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即興小説トレーニング集  作者: レーディ
10/22

絵本で見たことがあったらしい/お題:何かの天気雨/百合

 捨て猫のようにしてダンボールの中でしょぼくれていたのじゃ狐(お約束通り女の子に変身可能)をひょんなことから拾ってからはや数週間。

 今日もお狐様は楽しそうに子ども向け絵本を読み漁っていた。


「桜子。わしは散歩したいのじゃ」

「……つまり外に連れ出せと?」


 うむ、とご機嫌に目を細めては、彼女はもふもふの尻尾を揺らす。

 どうしようかなあ。だってもろ尻尾と耳生えてるし。そう思案しているのを見透かしたのか、ぽんっ、と音を立てて彼女の体からもふもふか消え去る。

 少し寂しくなったその体はなるほど、ごく普通の人間の少女のそれにしか見えない。


「…ずっと隠せる?それ」

「わしにかかれば明朝から夕刻まで隠し通すことなど容易いことじゃ!なんじゃ桜子、わしを舐めておるのか?」

「いや、そういうわけじゃないけどさぁ」

「ならばさっさとわしを連れ出せ!手始めにとうきょうタワーに、つぎは虹を見に、そのつぎは、」

「ちょっと待って待って待って」


 指折り数え出した彼女を慌てて静止すれば、不満げにむう、と頬を膨らませられる。

 一体全体どうしてそんな発想に。そう尋ねれば、彼女は本棚に差し込まれた数々の絵本に目をやった。

 なるほど。余計な知識を得たのか。


「……今言ったのは今日明日じゃ無理だけど、とりあえず外には連れて行ってあげるから。出てから改めてやりたいこととか行きたい場所とか考えようよ。ね?」

「ふうむ。いずれ見せに行ってくれるか?」

「虹は自然現象だから約束はできないけど…まあ東京タワーなら……うん、いつかね」


 彼女は私の言葉を聞くや否や目を輝かせ、いつの間にか再度飛び出していた尻尾を嬉しそうにパタパタとはためかせた。

 可愛らしいが、やっぱり東京タワーまで連れて行くのは流石に不安だ。

 それでもいつかはたしかに見せてあげたいと思うのは、親バカ心のような物だろうか。

 自嘲しながら簡単に支度を整え、彼女に背を押されるがまま玄関の扉を開く。


 瞬間、サア、と柔らかな雨音が私の鼓膜を揺らした。

 窓から見た時はたしかに晴れていて、未だってたしかに晴れているのに。

 一瞬呆気に取られていれば、わあ、と隣から感嘆の声があがる。


「な、なんじゃこれは!神の仕業か!?狸の悪戯か!?」

「……狐なのに知らないんだ。…あー、えっと、これはお天気雨っていって、」

「何!?かのお天気雨か!これがそうなのか!」


 私の説明を遮るように愛らしくはしゃぐ彼女は、やっぱりもふもふを隠せていなかった。

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