表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタクリの恋  作者: 秋元智也
9/75

第八話

今は、お昼頃だろうか?

太陽が真上に上がった頃くらいに、人の声が聞こえてきた。


「たっちゃん、起きて!誰か近くにいるみたい。」

「んん〜〜〜、もうちょっと…」

「服だけでも着よう。この格好を見られるのは嫌でしょ?」


千尋の言葉にすぐに飛び起きるとお互いの体温で暖ったのを忘れて、服に手

をかける。

なんとか乾いていて、手伝ってもらって袖を通す。


「声がするって?誰か来たのか?」

「多分、もうちょっと下の方だよ、きっと。」


着替えると靴を履いて外へ出る。

眩しい光に手をかざすと、千尋は前にリュックをかけるとしゃがみ込んだ。


「ほらっ…来て」

「大丈夫だって、俺歩けるし…」

「おんぶと抱っこどっちがいい?」

「……おんぶで…」

「うん、そう言うと思った。ほらっ」


言われるがまま千尋の背中に乗った。

いつのまにか自分より体格がよくなったのを感じる。


(こんなに背中って大きかったっけ…)


くっついていると暖かい…、当たり前だけど、気持ちよかった。


(別に好きで抱きついてた訳じゃねーし…暖かくて、そう暖かかっただけだし!)


自分でなんでこんな言い訳してるのか疑問になる。

ただ、寒かったから…それだけなのに。

それ以上に意識してしまう。


今は落ちない為だと自分にいい聞かせるとぎゅっと千尋に抱きついたのだった。


「た、たっちゃん!?」

「ん〜?」

「いや、なんでも…ないけど、しっかり捕まっててね」

「うん」


勿論、抱きつかれた方も驚いている。

多分、おぶさるのも嫌だって言いだすと思っていた。

無理してでも自分で歩くと言い出すのを防ぐために、あらかじめ選択肢を用意

した。


おんぶと抱っこ、その選択なら必然的におんぶを選ぶだろう。

案の定、計算通りだった。


計算と違ったのは千尋の体力面だった。


同級生をおぶって歩き回れるほど山は優しくなかった。

ゆっくりと歩いてはいるが…息が切れる。


平然を装ってはいてもそろそろ限界も来ていた。

すると、やっとはっきりと人の声が聞こえてきた。


「あ!声が聞こえる…」

「ちょっと下ろすよ?」

「あぁ」


しゃがみ込むとわずかになった水を喉に流し込んだ。


「おーい!ここだぁーー!」


寿は大声を上げると手に持っていた上着を脱ぐと振って見せる。

ぞろぞろと数人がこっちに気づくと上がって来てくれた。

そこで寿が足を怪我している事や、自力では動けない事を話すとそのまま下山で

はなく、ヘリを呼ぶ事になった。


「ヘリに乗れるのか!やった〜。なぁ、千尋すごくね?千尋?」


さっきまでおぶって歩いていた千尋の身体がふらっと傾げていく。

慌てて抱き止めるがやけに体が熱く感じた。

顔も赤い…額に手を当てると予想以上に熱かった。


「千尋!凄い熱あるじゃん…なんで言わねーんだよ」

「ちょっといいかな?そうだね、熱があるね。この子も一緒に運んでもらうから」


救助に来た隊員によって保護されたのだった。


サマーキャンプから2日後、千尋も熱が下がって通常通りに戻った。

寿の怪我も大した事なく、骨にも異常がなかったおかげで多少の傷は残るかもとは

言われたがそんなことは気にしない。


それよりも、学校に行った時に市川朋子から心配されてしまっていた。


「ごめんなさい。私のせいで怪我まで…」

「大丈夫だって〜、大した怪我じゃねーし。それにスマホ見つかってよかったな!」

「うん…ここにはお父さんの写真も入ってるから…本当に…ありがとう」


大事そうにぎゅっと握ると嬉しそにお礼を言っていた。

市川のところは単身赴任でなかなか家に帰ってこないと聞いた。


そのせいで、一緒に写っている写真は大事なのだろう。

寿自身も、親にこってりと怒られたのだった。


寿が遭難してから後を追っていった千尋まで一緒に行方が分からず一時は騒然となっ

たらしい。

しかも、雨で夜の山となれば救助は朝まで動けなかったのだそうだ。


もし、千尋が来ていなかったらと思うとゾッとした。

動けないし、雨で体温は下がるし…。

もしかしたら…と最悪の事態をも考えてしまう。


しばらくはこの友人に感謝しなくてはならなかったのだった。



月も変わり、6月に入ると少しずつ暑くなってきた。

そろそろ体育祭の時期だった。


「たもっーちゃぁーん!どの種目に出る?」

「う〜ん、どれにしようかな〜」

「俺パン食い競争がいい!」


谷口は即答してビシッと選んでいた。

いつもの恒例でパン食い競争は自分で獲得したパンはそのまま持ち帰ってもいい決まり

になっていた。


「でもさ〜毎回パンとは限らないだろう?」

「そんな事ねーだろ?去年の先輩もパンだったって言ってたぜ?」

「たまに小麦粉の中の飴ってのもあるらしいぞ?。」


冷静に内藤が言うが、谷口は聞きもしなかった。

片瀬寿は無難な借り物競争に決めたのだった。


一個上の姉である片瀬愛は寿の姉で寿と一緒で運動神経はいい方だった。

寿と違って身長もあるせいか足も速い。


100m走とリレーに出ていて、いつも脚光を浴びているらしい。


「そういえば寿はリレーには出ないのか?」

「あぁ、まぁ〜ちょっとな…」


足に視線を送ると納得したようだった。

足るのには別に異常はないと言っても、クラスではあまり走らせるのは良くないとなった

ようだった。


すぐ横に来ていた千尋は決まった種目を見て耳元で囁いてきた。


「たっちゃんって借り物競争に出るんだ〜」

「うわぁ!近けーって!びっくりするだろ?」

「そう?僕も同じなんだ〜一緒だね」

「あぁ、絶対に負けねーからな!」

「「近いのはいつもの事じゃね?」」


と二人から言われたが、断じてそんな事はないと寿だけが言い張ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ