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即興小説トレーニング集  作者: レーディ
16/22

よわい狐/お題:すごい狸/百合

 ひゅうひゅうと冷たい風が落ち葉を捲るような季節がこの山にもやってきた。

 秋色に染まっていた山の風景は徐々に落ち着きを取り戻し、少しでも散歩をしようと思うと四本の足がいちいち乾いた葉の海に溺れるような、そんな今日この頃。

 私の親友であり幼馴染でもある狸女が、飽きもせず、今日も今日とて変化の成果を披露しにわざわざ私の住処へと落ち葉をかき分けやってきた。


「今日こそカンペキなニンゲンの姿になるから!見ててよー?」


 ふふん、とわざとらしく胸を張ってから、くるりと宙を一回転する彼女。

 瞬間冷たい風が落ち葉を巻き上げ、一度目を細めてしまえば、次の瞬間にはあの狸の姿はなかった。

 代わりに。


「……アンタ、ケンタウロスになる方が向いてるんじゃない?」

「ん?それは有名なニンゲンなの?向いてるってことは私、ニンゲンの間で有名になれる?すごい狸になれる!?あ、私なんだから簡単になれるに決まってるか!」


 狸の胴体に少女の身体が生えているような化け物が、自信満々な顔で私を見つめている。不気味だ。普通に気持ち悪い。

 一つ大きなため息をつき、そのままそれを風に乗せてヤツにぶつければ、彼女は風に押されてこてんとひっくり返って、再び落ち葉を巻き上げた。


「あーっ!勝手にヒトの術解くのは禁じ手でしょ!」

「……見てられなかったんだもの」


 目線を逸らしてそう言ってやれば、私の評価がご不満だったのか彼女はぷいっと顔を背向けて「いいもんいいもん!」と子どもみたいに大きな声で鳴き始めて、そのまま怒った調子でスタコラさっさと帰っていった。

 全く、毎日毎日よくやるよ。……本当に、よくやってるよ。


「───あと半年もしたら、ニンゲンの街に行っちゃうのかな」


 着実に術を上達させていく彼女に、私が寂しさを覚えているなんて。

 絶対言ってやるもんか。

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