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カタクリの恋  作者: 秋元智也
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第四話 

寿はバスの中が退屈になってくると早速リュックの中のお菓子を開けた。

バリバリと食べ始めると音を聞きつけた谷口が後ろから手を伸ばして袋に手を突っ込む。


「おい、俺のお菓子だっつーの!」

「少しくらいいいだろ?どーせたくさん持ってきたんだろ?」

「そんなに持ってきてねーよ!」


文句を垂れながらもぐもぐと口に運んだ。

横からポロポロと溢れた食べかすを千尋が苦笑いしながら払ってくれていた。


「たっちゃん…口元ついてるよ?」

「いいのっ!こんなのすぐに取れるしっ…」

「ほらっ、ここにも…」


側から見たら世話を焼くお母さん的存在に見えてくる。


「岩井ってさ〜寿の母ちゃんみたいだよな〜」

「あー分かる!それなっ!」

「誰が母ちゃんだよ!俺は子供じゃねーし!」


周りにも笑われながらあっという間に現地に到着した。


各自明るいうちにテントを張れと言われ、各個人で二人一組になってテントを張る

事になった。


女子は二人なのでそのままペアになってもらう事にした。

あとは男子の振り分けだったが、すぐに岩井が寿を掴むとテントを取りに行ったので、

選択の余地はなかった。


「やっぱりあの二人ってさ〜」

「無駄口はいいから、俺らも行くぞ」


何か言いたげな谷口を遮ると内藤もテントを取りにいく。女子の分も手伝うとなんとか

様になった気がする。


そこで集合がかかり、食材を取りに来るように行くように言われて各班から一人取りに

行った。


「俺行ってくるよ」

「なら任せた!」

「おー行ってこい。俺らは休憩してっし」


岩井がついて行こうとしたが、内藤に止められた。


「各班一人だってよ。そんなに甘やかしてどーすんの?」

「べ、別に…そんなつもりじゃ…」


岩井は言いたいことを飲み込むと黙って座った。

だだっ広いキャンプ場の一角にテントを張ったあとは、釜戸での炊飯になる。


食材が届くと、水を汲みに行って、あとは調理に入る。

はじめての飯盒炊飯に全員が戸惑っていた。


メニューは定番のカレーライスだった。


寿が帰ってくるとみんなで手分けして作業に取り掛かる。


「おかえり、たっちゃん。重くなかった?休んでていいよ?」

「甘やかすなって!寿、こっち手伝って」

「ご飯はこっちでやるから女子達はカレーの方いい?」

「はい。皮剥き機ってどこにありますか?」


女子の言葉に一瞬固まった。

こんなところにピューラーなどない。


「包丁で皮剥けない?」


内藤の質問に女子の答えが返ってくる。


「いつもは家でもお手伝いしてるけど…包丁で剥けるの?」

「私もいつもピューラーだし〜」

「皮ってついてても平気?」


まさかの皮付き発言が出てきた。

それは勘弁して欲しかった。

すると、岩井が包丁を握るとスラスラと野菜の皮を剥いていった。


「これでいいよね?」

「わぁ〜、岩井くんってなんでもできるんだ〜」

「すごーい!なんでもできる男性って素敵〜」


口々に言うと、褒め称えた。

少しのハプニングを混じえながらもなんとか、形にできた夕食にありつけたのだった。

計3時間もかかって出来たカレーライスは外で食べるせいか格別だった。


「これ、うめーじゃん!」

「俺、おかわりしていい?」

「俺も…」


女子がよそってくれている中、寿がおかわりしようとすると、すぐ隣の岩井が立ち上

がり、手を差し伸べたのだった。


「おかわりするでしょ?」

「おぅ、ありがと」

「どういたしまして」


嬉しそうによそうと、寿は当たり前のように受け取って食べ始めた。

それを眺めていた女子も何も言えずにただ黙って見守っていたのだった。


「岩井くんってさぁ〜」

「うん、私も思った〜」


何やら、女子だけで盛り上がっているらしい。

それから集合がかかると、薪を積み上げてのキャンプファイアが行われた。

焚き火を囲みながらレクリエーションをすると、やっと就寝時間となる。


その頃には雲も晴れて、満天の星空が一面に広がっていた。


「星がすげーな〜」

「あんま、興味なかったけど…マジで綺麗だな〜」


寿は千尋の横で見上げるとポツリと漏らした。


「可愛い…」

「ん?何か言ったか?」

「いや…なんでもないよ」


隣の声に一瞬何を言ったか聞き返したが、千尋はただ誤魔化すだけで何も言わなかった。

確かに寿の耳には聞こえていたのだ。


『可愛い…』


そう聞こえた。

一体誰に言った言葉なのだろう?


クラスの女子か?

はたまた同じ学年の誰かか?


今この場にいる誰かを見て言った言葉なのだろう事だけは分かった。

真っ暗で見えるのは近くの顔だけだろう。

中央にある炎の光があったとしても今は、見える範囲はかなり狭まれている。


寿は周りに気を配りながら、近くの女子を探した。

見える範囲にいるのは同じ班の市川と新井だけだった。


(やっぱり、千尋の好きな人って…市川さんか、新井さんなのか?)


勝手に想像して、少しモヤモヤした気持ちになって行く。

美味い飯に、綺麗な星空。

そこまで楽しく過ごせていたのに、一瞬で気分が落ち込む。


「テント入ろっか?…たっちゃん?」

「あっ、あぁ…そうだな」


先生の見回りの時間になる前にとテントの中に潜り込んだのだった。

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