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(一之瀬立夏視点)ずっと男だと思っていた年下幼馴染と再会したら実は女の子で天才美少女ヴァイオリニストになっていた。〜スランプから救った結果生放送のインタービュー中に告白されました〜


短編「ずっと男だと思っていた年下幼馴染と再会したら実は女の子で天才美少女ヴァイオリニストになっていた。〜スランプから救った結果生放送のインタービュー中に告白されました〜」


逆視点バージョンです。


前作を先に読んで貰えるとより一層楽しんで読んでいただけると思います。





私は一之瀬立夏。


高校2年生で美少女天才ヴァイオリニストと言われている。

カタンコトンと電車が揺れる。

私は車窓から移り行く景色を無心で眺めていた。


去年、私は黒川ゆうきと名乗って全日本ジュニアコンクールで金賞を受賞し日本一のヴァイオリニストになった。


そして今年、私は連覇をかけて再び全日本ジュニアコンクールに出る。


挑戦者として挑むのと王者として挑むとでは期待度が違う。

みんなの期待に応えられるようにプレッシャーを感じながらも頑張ってきたけど、昨日ぷつんと何かが切れてしまった。


そしたら、今まで出来ていた事が出来なくなって……それで余計焦って、どうしようって泣きそうになった瞬間、友にいちゃんの顔が思い浮かんで……気がついたら連絡をしていた。


友にいちゃんとは私の幼馴染み岸谷友樹。


殻に篭っていた私を助けてくれた恩人であり……わ、私の……は、初恋の人。


髪はリーゼントでダサくて喧嘩もすごく弱かったけど、いつも周りには沢山人がいて、皆から慕われていた。

そんな友にいちゃんはカッコ良くて、大好きだった。

外に連れ出してもらい一緒に夜まで遊んで二人して大人たちに怒られていた。


いつしか、何をするにも友にいちゃんの後ろについて行って、いろんなことを教わった。


たけど友にいちゃんは引っ越しちゃって……最初は連絡をとっていたけど、私がヴァイオリンで忙しくなって途絶えていた。


だからか、今少し緊張している。


久しぶりだな……やっぱり友にいちゃんも色々と変わったのかな?


なんて、少し不安を感じながら駅に着いた。



「はぁ〜ほんとに来ちゃった。お父さん、お母さん心配して……るよね絶対」



実は今回の外出は親にもヴァイオリンの先生にも言っていない。

スマホも持たず財布を握りしめ、一人で来てしまった。



「……初めて、ヴァイオリンの稽古サボっちゃったな」



あ、そうだ。黒川ゆうきってバレないように変装しないと。

持ってきたサングラスとマスクと帽子をつけて友にいちゃんを待つ。


すると



「ねぇ、君可愛いね!! ちょっと俺たちと一緒に遊ぼうよ!」



ガラの悪い男の人達に絡まれてしまった。



「あ、え、えっと。ごめんなさい……ひ、人を待ってるので……」


「それって俺たちのことでしょ? よし! じゃあ、行こっか!! 良いところ連れて行ってあげるよ!!」



私の胸をニヤニヤした目で見ながら言う。

そんな視線にぞくっと寒気がした。



「あの……やめてください」


「いいじゃん! 俺たちと一緒に遊ぼうよ!」


「さっきちらっと素顔見たけど君、めっちゃ可愛いし、絶対楽しませてあげるからさぁ」



ガシッと肩を絡まれる。

振り払おうにも力が強くて出来ない。

不良二人はかなり柄が悪い為、通行人はみんな見て見ぬ振りをする。


もし黒川ゆうきとばれてしまったら?

そう思うと怖くて声も出ない。


どうしよう……どうしよう……思わず俯き、涙が出そうになった。


ともにいちゃ――



「……おい。やめろよ。その子嫌がってるだろ」


「!!」


声を聞いた瞬間わかった。

顔をあげると目の前にはあの時から変わらない岸谷友樹が居た。



「はぁ? なんだお前?」


「ヒーロー気取りか? あ?」



絡んでいた不良達が私から離れ、友にいちゃんの方へ向かった。



「その子と遊ぶ前に俺と遊んでみるか?」



胸ぐらを掴まれた友にいちゃんは表情変えず不良達にそう言った。



30分後



「もういいや……行こうぜ」


「だな」


友にいちゃんは不良たちにボコボコにされた。

だけどいくら蹴ったり殴ったりしても立ち上がる友にいちゃんに不良達は諦めた表情をして帰って行った。


友にいちゃんは昔から変わらず、喧嘩が弱かった。



「い、痛い……」



傷だらけでぼろぼろになりながら友にいちゃんは立ち上がった。


「……では」


こちらを向いて一礼し、よろよろとどこかに行こうとする。


……あ、そっか。こんな姿だから気づいてないのか。

なのに、助けに来てくれたんだ。


ああ……変わってないなぁ……


それで無性に嬉しくて自然とマスク越しで口元が緩んでしまう。


いけないいけない。

ピシッとだらしなく緩んだ口元を元に戻し、手を差し伸べる。


とくんと心が跳ねた。


くいっと友にいちゃんの袖を引っ張る。



「……?」



友にいちゃんは不思議に思い、振り向く。

マスクとグラサンと帽子を外し、友にいちゃんをじーと見つめる。


気づくかな? そう思って見つめていると友にいちゃんも私を見つめてくる。


真剣な表情。

ああ、カッコいいなぁと思った瞬間、意識しちゃって顔が段々熱くなってきた。



「助けてくれてありがと。相変わらずだね。友にいちゃんは」



誤魔化すようにそう言ってはにかんだ。



「?」


よくわかってないような顔をされた。

うわ、全然気づいてない。

ちょっとおどおどし始めてきたし……もう、しょうがないなぁ……友にいちゃんは。



「分からない? 一之瀬立夏。ピチピチの女子高生です☆」



てへっとポーズを決めながら言うと友にいちゃんはまるで雷にでも打たれたように叫び出す。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



「うーむこの反応……やっぱり私の事男だと思ってたかーまぁ、あの時は髪も短かったし胸もこんなに大きくなかったしねー」



それに男の子みたいな格好してたし、まぁ……しょうがない……か。



「ほら、早く行こうよ」


「あ、あぁ……」


驚きで放心していたともにいちゃんの手を引き、バイクの置き場へ向かった。




「えー!! 何これ!? スクーターじゃん!!」


「そうだよ」


「あれは!? バブバブって音出すやつは!?」


「あーバブか? 最近乗ってなかったから怖くって……」



いや、てへってされても全っ然可愛くないから!!



「何ひよってんの!? あれに乗りたかったのにー!!」


「はいはい……また、今度な」


めんどくさそうに頭をぽんぽんってされた。

まるでごねる子供をあやすかのようなこの行為……許すまじ。



「まぁ、いいや。早く行こ?」


後ろ座席に乗り込み、運転席をぽんぽんと叩いて促した。



「お、おう」


「ぷ、なんでそんなカチカチした動きなの? ロボットみたい」


「う、うるせっ」



友にいちゃんもスクーターに乗り、目の前の背中を見てふと思った。


こ、これ……あれじゃん!! う、後ろから抱き着かなきゃダメなやつじゃん!!


うわ、嘘!! 

だ、だ、抱きつく……いや、そりゃ昔は抱きついてたけどさっ!

そのっ……今は昔とは違うわけで……


でも〜…………う〜!! ええい!!


勇気を出して友にいちゃんに抱きつく。


うわぁぁぁぁ。は、恥ずかしい。



「しゅ、出発するぞ!」


「!! ふーん」



あからさまに動揺している友にいちゃんを見て思わず、不敵な笑みを浮かべる。


そっか、そっか……意識してたのは私だけじゃなかったかぁ。

なら……



「……えへへ……えい!!」



私はさらに力を込め、抱きつく。それにより密着度が上がった。


わ、私知ってるもん!! 昔から友にいちゃんが女の子のおっぱい見てたの!



「お、お前……そんなに抱きつかなくても」



ほら!! めちゃくちゃ動揺してる!!

声めっちゃ震えてるし顔真っ赤!!



「えーだってーちゃんとくっつとかないと危ないしね〜」



そんなこと言ってるけど恥ずかしくて死にそうだ。

幸い、今の友にいちゃんは余裕がないのでそのままスクーターを走らせた。




「痛い! 痛い! もうちょっと優しくしてくれって!!」


「ちょっと!! 動かないでよ!! やりずらいじゃん!」


友にいちゃんのマンションに着き、傷の手当てをしている。



「そういえばさ……昔もこんな感じで友にいちゃんの傷の手当てしてたね」


「そうだっけ」


「む、忘れたの? いつも喧嘩して怪我して来る友にいちゃんをこうして献身的に手当してあげてたのに」



ぷくーと頬をくらませながら愚痴ると友にいちゃんはうーんと思い出そうと唸る。



「あーそういえばそうだったな。いつもお兄ちゃーんっ大丈夫!?て言って泣いてたな」


「もー!! そんなことまで思い出さなくてもいい!!」



友にいちゃんめ……そんなに笑っちゃってさ。

ならこっちも……


「友にいちゃんこそ相変わらず喧嘩弱いね。さすが無勝の最弱王」



友にいちゃんは中学生の頃周りからそう言われていた。

だけど、みんなそんな友にいちゃんが大好きで、とても慕っていた。



「うっせ」



傷だらけの顔で笑いながら言った。



「……なのに、どうして自分より強い相手に平気で喧嘩を挑んじゃうの?」



周りの人達みたいに見て見ぬ振りをすればいいのに。

負けるのを分かっていて助けに来てくれた。


……昔からそうだった。



「いっつも勝てないのを分かってるのに」


「……勝てる勝てねぇじゃねぇんだよ。それに……勝つことってそんなに大事か?」


「!!」


そう言った友にいちゃんはなんだかカッコよくて。

多分、そんなことを平然と言うから友にいちゃんは皆から慕われてたのかな。



「……カッコつけちゃって」


「痛っったい!! だから!! もうちょっと優しくしてくれって!!」



手当が終わった後、ピザを食べながら久しぶりにゲームをした。

昔はよく二人でやっていたゲームだったけど、腕が落ちたせいか私は一回も友にいちゃんに勝てなかった。



「もうやめた!! クソゲーじゃん!!」



コントローラを投げ捨て、不貞腐れたようにベッドに倒れ込む。 



「……立夏弱くなったなぁ。あと、あの……そこ俺のベッドなんですけど」


「うるさいなぁ……だって……全然やってなかったんだもん」



……でも楽しかったな。久しぶりに楽しかった。

枕に顔を埋め、すぅーと呼吸する



「友にいちゃんの匂いがする……」



ああ、なんかとても落ち着く匂い。

この匂い……好き。


あぁ……なんか瞼が重くなってきた。

そういえば最近ちゃんと寝れなかった……な……


そこで思考が途切れ、眠に落ちた。




「……ん? あれ? 私……寝てた?」


むくっと起き上がり、外を見ると日が暮れようとしていた。


ヴァイオリンの稽古は……? あ、そっか……ここ友にいちゃんのマンションか。


タオルケット……友にいちゃんがかけてくれたのかな?


目を擦ると自然とあくびが出た。

……まだちょっと眠たいかも。頭が働かない。


「おはよ。気持ちよさそうに寝てたな」


「うん……あぅ」


「……立夏、ちょっと一走りしようか」


ぼーとしてしてる私に友にいちゃんはバブのエンジンキーを見せながら言った。


「!! うん!!」


久しぶりに友にいちゃんのバイクに乗れる!!

そう思ったら眠気なんて一瞬で目なんか覚めちゃった。




「うわー!! すごい!! 風を感じるよ!! 友にいちゃん!!」


「しっかり捕まってろよ!! こっからさらに加速するぞ!」


「きゃー!! 私達風になってるー!! いえーい!!」



昔のようにはしゃぎながら大声をあげる。

友にいちゃんも心なしか楽しそうだ。


本当に……あの頃に戻ったみたいで、懐かしいな。

そう思っていると次々と大切な思い出が甦って来る。




「よし……到着」



バブを停めエンジンを切り、二人とも降りる。



「ここ……海だ!」



満天の星の下、思わず凸凹になっている砂浜を時々転びそうになりながら走った。


久しぶりに走るから息がすぐ切れちゃうけれど、満天の星が反射している星の海を見ていたらそんな事はどうでもよかった。


海なんて何年ぶりだろ!? ヴァイオリンばっかりで行く余裕と時間なんてなかったからなぁ。



「ねね。ちょっと入ろうよ」



そう言いながらいそいそと靴と靴下を剥いで準備完了!!



「あ、冷たっ!!」



あははっと笑いながら子供のように両足をバシャバシャさせる。

波が来たり引いたり、気持ちの良い潮風が吹く。


友にいちゃんは海面には入らず、靴と靴下だけ脱いで砂浜で私を見ていた。



「ねぇ……覚えてる? 初めてあのバイクに乗せてくれた時のこと」


「……ああ」



今は完治しているが私は小学生の頃、重い病気を持っていて相当危ない状態だった。

お父さんも母さんも生きている心地がしなかったと当時のことを思い出しながらよく言った。


治療の為に髪が抜けちゃって、坊主みたいになっちゃった時期があって。学校に行くときや授業中帽子を被っていた。


先生は事情を知っていたので何も言わなかったけど、学校の皆はそうじゃなくって。


なんで授業中なのに帽子かぶってんだよ! って何人かに囲まれて帽子を取られた。



『うわ、一之瀬髪なくなってるじゃん!』



分かっていた。


分かっていたんだけど。その言葉は小学生の頃の自分には深く刺さった。


それ以降、学校に行けなくなり、休んでいた。


だから、家に引きこもってお父さんのヴァイオリンで遊んでいた。

ヴァイオリンは私が出したい音を忠実に出してくれる。

絶対に私を傷つけないし、裏切らない。


お父さん、お母さん、ヴァイオリン、それが私の全てだった。


それでいいやって本気でそう思っていた。


他人が怖い。


外が怖い。


何より、外に出ることによって他人に傷つけられるのが一番怖かった。



だから自分の殻の中に閉じこもった。


殻の中は暖かくて、安心したから。



だけど



「風、感じさせてやるよ」



ある日突然、私の殻は呆気なく友にいちゃんによって破られてしまった。



「あの時は病気が治ったばっかりで……人と関わるのが嫌で、ヴァイオリンばっか弾いていた私を外の世界に連れ出してくれた」


「あの時のことは今でも覚えてるよ。ともにいちゃんの後ろに乗せてもらって本当に風になっているみたいだったあの時からともにいちゃんは私のヒーローだよ」



本当は――ふと世界に自分一人だけなんじゃないかって不安になる瞬間があった。

一日中誰とも会わず、誰とも話さず、そんな無音が怖くて急かされるように、不安を紛らわすようにヴァイオリンを手にする。


そんな私に友にいちゃんはバイクに乗せてくれた後こう言った。



『もし、今度寂しさで不安になったら言ってこい。必ず駆けつけてお前の傍に居てやる。それなら寂しくないだろ?』



優しく微笑んでそう言ってくれた。


きっと、あの時からだ。

私が……友にいちゃんの事……



「……喧嘩ばっかして、負けてばっかで、怪我ばっかしてるくせにともにいちゃんの周りには沢山の人たちがいた」



「……そうだったっけ」


「うん……子供の頃から思ってたよ。ともにいちゃんは女にはモテないけど男にはモテモテだって」


「おい!! 変な言い方やめろ!!」


「あはは。ともにいちゃんは不思議と人を惹きつける人でひたすらに優しかった」


友にいちゃんの周りの人達はとても強そうでギラついていて少し怖かったけど、友にいちゃんの前ではみんな礼儀正しくて、自分より強いはずの人たちが友にいちゃんの事を慕った。



「だからかな……なんか、他人にはあまり言いたくない事とかも……言えちゃうんだ」



だから……言おう。私が友にいちゃんに会いにきた理由を。


緊張で鼓動が高まる。

落ち着くために深呼吸をする。


……よし。


「知ってるかもしれないけど私ね。実は天才ヴァイオリ二ストなんだよ?」


「――うん。知ってるよ」


なーんだとつまらなさそうに口をやったら困ったような顔をした。


その感じだと、お父さんあたりが私のスマホを使って連絡を取ってきたのだろう。

なら、大体のことはもう知ってるのかな……



「最初は趣味で始めたヴァイオリンだったけど。それが先生に褒められて……それが嬉しくて、中学生になって初めてコンクールに出て、金賞とってみんなからすごいって褒められて」



そう、今思えばそれが黒川ゆうきの原点だった。

褒められたことが嬉しくって、だからもっと、もっと褒められたくて。



「出場したコンクール全部金賞を取った……ねぇ、これってめっちゃすごくない?」


「やるな……ご褒美に飴ちゃんでもあげようか」


「要らんわ」


本当に飴ちゃんを渡そうとしてきた友にいちゃんの手を払う。



「……それで、高校生になって。全日本ジュニアコンクールで金賞を取って日本一になった」



私は夜空を見上げながら手を伸ばした。



「パパもママも先生も学校の人たちもメディアの人達もみんな私の連覇を期待してる」


だから、頑張って、頑張って、頑張って、たくさん頑張ったけど、体より心の限界がきてたみたいで。



「……だからかな? 最近スランプ気味でさ。コンクールは明後日なのに。どうにかしなきゃって、心配させないようにしなきゃって……そう思った時ともにいちゃんの顔が浮かんだの」



友にいちゃんの顔を見る。



「…………ねぇ、ともにいちゃん。言って……私なら大丈夫だよって。金賞取れるよって。ともにいちゃんに言って欲しいのっ」


そう、それが黒川ゆうきが一番欲しい言葉だった。


それだけでいいの。


それだけで、また頑張れるから。



「………………」



友にいちゃんはしばらく黙って、決意したように頷いた。





「お前、ヴァイオリンやめた方が良いんじゃないか」


「…………………………え?」



友にいちゃんは砂浜から海面へ踏み込む。


まるで……私の心に踏み込むかの様に。


踏み込んで欲しくなくて……私は一歩ずつ後ろに下がって行く。


来ないでよ。踏み込まないでよ。駄目、やめて。



「本当にスランプのせいか?」


「やめて……」



どうしてそんなこと言うの?



「メイクしなきゃ隠せないような隈くま作ってまでやることか?」



そんなこと言わないでよ……聞きたくないよ……



「やめて」



「お前、今ヴァイオリン楽しんでるか?」



っ!! なんで!!!



「やめて!!」



思わず、拒絶し、声を荒げながら近づいて来る友にいちゃんを突き放した。



「ぐっ!」



友にいちゃんはバシャっと言う音とともに水飛沫を飛ばしながら海面へ倒れ込んだ。



「どうしてそんな非道い事言うの!? こんなに頑張ってるのにどうして!? 何も知らない癖に!! 何にも見てなかった癖に!!」


倒れ込んだ友にいちゃんに声を荒立てながら言った。


涙が溢れて止まらない。

何回もてで拭いても拭いても止まらない。

泣きながらしゃくりを上げ、身を震わせる。



「どうして……僕が一番言って欲しい言葉……わかるの……」



それは一之瀬立夏が一番言って欲しい言葉だった。



ぽたぽたと私の涙が友にいちゃんの頬に溢れ落ちる。



「先生から貴方は才能があるからってやりたくなくても毎日毎日ヴァイオリンと向き合って……本当は普通に……学校の皆んなみたいに遊びたかった! ショッピングとか、スイーツ巡りとか、色んな事したかった!!」



でも、我慢するのがきっと正しいだって自分に言い聞かせて、何も考えずに毎日ヴァイオリンを弾き続けた。



「コンクールで金賞を取る度にみんな私の事『天才』って言うの……段々と周りの期待熱も大きくなって」



みんな言うの……私なら大丈夫、私ならきっと出来るって……頑張れって、応援してくれるから。


辞められなかった。



「応えてもそれは大きくなるだけで……何度も何度も……そんなの僕は……怖い……」



終わりが見えなくて、頑張る度に難しくなって……辛くなって……だから、本当は


ヴァイオリンが楽しくなくなって、ただ苦しいものになっちゃってて、コンクールなんてもう出たくない。


それが……黒川ゆうきが隠していた一之瀬立夏の本心だった。


ずっと、そんなこと考えてはいけないんだと思っていた。

ずっと溜め込んで、隠してきた。考えないようにしていた。


だけど、それは友にいちゃんによって吐き出されてしまった。

疲れて、立っていられなくて波打ち際に座り込む。



「なんで、そう思ってるのにやめないんだよ」



俯くと海面には泣きじゃくっている自分の顔が映っていた。



「だって……僕には……ヴァイオリンしかないから……ヴァイオリンをやめたらきっと誰も僕の傍にきてくれない。それが一番……怖い」


ヴァイオリンは辛くて頑張ることも辛いけど……一番辛いのは孤独な事だから。


だから僕は――



「俺がいるだろ」


「……え?」



とても優しい声に顔をあげる。



「俺が立夏の傍に居る。それなら寂しくないだろ? ショッピングとかスイーツ巡りもこれから一緒にしていけばいい。海や山でもなんでもこい。どこであろうとも俺が連れて行ってやる。前みたいにさ」


優しく微笑みながら座り込んでいる立に手を差し伸べてくれた。


あの時みたいに。



「………………」



「絶対に一人になんかさせやしない」



「……はは。何それ、告白?」



私は泣きながら笑って手を伸ばした。



「プロポーズ……なんてな」



あぁ……そっか。


私の初恋は……続いていたんだ。


2日後



私は全日本ジュニアコンクールで過去最高の演奏をしてコンクール初の満場一致の金賞を勝ち取った。


自分でも思う、100%以上の力を発揮できた。


友にいちゃんはパシャパシャと記者やテレビの人達に囲まれ、インタビューを受けている私を少し遠くでお父さんとお母さんと一緒に見守っている。



「全日本ジュニアコンクール連覇おめでとうございます!! しかも初の満場一致で金賞とも事ですが今のお気持ちは」


「とても嬉しく思います。それと同時に支えてくださった人たちに感謝しています。一番は皆さんの期待に答えられてよかった……ですけどね」



まぁ、色々と辛い事はあったけど、それだけじゃなかったから。



「期待以上ですよ!! やはり次は3連覇ですか? それとも世界で」


「いえ、私は今回で最後のコンクールにしようと決めていました。なのでもうコンクールには出ません」


一気に記者会場がどよめいた。


お父さんもお母さんもすごく驚いていたけど友にいちゃんだけだただ黙って頷いていた。



「ヴァイオリンはあくまで趣味という形で続けていくと思います。これからは今まで出来なかった事をやっていこうかなって思ってます。好きな人と一緒に」



再び、記者会場が一気にどよめいた。


そして友にいちゃんが吹き出した。


どうせなら引退宣言と同時にやっちゃおうかな。

ふふ……外堀を埋めてやろう……逃げられない様に。


……責任はちゃんと取ってもらわないとね!



「それは……恋人とという意味でしょうか!?」


「あ、えと……恋人ではないんですけど……今は」


「「「今は!?」」」


「小さい時からずっと……好きだった人で……」


「そ、それは初恋ということでしょうか!?」


「はい……ずっとそばに居るよって言ってくれて本当に嬉しくって……だから」


私は友にいちゃんを目を見て言った。



「好きです。ずっと好きでした」


心臓の音がうるさい。顔が熱い。多分今顔真っ赤なんだろうなぁ。



『俺は知っている。これは……この言葉は俺に向けての事だった。それは俺と立夏の……二人だけしか分からない告白』



とか思ってそうだから



「あ、ちなみにあそこで私を見守ってくれている人です!!」



ビシッと友にいちゃんを指さしてやった。

すると面白いくらい記者の人達が友にいちゃんの方向へ向き、突撃しに行った。


「友樹くん!! うちの娘をぉぉ!!よろしく頼むよぉぉぉ」


逃げようとしている友にいちゃんをお父さんが捕まえる。


質問攻めされている友にいちゃんを見ながらは私は笑った。









「……お前、よくもあんな事を」


「あはは〜ごめんて」


インタビューを終え、私以上にぐったりしている友にいちゃんにお水を渡してあげる。



「でも、本当のことだから。小さい時から、今でも……僕は友お兄ちゃんが好き。大好き」



友にいちゃんは目を見開き、照れ臭そうに目を逸らしながら口を開いた。



「……俺は――」


「あ、返事はしなくていいよ」



友にいちゃんの言葉を遮った。



「今までやりかかった事これから友にいちゃんと全部やっていく中で意地でも私に惚れさせて私に夢中にさせて見せるから」



だから、これは最初の――

背を伸ばして友にいちゃんの唇にキスをした。



「っ!?」



耳まで顔を赤くしながら、耳まで顔を真っ赤にさせている友にいちゃんに宣言してやった。



「だから目を離さず、僕の事しっかり見ておくように!!」












最後まで読んでいただきありがとうございます!


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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こちらが主人公視点になります!!


是非お読みください!



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[一言] 最後、血を吐くかと思いました。 グハッ! リア充(憎)
[良い点] 僕っ娘
[良い点] 相変わらず先生の作品は神すぎます
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