第三話
その日から毎朝迎えに来る千尋を横目に眺めながら考えてしまう。
すると、いつの間にか寿を見た千尋と目が合うと気まずそうに目を逸らした。
「たっちゃん?何か気になる事でもあった?」
「いや…なんでもねーよ」
まさか、昨日の告白聞いてて、好きな女子って誰なんだ?なんて聞けるはずも
ないので余計に気になって仕方がなかった。
学校に着いてからもそわそわして仕方がなかった。
「たーもーつーくーん!」
「なんだよ〜」
「サマーキャンプのグループ分けの用紙書こうぜ〜」
「あぁ、そういえば忘れてた…」
谷口に言われると渡された用紙を取り出した。
自分の名前を書くと後ろの席に座る谷口に渡す。
谷口も書き終わると横に来ていた内藤も書き添えた。
「あとは〜岩井だなっ…」
「それなんだけどさ…あいつ入れるのやめね〜?」
「なんだよ、喧嘩でもしたのか?」
「いやっ…そういう訳じゃ…」
「ならいいだろ?お前ら仲いいじゃん?ほれっ、噂をすれば来たぞ?」
谷口に言われると入り口からひょっこりと顔が見えた。
「サマーキャンプの事なんだけど…」
「そういえばさ〜岩井に聞きたいんだけど、たもっちゃんがさ〜お前と一緒は
嫌なんだと!なんか喧嘩でもしたのか?」
「たっちゃん…どういう事?それ…」
「いや、別に嫌じゃねーけど…ほらっ、他に一緒に行きたい奴がいるんじゃねー
かなって思ってさ〜」
「そんな人居ないけど?たっちゃん、何か隠してる?」
「何にも隠してねーし。なら、ここに名前書けよ…」
「う、うん。」
何か言いたげな顔で見ていたが名前を書くとそのまま帰っていった。
「寿、お前何か変じゃねーか?」
「だよな〜。何か隠してるだろ?白状しろよ〜」
内藤の言葉に谷口も賛同すると掴みかかってくる。
脇をこしょぐると腰辺りに移って行く。
「ぎゃはっはっあっはっ〜〜〜やめいっ…はぁ、はぁ、はぁ!」
笑い転げると笑いすぎで苦しくなってくる。そこへ授業に来た先生が入ってきて
やっと解放された。
「次は放課後な!」
「なっ!じゃねーよ!」
谷口に文句を言いながら席に着いたのだった。
それから数日が経って、内藤が同じクラスの女子を誘ってきたのだった。
「こっちが市川さん、そしてこっちが新井さんね。多分知ってると思うけど、隣の
クラスの岩井くんも一緒だから…」
「「はい、よろしくお願いします。」」
二人は岩井に紹介されると頬を染めながら喜んでいた。
どう見ても顔だけはイケメンな岩井と親しく出来るチャンスとあれば女子なら誰でも
浮かれるだろう。
どう見ても地味な二人は余計にだろう。
岩井も紹介されると軽く挨拶をしていた。
それでも、寿の前と違って口数は少なかった。
「一体誰なんだよ…」
「何か言ったか?」
「いや…なんでもない」
ボソッと呟いた言葉に内藤が聞き返したが、寿はすぐに否定した。
千尋の片思いの相手が気になって仕方がないのだが誰にも聞けず悶々としているのだ。
紙には片瀬を始め、岩井千尋、谷口洋介、内藤伸二、市川朋子、新井仁美の6人の名前
が書き加えられた。
それを先生に提出すると、もう後戻りはできない。
サマーキャンプの日程は1泊2日で山の生活に慣れるというものだった。
山の自然に触れて、自分達でご飯を作り食べて、夜はキャンプファイアを囲み、テント
で就寝する。
朝早くに起きると、森の中を散策する。
そして夕方には帰ってくるという日程だった。
トイレも仮設らしく、夜は真っ暗だと言っていた。
「でも満点の星空なんて綺麗だろうな〜」
「それ素敵よね〜」
女子達は浮かれていたが、男子は星に興味などなかった。
「俺、虫苦手なんだけど…」
「あ、俺も…」
寿の言葉に谷口が賛同した。
この前ゴキブリを見つけて大騒ぎして母親に退治してもらうまで部屋に入れなかった。
しかも外でテントと言うことは、どんな虫がいるか想像もつかないのだ。
楽しいはずのキャンプが、一瞬にして恐怖の環境に早変わりする訳だった。
「暗くて虫なんて見えねーよ!」
「言うな!思い出させるなーー!!」
「そうだぞ!見つけた時が一大事なんだぞ!」
内藤のツッコミに二人が一斉に捲し立てる。
そんな会話に女子が笑い出した。
よっぽどツボにハマったのか、楽しそうだった。
キャンプ当日。
その日はあいにくの曇り空で、夜の星空は不安定な天気によって不安視されていた。
「たっちゃん、持ち物大丈夫?」
「大丈夫だって!子供じゃねーんだから…」
「ならいいけど…」
いつものように、世話を焼く千尋に周りも呆れるような目線を送った。
「さぁ〜行くぞ〜」
張り切って荷物をバスのトランクしまうと簡単なリュックだけになる。
各自軽装になると、バスへと乗り込んだのだった。
途中パーキングエリアに止まってトイレ休憩を取りながら人里離れた山の中へと入っ
ていった。
今はクラスごとじゃなく、グループ毎に分かれているので、寿の横には千尋が座って
いるのだった。