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カタクリの恋  作者: 秋元智也
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第六話

休憩ポイントに来ると、後残り半分に差し掛かっている事を示していた。

そこで予想外のアクシデントに気づいた。


「あれ?…ちょっと仁美ちゃん〜スマホ鳴らしてもらっていい?」

「どしたの?ないの?」

「うん、ちゃんとポケットに入れておいたんだけど…」


新井さんが鳴らすもシーンとしていてバイブ音すらしない。

鞄の中の荷物を出しながら探すが、やっぱり見つからなかった。


「うそっ…どうしよう」

「今から戻るのは無理だよ。先生に言おう?」

「そんな…私戻って探してくるっ!」

「ダメだって!帰り遅くなっちゃう」

「でも…」


女子のやり取りを見ながら谷口も内藤も少し悩み込んだ。

取ってきてあげるなどと軽く言って置いて見つからなかったという不安と、

そこまでする理由もないとタカを括っていたからでもある。


今から戻れば、暗くなるしバスにも間に合わない。

それじゃなくても遅れているのに…もうすぐ最後尾の先生だってくるだろう。

そうなれば、戻る事は反対されるだろう。


「俺が行ってこようか?」

「えっ…!?」


迷いもなく言ったのは寿だった。


「たっちゃん危ないよ。それに虫嫌いなたっちゃんが一人で行くの?」

「大丈夫だって、さっき通った道だし」


そう言うと、内藤にみんなの事は任せて、一人でさっき来た道を戻っていく事にし

たのだった。


見送るメンバーの中で千尋は拳を握り閉めると、最初はみんなと一緒に歩き出した

が、すぐに踵を返すと寿を追いかけていったのだった。


「みんな…ごめん。たっちゃんが心配だから…」

「おう、だろうな〜、いってこいよ!俺らはお前らの分まで怒られてやるよ!」

「うん」


それだけ言うと駆け出していく。



すぐに引き返した寿はと言うと、まずは最後尾に来た先生を木の陰でやり過ごし、

そのまま元来た獣道を戻る。


一応道っぽいけど、ちゃんと舗装されたものではないので一人だと少し心細い。

千尋にばっかり頼ってちゃいけないと自分に喝を入れると歩き出した。


雨がポツポツと降ってきていた。


「みんなはちゃんと着いたかな?」


カッパは持っているけど、今は一刻も早く先を急ぎたかった。

日が暮れると見つけるのも一苦労になってしまう。


さっき転んだ辺りへと来るとゆっくりと隅々まで見ていく。

一向に見つからない。


あたりも薄暗くなり始めていたのだった。


「どうしよう…マジで見付からね〜し…」


焦りだけが募っていく。

すると、少し下の方で光るものを見つけた。

ゆっくりと足から降りて行くとストラップが光っていたらしい。


「見つけたっ!」


ゆっくりと手を伸ばすと届きそうで届かない。

近くの木にひっかかりながらももう少しと手を伸ばす。


やっとの事で掴むとそのままポケットにしまう。


「ふぅ〜これであとは帰るだけかな…」


体制を変えるとすぐに登ろうとして嫌な音を聞いた。


ミシッ…ミシミシッ…。


自分の足元から聴こえて来たかと思うと足場にしていた枝がいきなり折れて滑り

落ちて行ったのだった。


一瞬だったので自分でも理解できなかった。


「うそ…だろ…ぅわぁーーーー!!」


蹲って少しでも衝撃を和らげようとしたが、あちこちぶつけながら転がり落ちて

行ったのだった。


嫌な予感に駆られながら先を急いでいた千尋にもどこかで何かが滑り落ちる音が

聴こえていた。


「たっちゃん…?」


嫌な胸騒ぎとは意外と当たるものであった。

寿と同じ場所に着いた時には辺りは暗くなっていて、スマホの明かりだけが頼り

だった。


「たっちゃーん。返事してーーー!!」


呼んでも何も返事がない。

入れ違いに帰ったのだろうか?


まさか落ちたなんて事は…?

不安だけが募って行く。


春と言っても野生の動物だっている。

虫が大っ嫌いな寿を置いてなんて帰れない。


声を張り上げるように何度も呼んでみる。

すると、どこからか微かな声が聞こえた気がした。

わずか過ぎて、はっきり聞き取れないし、分からない。


「たっちゃん!たっちゃん、返事して!」


すると下の方でピカピカっと光ったのだった。

スマホのライトを上に向かって照らしたのだった。


しかし、そこから下には降りられる場所がなかった。

まさか滑り降りる訳にもいかないし、それをしたら登ってくるのが一苦労だった。


「たっちゃん、ちょっと待ってて!すぐに行くからね!」


声をかけながら千尋は近くに何かいいものはないかと探し始めたのだった。

そこで、ハッと思い出すのは、少し前に事故が起きやすいからといって狭い場所

にロープが張り巡らされていた場所だった。

そこまで戻ると持っていたハサミでなんとかロープを切るとすぐに道を引き返した。


近くの木に縛り付けるとゆっくりと下へと降りて行く。

足場は滑りやすく、雨のせいで余計につるつると滑ってしまう。


ゆっくりと降りると、足がつく位置まで降りて来た。

光りは今にも消えいりそうなくらいにピカピカと点滅していた。


「たっちゃん…?」


足元を確認しながら光に近づくと木の根っこに蹲る寿の姿を発見した。

すぐに近寄ると抱き起こした。


「たっちゃん大丈夫?立てる?早く帰ろう…」

「千尋…っ…ごめん。一人で登れるか?このまま登って助けを…」

「嫌だっ…たっちゃんを置いて戻れっていうの?嫌だよ」


雨に濡れたせいか寿の体温が低い気がする。

今すぐにでも場所を移動したい千尋はすぐに行こうと引っ張るが、寿は一向に立ち

上ろうとはしなかった。

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