに彼女と男の子の顔立ちがそっくりだったのだ。彼女は、スマホの画面を見つめたまま停止している。
注意力散漫だ。
わたしは少し憤った。
小さな子どもは反射的に行動する。
こんな自動車が行き交う道のかたわらで子どもを連れて歩くのなら、子どもが車道に飛び出さないよう気をつけるべきだ。何を調べているのかわからないが、そのせいで彼女は自分の子どもを危険にさらしてしまったのだから。
わたしは男の子を女性のそばまで運ぶと、片手は菓子袋をもたせ、残りの手を女性の服のすそにつかまらせた。走っている姿勢は立ち止まったものに変えた。
男の子の手足を動かすのは簡単にできた。中学時代、美術の時間に扱ったクロッキー人形と同じだ。軽く力を入れるだけで、関節はぐにゃぐにゃと曲がり、思い通りのポーズにすることができたのだ。
わたしはポーズの具合を確かめるべく、ふたりから少し離れて立った。
親子は、これから起きるはずの惨劇など気づかない様子でたたずんでいる。男の子は母親にぴったりと寄り添って、二度と離れまいとしているようだ。ただ、それはわたしが意図的に、そんなポーズにしたわけなのだが。
でも、これでいい。再び時間が動き出しても、あの子に惨劇は起きない。それを成し遂げたのが自分であることに、わたしは多少の満足感を得られていた。ふと、わたしはすぐ近くのショーウィンドウに視線を向けた。そこには、わたしの姿が映っている。
わたしは少し髪を乱し、額から汗を流しながら、口元に笑みを浮かべていた。
わたしはどきりとして、自分の髪をあわてて直した。表情も真顔に戻す。
「何やってるのよ、わたし!」
恥ずかしさで顔が熱くなる。ショーウィンドウに映るわたしも顔を赤らめていた。ちょっと得意げな自分の顔を見るほど恥ずかしいものはない。たとえ、この世の誰もが見ていなくても、第三者のような自分自身に見られてしまうと、胸の奥がどきりとする感触とともに恥ずかしさがこみあげてくるのだ。
わたしは両手でスカートをパンパンとはたきながらあたりを見渡した。恥ずかしさをごまかすときのクセだ。
すると、こんどは横断歩道に飛び出そうとする自転車が目に入った。ちなみに信号は赤である。
車道に目を向ければ、運転に自信のなさそうな顔をした老婆が運転している自動車が横断歩道の手前にさしかかっていた。もし、時間が動いていたのなら、次の瞬間には事故になっているはずだ。
わたしは小さくため息をつくと、大股で歩きながら自転車のそばまで近寄った。自転車に乗っているのはわたしより少し年下らしい青年である。両耳にイヤホン、片手にスマホ姿の出来過ぎといえるほどステレオタイプの若者だ。
彼は周りに何ら注意を払うことなく、手もとのスマホを見つめている。
「運が良かったわね」
わたしは若者に声をかけた。もちろん、若者はこちらに視線を向けることさえない。こちらもわかっていることだから気にもしていないが。
ただ、助けるのはこの若者のためではない。どこも悪くないのに、事故を起こした業を背負うだろう老婆から、その最悪の未来を回避させたいためだ。
わたしは自転車に大きな蹴りを入れた。自転車は大きく横に傾いたが倒れることはなかった。重力に逆らって斜め45度の角度を保っている。
わたしは反対側に回ると、若者の身体に両手をかけた。
若者の身体は思っていたより簡単に持ち上げることができた。まったく重力を感じなかった。わたしは若者を自転車から降ろしながら、普段使っているパソコンのことを思い返していた。
マウスでポインタを動かして、ファイルをつまむ。ファイルをつまんだまま右から左へ動かす……。
ディスプレイ上だけで可能な、データという名の荷物の運搬。
わたしが今、この若者を動かしているのも同じ感覚だ。
重さを感じないのはありがたいが、自分の行動に現実味が薄くなる。今まで考えていなかったが、自分は夢の中で行動しているだけではないか。ふと、そんな思いにもとらわれる。
ただ、全身を伝う汗の感覚が、これが現実なのだと教えていた。
わたしは若者を自転車から降ろすと、直立不動の姿勢にさせてからハンドルを握らせる。両手を思いっきりブレーキに握らせて。これなら、時間が動き出しても自転車が車道に飛び出すことはないだろう。
わたしがこんな行動をしている間も、時間が動き出す様子はなかった。このまま永遠に時間が止まったままになるのではないか。そう思えた。
わたしは、せっかく惨劇を防ぐ行動をしたというのに心が晴れないまま、自分の両肩を抱きしめていた。
この胸の奥に引きつるような感覚がある。それが『恐怖』であることをわたしは気づいていた。
これまでの異常な光景がわたしを不安に陥らさせ、それを募らせていった。わたしの中で芽生えたその不安は、無意識の世界よりじょじょに強くなり、今やそれを隠せないまでになっていた。『不安』が『恐怖』へ羽化したのだ。
恋人のいない人生であるが、それほど孤独を感じたことはなかった。『未来のおひとりさま』? 30歳までまだ5年以上ある。自分が孤独であることは未確定事項だった。
しかし、今のわたしは本当にひとりぼっちだ。人は目の前に、この街に、あふれかえっている。それにもかかわらず、わたしは真の孤独を味わっていた。その状況がいつ終わるか、わたしにはまるでわからない。
もうよそう。考えるのは。
もう何もしない。未来の惨劇を防ぐことも。
時間の停止した世界で、これはわたしのしたいことではない。
事故を防いでいる自分の行動に間違いはないと思う。しかし、その行動にわたしは虚しさを募らせていた。
これまで、自分は承認欲求が強いとか思ったこともなかったが、誰にも感謝されない行為に勤しんでいる自分に呆れているのはたしかだ。子どもを救ったときに感じた小さな高揚感は、とっくに冷めきっていた。何となくだが、自分はとんでもない嘘つきだと思えるようにもなっていた。『嘘つき』はまだ甘い表現だ。わたしはこれまでの行動に偽善を感じるようになっていたのだ。
それはきっと、会社を出る前から感じていたモヤモヤが晴れないからだ。
人は、心の奥をすっきりさせたいときに、それぞれの方法で精神安定化を得ようとする。ざっくりと『ストレス解消』と呼ばれるものだ。
わたしは不安、孤独感、焦燥感に苛まれ続けている。でも、それらを心から消し去ることができない。これまでのささやかな善行でさえ、その役には立たなかった。
カタルシス――。わたしには無縁のことば……。
自己嫌悪。孤独。そして、いい知れない恐怖――。
それもこれも、全部あんな会社で働いてきたからだ――。
八つ当たりの考えなのは承知のうえで、わたしは心の中で毒づきながら振り返った。
勤め先が入っているテナントビルの頭の部分が、わたしの位置からかろうじて見えた。この界隈ではわりと大きなビルなので、ここまで離れていても、ビルの姿を確認することができたのだ。
ここから先のことは、わたしにはうまく説明できない。どうして、あんな行動を取るようになったのか。
どこか背中を押されるような感覚に近かったと思う。
わたしは一歩、テナントビルに向けて歩き出すと、そのまま会社へ戻り始めたのだ。
はじめはゆっくりと、しかし、その歩みは次第に早足になり、ついには駆け足になっていた。
ビルの前に着いたとき、わたしは大きな息を吐いた。安堵の息だ。
正面玄関のドアは自動ドアだ。それは何人かの人びとを通すために大きく開いていた。
安堵の息が漏れたのは、もし、ドアが閉じた状態で時間が止まってしまっていたら、わたしは中へ入られたのか、わからなかったからだ。
わたしはビルに入ると、まっすぐエレベーターへと向かう。エレベーターは4階で停まっていた。4階は、わたしの勤め先がある階だ。エレベーターのボタンを押してみたが反応はない。予想はしていたが、やはり動かないようだ。
予想していただけに、わたしにがっかりの感覚はない。
すぐ、かたわらの階段に身体を向けると、勢いよくわたしは階段を駆け上り始めた。
時間が止まっている世界なら、わたしが急ぐ必要はない。しかし、わたしはこれまでにないほどの勢いで階段を駆け上っていた。まるで、時間が動き出すのを恐れるかのように。いや、たしかに、わたしは時間が再び動き出すのを恐れていた。ただ、明確な自覚がなかっただけだ。
一気に4階まで上がると、さすがに息が続かなかった。
4階に着いたわたしは膝に両手を乗せた前かがみの姿勢で、ぜぇぜぇと息を切らせていた。
呼吸が少し落ち着くと、わたしは顔を上げた。
すぐ目の前を、営業部の若い男性社員がパソコンを抱えた格好で停止している。丸顔で大きな眼鏡をかけた、よく知る社員のひとりだ。
わたしは再び安堵の息をもらした。
――良かった。
時間はまだ停止している。
わたしは大股でその男性社員をかわすと、会社に続くドアを潜り抜けた。
最初に目についたのは、度の強い眼鏡をかけた、小柄な女性である。彼女もまた、先ほどの男性社員と同じように、重そうなものを抱える格好をしていた。
彼女が抱えていたのは前時代的なモニターだ。今どきでは珍しいCRTモニターと呼ばれるもので、昔のブラウン管テレビと同じようなものらしい。わたしには電子レンジにディスプレイ画面がくっついているイメージだ。
もともと、彼女には特別な用はなかったが、わたしは彼女に歩み寄った。
彼女の両手を取り、高くバンザイをさせる。大きなモニターは彼女の太ももの位置で浮かんだ形で留まった。
もし、この瞬間に時間が動き出したら、このモニターは彼女の足に落下することだろう。ひと抱え数キロはあるだろうモニターが足に激突したら、彼女はさぞ痛がるに違いない。
ひどいことをする?
それは少し違う。
彼女はわたしの2年後輩だが、これまで彼女にはずいぶん嫌な思いをさせられてきた。
彼女が入社したとき、はじめて後輩のできたわたしはものすごく喜んだ。純粋に喜ばしい気持ちだけでなく、先輩たちに押し付けられる嫌な雑用も半分は負担してもらえるという下心もあった。
彼女は彼女で、はじめはわたしと好意的に接してくれた。わからないところは積極的に質問して、わたしから仕事を学ぼうとする姿勢を見せてくれていた。
ただし、月日が経って、わたしがこの会社のヒエラルキーで最下層に位置していることを知ると、あからさまに態度が変わった。
わたしのことは完全に無視するようになって、わたしが用事を頼もうとすると、さっと席を立ってどこかへ消えてしまう。嫌味な先輩たちがわたしに用を言いつけてきたときも同じだ。彼女はいち早く席を立っていなくなる。結局、その用事はわたしがひとりで片づけることになるのだ。
わたしに嫌がらせ同然のことをする先輩たちは、わたしひとりをいけにえにできれば満足らしく、彼女には文句ひとつ口にしない。彼女が勤め始めて丸一年経った今でも、当時のわたし並みにさえ仕事ができないにもかかわらずだ。
ひどいのは、これまでの彼女のほうなのだ。モニターが足に落っこちるぐらい、何だというのだ。
過去の怒りが少し甦り、わたしはモニターの位置をおへその高さまで上げておいた。
後輩に対する用が終わると、わたしは業務部のある、奥のエリアへ足を進める。
――いた。
これまで何度か話題にした、嫌味な先輩たち二名様だ。
ふたりとも何も持っていない様子で、笑顔で話している。この様子から見て、パソコンの搬出作業に取り掛かっていないのは明らかだ。彼女たちは、これまでもこの調子でなし崩し的に用事をサボってきた。ふたりがぐずぐずしている間に周りが全部片づけるのを期待しているのだ。
彼女たちはそう考えていると口にしてきたわけではない。しかし、わたしにとって、それは真実だった。直接仕事と関係ないようなことには、彼女たちはまるでやる気を見せようとしない。だらだらとした態度で、いかにも嫌そうに取り掛かる。頼むほうも嫌になるだろう。
結果的に、わたしに用事が回ってくる。特に仕事熱心ではないが、頼まれた用事はできるだけ丁寧にこなす。どうも、これが、彼女たちがわたしのことを気に入らないところらしい。
敵意むき出しでわたしに接してくるようになったのはいつからだろう。
日常的に嫌がらせを受けるようになったのだ。
別に、この会社の仕事が好きでも楽しいわけでもない。この会社にこだわっているわけでもない。
しかし、このふたりに追い出される形で会社を辞めるのは嫌だった。
ただでさえ自分に嫌気がさしているのに、さらに自分のことが嫌いになりそうだからだ。
なけなしの意地――もちろん、くだらない意地だとわかっている――のために、わたしは我慢してこの会社で働き続けているのだ。
――時間よ、まだ動くな。
わたしはふたりの前に立つと、ふたりの頭に手を伸ばした。彼女たちの頭をつかむと、勢いよくぶつけ合わせた。
音は聞こえなかったが、かなり勢いをつけた。ふたりは互いに額をぶつけ合いながら、それでもニタニタ笑いあっていた。さっきまでは楽しそうな様子が、今では怒りを笑顔に隠して額をつけ合わせているようだ。
『何か言った? このブス!』
わたしは片方の先輩のアフレコをしてやった。この表情にはピッタリだ。
『そっちこそ、何、私にガンつけてんのよ!』
残りの先輩にもアフレコを入れてみる。自分で適当に言っただけなのに、あまりのピッタリ感で、わたしは思わず噴き出してしまった。
でも、足りない。全然、足りない。
わたしはひとりの手を取り、それを彼女たちの顔の位置まで持ち上げた。彼女の手にはどぎつい色合いのロングネイルが付けられている。それらの先端はいずれも鋭く尖っていて、それだけでジュースの缶に穴を空けられそうだった。
わたしはこの手にも勢いをつけて、もう片方の先輩の顔にぶつけた。鋭いネイルが4本、彼女の頬に突き刺さる。
『このドロボウ猫!』
わたしは再びアフレコをしてやった。
自分の成果を確かめるべく、少し離れてふたりの様子を見る。ふたりはまさに修羅場を演じている姿になっていた。怒りの表情は見せず、ふたりとも満面の笑みなのが不気味なアクセントだ。
「うーん、でも、これじゃ一方的だよね」
わたしは腕組みしながら首をひねった。これだけじゃいけないよね。
わたしは付け爪を頬に突き立てられた先輩の腕を取ると、手の形をグーにして、こんども勢いをつけて相手の頬にぶつけてやった。
『ドロボウ猫はそっちでしょ!』アフレコをつけるのも忘れない。
顎を痛烈にヒットするフックだ。先輩の顎が真横にずれた。本当に顎が外れたらしい。
これで互いに一撃ずつ喰らわす格好になった。
でも、これは不自然だ。
わたしは離れて見るなり感じた。
「そうだ。もう片方ずつの手が何もしていない」
ふたりの左手はどちらも身体の真横でだらりと垂れているだけだったのだ。
わたしはあたりを見渡すと、ふたりの机からそれぞれボールペンと細いカッターナイフを取ってきた。
それぞれを左手に握らせると、ボールペンを握らせたほうは、その先端を相手の目に突き立てさせた。ボールペンの先端は、それほど尖っていなかったが、あっけないほど簡単に突き刺すことができた。
もちろん、相手をそのままにはしない。彼女にはカッターナイフを握らせると、その刃を相手の脇腹に突き立てさせる。刃は、いわゆる『折る刃式』で、まだ短くなっていなかった。わたしは刃を残り最大限まで引き出して、それを相手の脇腹に完全に隠れるまで刺してやった。
あははははは。
わたしはすっかり満足してその場を後にした。
駆け足で戻った甲斐があった。心からそう思った。
戻る途中で、さきほどの後輩の前を通った。
一度は通り過ぎたが、わたしは立ち止まると、くるりと向きを変えて後輩のもとへ戻った。
おへその位置にあったモニターを頭の位置まで上げておく。
あははははは。
わたしはそれを確認してうなずくと、再び向きを変えた。
向きを変える途中、わたしは部長の姿を視界に捉えていた。
部長は背の高い、ほっそりした体形だ。50歳は過ぎているだろうに、いわゆる中年太りしていない。会社の中ではスタイルのいいひとだと思う。
しかし、こいつの根性はよろしくない。
わたしが嫌がらせを受けているのは社内であれば周知の事実だ。しかし、この部長は先輩たちに注意ひとつしようとしなかった。まるで、そんなことなど起きていないかのように。
先輩たちは良くも悪くも空気を読むタイプだ。もし、部長が厳しい態度で「そんなことをするな」と注意してくれていたら、わたしへの嫌がらせはなくなっていたかもしれない。
少なくとも、その度合いは弱まっていたずだ。
部長の態度に、わたしをかばう姿勢がないと読んだ先輩たちは、わたしへの嫌がらせをエスカレートさせるようになったのだ。部長の態度が許可証のようなものだったのだ。
そして、わたしひとりだけに休日出勤させるよう決定した張本人でもある。もっとも許せない、わたしの『敵』だ。
わたしが怒りの目を向けている部長は、コーヒーの入った紙コップを手に、窓の外に目を向けていた。西向きの窓で、そこからはいくつものビルが並んでいるのが見える。夕焼けが逆光となって、ビルの群れは黒々と陰の色に沈んでいた。
何が面白いのか、部長はそれを眺めているようだ。
「何です? ひとり、ダンディを気取っているつもりですか?」
わたしはかたわらから部長の顔をのぞきこみながら尋ねた。
もちろん、部長は答えることはない。相変わらず、わずかに笑みを浮かべた表情で外の景色を眺め続けるだけだ。
「そんなに、お外の景色が見たいなら、もっと近くから見たらどうですか?」
わたしはそう言いながら窓を開けると、部長の身体を持ち上げた。マネキンを外に捨てるように部長の身体を窓の外に押し出す。
部長は空中で直立不動のまま、夕焼けを眺めていた。時間が動き出せば、このまま真下へ急降下。オリンピックでも演じられたことのない、最上級の着地を見せてくれることだろう。
あはは、あはははは。あは、あははのは。
わたしは窓から身を乗り出すと、部長の足もとを見下ろした。部長の直下に誰かいないか少し気になったのだ。
あ、誰かいる。
わたしはその人物が誰なのか目をこらして見た。
誰かわかると、わたしは安心して息を吐いた。
あはは。
わたしは窓から離れると、急ぎ足で会社から出た。上がってきた階段を弾むような足取りで駆け下りていく。
あははははは。あははははは。あは、あは、あははははは。
おそらく耳まで裂けるかぐらい、わたしの口角は吊り上がって、かつてしたことのないほどの満面の笑みをわたしは浮かべていた。
さっきから、音のないはずの世界で誰かの笑い声だけが聞こえている。
あははははは。あははははは。あははははは。あははははは!
ビルを飛び出したわたしは、その勢いのままビルの西側へと進む。
そこには、スマホを片手に会話している専務の姿があった。さきほどの部長と違い、こちらはずんぐりむっくりの姿である。
両手両足を縮めて丸まったら、本当に大玉転がしができるんじゃないかと思えるほどの丸型体形。ひとによっては愛嬌のある姿に思えるだろう。
しかし、わたしにとってはそんなことひとかけらも思えない人物だ。
こちらがどれだけ訴えても、パソコンもシステムも新しくしようとしなかった。もちろん、専務に直接訴えられる身分ではないので、上長を通じてお願いしている。
それを「そんなことに会社のお金を使わせるな」とひと言で終わらせ続けたのが、この専務だ。そんなことを主張した一方で、会社の経費でゴルフに出かけているのだ。
わたしの仕事は会社の経費を管理する業務なので、その額がいくらになっているのか知っている。今回、総入れ替えを行なう会社のシステムにかかる費用の2倍以上ものお金を、この専務は使ってきたのだ。安い家なら一戸は買えるほどだ。
これほど無駄使いをして、わたしに余計な残業を強いてきたのだ。こちらは残業代が欲しくて残業などしていない。どうすれば、これほど手間のかかる環境で、短時間で業務を終えられるか、ずっと考えさせられてきたのだ。
部長は、「専務のひと声で、社長もシステム一新を決断された。専務のおかげだ」などと言っていたが、むしろ、その専務のおかげで会社の近代化が遅れたとなぜ気づかない?
わたしは大股で歩くと、会社の負の象徴の前に立った。
専務はいかにも内緒話をするように、やや前かがみでスマホに話しかけている姿だ。歩いているわけでなく、その場に立って話していたようだ。小声で話していたのだろうと想像できる。その内容も想像がつく。おそらく、明日からの三連休、どこのゴルフ場に行くのか話しているのだろう。
エヘエヘと笑っているような下品な笑顔が、その想像が正しいと確信させる。これまでも誰にもはばかることなくゴルフの打ち合わせを電話している様子を見てきたが、そのときと同じ顔を、今の専務はしているのだ。
わたしは専務の横に立って空を見上げた。
頭上のはるか上には、部長の靴の底が見える。このまま部長が落下したら、専務のすぐそばをかすめるだけだろう。ギリギリ当たらない位置だ。
これはいけない。
わたしは専務の身体を押すと、30センチほど壁側に動かした。そして再び空を見上げる。
ピッタリだ。
この位置であれば、部長は専務の頭頂部に向かって前代未聞のフライングニーアタックを加えることになるだろう。
あははははは。あははははは。あははははは。あははははは。あははははは。あははははは。あははははは。あははははは。あははははは。あははははは!
わたしはお腹を抱えて笑い声をあげていた。お腹が痛くて痛くて辛いほどだが、まるで気にならない。わたしは服が汚れるのもかまわず、その場で笑い転げた。
ひとしきり笑い続け、わたしはようやく身体を起こした。
笑い過ぎて涙が大量にこぼれている。きっと、お化粧なんかドロドロだ。
しかし、わたしは、これまでにない充足感に満たされていた。
わたしは天まで届きそうなほど大きな伸びをすると、ようやく家路についた。まったく夜へと進まない夕暮れの中を、まるで小学生のようにスキップをしながら。
そして、
――時間よ、早く、早く動き出せ。
と、強く、強く、念じながら……。
前書きで述べた『おばけ』は、
北村薫さんの『夜の蝉』を意識した単語だ。
『夜の蝉』にも『お化け』が登場する。
個人的には、あっちのほうがかなり怖い。
あれを読んで以来、僕の中での『おばけ』の概念は固定されてしまったように思う。
今回は、いろんな解釈のできるストーリーにまとめることができた。
人によっては「怖い」と思うより笑ってしまうかもしれないし、
「ぞっとする」人もいるだろう。
『滑稽』と『恐怖』は紙一重じゃないかと思っているので、
いろんな感想を抱いていただければ自分の中では「よし!」である。