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バースデー(2)






「お祖父ちゃんかな?」

「きっとお義父さんね。はーい、今行きます!ごめんなさい三笠さん、このロウソクをケーキに飾っておいてくれる?」

「分かりました。7本全部ですか?」

「ええ。お願いね」


ママはお姉ちゃんにロウソクを渡すと、タタッて玄関に走って行った。



「翼君、本当によかったね。もうお腹グルグルしないでしょ?」


お姉ちゃんがロウソクをケーキに飾りながら言った。


「あ、ホントだ!」


お腹のこと、すっかり忘れてたよ。

エヘヘって笑ったら、お姉ちゃんもにっこりしたよ。




しばらくして、お祖父ちゃんがリビングに入ってきた。

ママも一緒だ。


「お義父さん、こちらが、今お話した三笠さんです」

「おお、あなたが…。うちのが世話になりましたね。今日も翼のためにわざわざありがとう」


お祖父ちゃんはお姉ちゃんにお辞儀して、それから持ってたカバンをごそごそして、テーブルの上に大きな写真立てを置いた。

お祖母ちゃんの写真だよ。



「あいつはおしゃべりだから、うるさかったでしょう?」

「そんなことないですよ」


お祖父ちゃんはお姉ちゃんの返事が嬉しかったみたい。

目の下にシワがクシャってできたよ。



「いい写真…」

「お祖母ちゃんの写真?」

「うん、素敵な笑顔」

「よく撮れてるでしょう?何年か前の写真ですけど、あいつが気に入って、自分の遺影に使ってくれって言うものですから……」

「いえい?いえいって何?」


ボクが訊いたら、お姉ちゃんはちょっと困ったような顔をしたけど、ちょうどそのとき上からパパが達戻ってきたから、みんなはパパが抱っこしてる赤ちゃんの方を見たんだ。

お姉ちゃんもそっちを見ながら、またボクにコソッと訊いてきたよ。


「翼君の妹?」

「うん。パパの後ろから階段おりてきたのがボクの妹だよ」

「え?パパの後ろ……って、…え?あの女の人が……?」



お姉ちゃんは困り顔を驚き顔に変身させた。




「あんな大人の女の人が……妹さん?でも翼君、7歳だよね?だってロウソクも7本だし……」

「違うよ。ロウソクは長いのが3本、短いのが4本あるでしょ?」

「それじゃ……」


お姉ちゃんはまだボクに何か訊きたいことがあったみたいだけど、



「祖母のお友達ですって?」


妹がお姉ちゃんに話しかけてきたから、ボクはお口を閉じたよ。



「え、あ、はい……」

「じゃあ亡くなった兄のことも聞いてるのね?」

「え……と、」


妹は「生きてたら今日で34歳になるんだけどね」って言いながら、棚にあるボクの写真をお祖母ちゃんの横に並べた。



「34歳……?」


お姉ちゃんがびっくりな顔を横向けてボクを見たから、ボクはエヘヘってした。



「ああ、そっか、そういうことか……」


お姉ちゃんは優しく呟いて、それからそっとボクの頭を撫でてくれたんだ。

お姉ちゃんのその手は、すっごく優しいって感じたよ。




しばらくして


「よし、みんな揃ったからロウソクに火をつけようか」


パパの声で、パーティーの始まりだ。



ケーキも可愛いし、ケーキに飾ってあるロウソクもきらきらしてて、心がウキウキしてくるけど、途中から、ボクにはそれがまたキャンディみたいに見えだしたんだ。

でも、お姉ちゃんがくれた風船も一緒にまあるく揺れてて、お部屋じゅう綺麗だった。

すっごくすっごく綺麗だった。



「やっぱり泣き虫だ」



お姉ちゃんが部屋の隅にいるボクに笑って言った。


「違うもん、これは嬉し涙だもん!」

「そうだね。よかったね」

「うん。本当に、よかった…よ………あれ?ボク……」


ホッとしたボクは、何だか急にすっごくすっごく眠たくなってきて、ぺたんと床に座り込んだ。



「きっと疲れちゃったんだよ。もう安心して眠っていいよ。誰も翼君のこと忘れたりなんかしないから」


そうかな?

……うん、そんな気もしてきたよ

ボク、ちょっとだけお昼寝するね………



「おやすみ、翼君」



目を瞑ると、近くだったお姉ちゃんの声も、だんだん遠くになっていった。



お姉ちゃんは、誰かとコソコソ話をしてて…………








「まったく…ちゃんと教えといてよね」




ごめんなさいね

あなたなら言わなくても分かると思ったのよ




「お孫さんが亡くなってるのは聞いてたけど、まさかそんな昔の事だなんて。翼君、子供のまんまじゃない」




可愛いでしょ?私の孫は




「はいはい。で?翼君はもう消える心配ないの?」




そうね

私達(・・)は生きてる人に自分の事を忘れられたら消えてしまうみたいだけど

翼はまだ大丈夫ね

危なかったようだけど




「でも早く生まれ変わった方がいいんじゃないの?」




それもいいけど

翼は家族が生きてる限り見守っていたいのよ

たぶん

その後で生まれ変わっても遅くはないわ




「なのに、家族に誕生日を忘れられてると誤解して、危うく暴走しかけてた……だから、あなたはそれを止める為に私を翼君に会わせたんだ?」




大正解

あのままじゃ翼が誤解したまま消えてしまいそうだったから

玄関の扉を開いて外に出るように促したの




「そんな面倒な事せず、自分で翼君に教えた方が早かったんじゃない?」




だめよ

私はもうすぐして夫がこちらに来たら一緒に生まれ変わるつもりだもの

もしその時今の私と一緒にいたりしたら

残される翼が寂しい思いをしちゃうでしょう?

だから会わない方がいいのよ




「ふうん。でも、あなたは忘れられる心配はなさそうね。だってお祖父ちゃん、あなたの事大好きって感じだったもの」




あらそう?

ふふ

嬉しいわね




「でもあの赤ちゃんは翼君の妹さんの子供だったのね」




そうよ

里帰り出産したの

あの子にも私の唐揚げを食べさせてあげたかったのだけど……




「翼君、大好きだって。お祖母ちゃんの唐揚げ」




あら、私は翼が大好きよ











その時、ボクは夢を見てたんだ

お祖母ちゃんの唐揚げをたっくさん食べる夢

だからいっぱい元気になったよ

これでボクは明日からも家族を守れるよ




みーんな、大好きだよ!











(完)










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