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即興小説トレーニング集  作者: レーディ
8/22

「うーん…モグラかな」/お題:シンプルなモグラ/百合

 貴方は目を離した隙にいなくなる猫のようだと言われたことがある。貴方は誰にでも尻尾を振るように見えて、ちゃっかり品定めをする犬のようだと言われたことがある。あるいは、うさぎだとか、フクロウだとか、タカだとか。なにかと動物に例えられることが多い人生を送ってきた。いや、話のネタの一つに「私を動物に例えるならどんなかな?」なんて言ってきたせいだろうか。


 なんにせよ、今の私はこれまで例えられてきたどの生き物にも当てはまらない生活をしている、と思う。

 公園で引っ掛けた女の子の家にヒモとして居座りはじめて早数ヶ月。ヒモとして女の子の家を転々としてきた私の人生において、なかなかに長い生活をありがたくも送っている。というか、甲斐甲斐しくお世話されている。

 元々ヒモに弱い女の子だったらしい現在の飼い主は過干渉せず、それでいて放置もせず、付かず離れず、それでいて衣食住を満足行くまで提供してくれる。正直なところ、都合の良いカモとして知らず知らずのうちに何かの策略に嵌められているのではないかと疑うレベルだ。……ああ、カモに例えられたことはなかったかな。


 今日もあの子は元気にお仕事中で、それでいて今はお昼な訳だが。

 レンチンして食べてねと言われていたお皿の存在を思い出す。それでもなんだか、今だけは、そうたまたま今だけは布団から動きたくない気分だ。

 ちゃんと食べてねと心配そうに怒られるのは正直グッとくる一方でしっかり罪悪感も募る。寝台の上に築き上げたこの穴蔵から出なければ。


 どうにかのそのそと這いずり出て、リビングに差し込む日の光に目を細めれば、途端に寝室に舞い戻りたい焦燥にかられる。

 ああ。やっぱ私、穴蔵の中でぬくぬくしていたいな。養い主の好み通りに着飾られることもなく、派手な家具に目を焼かれることもなく、二人で暮らすには少し狭いくらいのこの質素な部屋の寝室で、一人ダラダラ篭っていたい。


 こんな私を見たらあの子はなんて言うだろうか。帰ってくるなりお説教だろうか。いや、優しく甘いあの子のことだから、もう、と言ってはにかんでばかりになるのだろう。

 そんなあの子に向かって、こんなどうしようもない私を動物に例えてくれと懇願したら、あの子はなんと言って、笑うだろうか。

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