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いつか、剣と拳が交わる場所で  作者: 夜野 織人
第1章 白狼は温もりを夢見る
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第9話 接敵、邂逅、襲撃

第9話 接敵、邂逅、襲撃



 その白い毛並みを見た瞬間、マイトは鋭く両手の紐を引いた。白狼から目を離さないようにしながら、両手をそっと上にあげることで『発見』の報告に代える。やがてゆっくりと集まってきたロイとカンゼを連れ、一度白狼から距離を取り、森に潜む。


「状況は?」

「発見した。作戦通りに」

「了解です」


 小声でやりとりを交わした3人は、それぞれが散開する。


 作戦の根幹は、一撃決殺。大威力のロイの全力の拳を、白狼に叩き込んで終了。マイトとカンゼはその隙を作るために動く。シンプルでわかりやすく、だが効果的な作戦だ。


 陣形を組み終わったことを確認したマイトは、静かに息を吐き出す。目の前に鎮座する特異種白狼。周囲を警戒する様子もなく、静かに目を閉じている。それはこの森における王ゆえの慢心か、余裕か。木漏れ日を浴びた白毛が、微かに光る。土汚れすらないその出で立ちは、まるで神聖な獣のようだ。


(……怯むな。奴は特異種――魔玉を取り込んだ、魔王の雛。いずれ人類に牙を剥く、敵なんだ)


 生きるか死ぬか。


 決まっていたはずの覚悟が揺らぐのを感じ、マイトは自分の胸に手を当てた。マイトは知っている。自分が大した人間ではないことを。


(散々考えた悩みだ。今更だな)


 自嘲の笑みを浮かべたマイトの顔が、次の瞬間切り替わる。


(できないことは、できないんだ――今は俺のできることをやるだけだ)


 剣を抜く。聖剣でも魔剣でも名剣ですらない、ただ質の良いだけの無骨な直剣。それでも、自分の命を守り、敵を滅ぼしてきた頼れる相棒だ。数秒目を閉じ、想像する。それだけは、自分の強みだから。


「【shrumy(幻影よ)】……!」


 魔力の使用。魔術の行使。言葉、匂い、気配、どれに反応したのかはわからない。だが、気付いたのは確かだ。微睡んでいたのか、白狼の目が見開かれる。強烈な存在感が、瞬間的に殺意と敵意となってマイトに叩きつけられた。


 震えそうになる足を叱咤しながら、マイトは自身に出せる限りの速度で走る。うまくいけば一撃で終わる作戦。ならばこの一撃に、全てを賭けない理由などない。


 魔術の存在を背後に感じる。特異種白狼に対する陽動は3段構えだ。まずは、マイトが魔術を行使して斬りかかる。


 先手を取った。だが、白狼は冷静だった。敵を見定めるために、まずはマイトから距離を取る。


 白狼は知っている――距離を取った自分が、早々敵に負けることはないことを。


「【Singyura(我が呪詛) tn() qeruz(応えよ)】……!」


(想定内!)


 白狼の三尾が高々と掲げられ、巨大な火球が3つ生成される。そして走り寄る2つ(・・)の人影を確認し、白狼はわずかに思考する。おそらく時間差攻撃。無駄なことを、と白狼は3つの火球を放とうとした。


 瞬間、解き放たれた膨大な魔力の圧に、白狼は即座に反応する。本能が全力で警鐘を鳴らす。全魔力量ならば自分の方が格上だが、強力な魔術が行使されている気配。熟練の魔術師ならば魔術の気配を感じ取れるというが、永きを生きる白狼はその感覚を知っていた。


 3つの火球を人影に放ち、来るであろう攻撃に備える。もはや、火球の着弾を確認している余裕はなかった。牙を剥き出しにし、来るであろう魔術の攻撃に備える白狼――だが。


 今度は、魔術の気配が霧散する。突如として消えた気配、拍子抜けで白狼が狼狽する一瞬を狙って投げナイフが飛んだ。狙いは左目。白狼は顔を逸らして頭の骨でナイフを弾く。


 火球をくぐり抜けたマイトが肉薄し、喉を狙って剣を振るう。狙いが甘くなった火球を避けるのはそう難しいことではなかった――だが、あくまで白狼にとって火球は小手調べ。


 甘い、と右前足を振り下ろす。生物の弱点である喉や腹を狙うには、振り回される足や牙を避けなければならない。


 無謀にも全力で飛び込んできているその人間は、もはや足を躱す手段はない。だが、足が直撃する瞬間、その人間の姿が弾けて消える。そして、右前足は空を切り、地面を陥没させた。


 一瞬の動揺。


 目の前で獲物が消えた白狼は、思わず見失った人間を探す。


「こっちだ、白狼!」


 背後。三尾に向けて剣を振り下ろす人間。どうやって回り込んだか、考えるまでもなく尾を振るう。火球を発生させる三尾を狙ったのだろうが――三尾はただ火球を発生させるだけではない。振るえば木をへし折るぐらいの威力はある。咄嗟に剣を割り込ませたようだが、本気で振り抜いた尾の威力に耐えられるはずがない。


 死ね。


「――おおおおおらぁッ!!」


 その瞬間、白狼は背後の人間に集中していた。最初は周囲の警戒を怠らなかったのに、度重なる虚を突く攻撃に、ようやく直撃を確信し油断していた。確実に1人を葬った感覚が、白狼の警戒を拭い去った――




 ――藪から飛び出してきたロイの拳が、白狼の顔面に突き刺さった。


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