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カタクリの恋  作者: 秋元智也
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第五話

テントに潜り込むと狭いながらもなんとなく安心できた。

隣に人の気配があるのと、背中にかかる温もりに少しホッとする。

目を瞑って耳を澄ますと、虫の鳴き声がしてくる。


外とはたかが布一枚しか無い状態で、草が風に揺れる度に音が耳に着く。


カサっと音がすると、ビクッと震えるのを感じて飛び起きた。

まだ外は真っ暗でそんなに時間は経っていなかった。


「!!」

「どうしたの?…たっちゃん?」

「いやっ…なんでもねーよ」

「怖いの?」

「怖くねーし…別に平気だし…」


寝るつもりだったのに、静かであればあるほど、外の音が耳に付いて離れない。


「たっちゃん、虫嫌いだったよね?こっちおいでよ!」

「だーかーらー。平気だってっ…」


振り向くと背中合わせに寝ていたはずがいつのまにか寿の方を向いている千尋に

少し驚くとそのまま抱きすくめられていた。


「こうしてれば平気でしょ?怖くなんかないよ?」

「怖くなんかねーし…でも、仕方ねーから…このままで…いい」


人の温もりを感じると落ち着いてきた。

すると自然と眠気が襲ってきて、あっという間に眠りに落ちていたのだった。


腕の中で眠る寿を眺めながらクスッと笑うとそっと抱きしめていた。


怖いくせに、それを認めたがらないところは昔と何にも変わっていない。

そんな彼が…。


朝になると、ぬくぬくと温かい微睡の中で意識が浮上してきた。


話声が騒がしくなってきて、うっすらと目を開けると視界の端に内藤の顔が映

ったのだった。


「ん〜〜〜…おはよ」

「お前ら…仲良いのはいいけど、そろそろ起きたらどうだ?」

「朝から熱々だな〜」


ニヤニヤしながら言う谷口に何を言っているのかと疑問が浮かぶ。

二人はすぐにテントを閉めると出て行った。

見られてやばい事なんて…!?


ここはいつものベッドじゃない。が、今温かいと感じているのは布団ではなく

人の温もりであって、抱きつかれて寝ている状態を見られたと言う事だった。


「おい!起きろって!」


慌てて抜け出すとすぐに着替えた。

短パンにTシャツと言う薄着で抱き合っていた為、直に暖かさが伝わっていた

訳だった。


確かに昨日はよく寝れた気がする。

が、しかし…見られてしまった事には千尋の方に非があると思う。


いつもなら早く起きて、みんなが起きる前に起こしてくれればいいのにと思うと

余計に腹が立つ。


「いつもは目覚めいいだろ?さっさと起きやがれ!」

「ぅ…んっ…た、たっちゃん?」


まだ寝ぼけているのか寿の顔を見るとグイッと掴み抱きしめてくる。

流石に今度ばかりはとどまらせると、揺さぶって目を覚まさせようとした。


「おい、マジで寝ぼけてるのか?おい?」

「うん…目の前にたっちゃんがいたからつい…」

「いや、目の前にいたらついで抱きつくのかよ?ほら、行くぞ」


服を投げると着替え終わるとテントから出た。

他のみんなはテントの片付けをしていて、寿と千尋もすぐに片付け始めた。


「昨日はお楽しみだったのか?」

「ふざけんなっつーの。千尋が寝ぼけてたんだよっ」


谷口の冗談をピシャリと返すと今日の予定を考えていた。

今日は本格的な山歩きが主で、あとはバスで帰るだけだった。


と、言っても結局は列を成して歩くだけの観光的なものだった。

後ろの方には先生も引率でいるので迷子の心配はない。


もちろん道さえ外れなければの、話だが…。


前を行く引率の先生の後を班ごとについて歩いていく。

中には遅い生徒もいるので、真ん中と最後尾にも引率の先生がいる状態だった。


寿達は大体真ん中辺りを歩いていたのだが、女子が疲れたと言い出したので少し

休憩することになった。


「ごめんなさい、私が体力なくって…」

「いいって、ほら水が流れる音がして、休憩にはいいよね?」


寿が曖昧に濁すと、谷口も、内藤も賛同する。

市川さんに気を使わせないようにの配慮だった。


途中で先生にも声をかけてもらって、少し休む事を伝えたのだった。


「こうしてると山の景色見ながら休憩っていいよね?俺達も疲れたし丁度よかった

 かも…なぁ?」

「ん〜そうだね。水いる?」


相槌を打った千尋は自分のリュックから水を取り出すとキャップを開けてから寿に

渡した。


「あぁ、ありがと。」

「それと、これもね。ほら口開けて?」

「はむっ」


氷砂糖を寿の口の中に放り込むと満面の笑みで自分も水分補給をする。


「岩井ってさ〜なんで自分のを飲ませたんだ?」

「ん?たっちゃんの取るより早くない?」

「まぁ〜そうだけどさ…間接…いや、それって何?さっき食べさせたやつ」

「これ?氷砂糖だけど?疲れてて汗をかいた時はいいかなって」


リュックから取り出されたのを眺めると谷口と内藤も欲しがったのだった。

千尋は気前良く女子にも配った。

もし聞かれなかったら、寿だけだったのだろう。


用意がいいと言うか、なんと言うか…。

見ている班員は呆れて言葉を飲み込んでしまったくらいだった。


汗をかくとすぐにタオルが出てきて拭いてくれるって、どれだけだよとツッコミ

たい気持ちを抑えつけながら前を歩き始める。

途中で雲行きが怪しくなってきたが、ゆっくりだが前へと進んでいく。


するといきなり市川さんが足を滑らせると顔面から転倒してしまった。


バターンッ!?


「大丈夫?」


すぐに後ろを歩いていた寿が手を差し出すと、恥ずかしそうに立ち上がるとそれでも

めげずに歩き出す。


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