表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
即興小説トレーニング集  作者: レーディ
13/22

魅惑の甘さ/お題:魅惑の発言/百合

 時間短縮の為だのと言って、デート中に駅ビルを通り抜けようなんて思ったことが間違いだったのだと。

 そう突きつけるようにして、魅惑的な言葉たちは矢継ぎ早に私に襲いかかってくる。


「現在当店では期間限定ガトーショコラを販売しておりまして───」


 右からは甘い香りと共に愛らしい声でそう囁かれ。


「出来立てあつあつコロッケ!早い者勝ちだよ!」


 左奥からは快活な声に耳をつんざかれ。


「ヤダヤダー!さっきのくりのけーきたーべーるー!」


 すれ違ったばかりの子供にさえ導かれ、私の中の何かの糸はとうとうぷつりと音を立て、ちぎれ、弾け飛ぶ。

 瞬く間に私の口内は涎で満たされ、鼻腔は甘美な香りに包まれ、私の視線は煌びやかなグルメに手招きされて。

 誘われるがままふらふらと彼方へ此方へ行こうとすれば、ぐい、と痺れを切らしたようにして腕を引っ張られる。


「我慢してください」


 私よりもいくばか背の高い彼女にぴしゃりとそう咎められてしまえば、私はぐ、と喉を詰まらせることしかできなかった。喉を滑り落ちる欠片を食むことすら今の私には許されないというのか。

 抗議の目で訴えかければ、はあ、と呆れ切った証のため息が返ってくる。


「そんな反応しなくてもいいでしょ!?」

「するよ。しますよ。全く」


 まるでアンドロイドのように無機質にそう言い放つと、彼女はすたすたと、それでいてぐいぐいと私を引っ張っていく。

 スイーツコーナーを、弁当コーナーを、惣菜コーナーを、すべての食のコーナーを通り抜けると、そのまま自動ドアすら感慨もなく通ってしまった。

 おいおいと悲しみに打ちひしがれる私を見て、再度ため息をつく彼女。

 私はそれに大袈裟にびくりと肩を揺らして、錆びたブリキの気分になってゆっくりと振り返る。


「……これからカフェに行くんでしょ?そしたらそこで、その、ついでにケーキ買ってあげますから。早く行きましょ。美味しいの、一緒に選んであげますし」


 気まずそうに。それでいて、照れ臭そうに。

 熟したイチゴのようにかすかに頬を染めながらそっけなく言い放たれたそれ。

 その発言は、どんな言葉たちよりも魅惑的なものに思えて仕方がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ