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バースデー(1)






次の日は日曜だった。

ボクの誕生日だ。


でも朝から妹が騒がしくて、やっぱりみんなボクの誕生日どころじゃなさそうで、悲しくなったボクは玄関の外で空を見上げてたんだ。

すっごく晴れてた。



いつもなら、お祖母ちゃんが作る唐揚げの匂いがしてくる頃なのにな。

お部屋も風船がいっぱいで、楽しく飾ってるのにな。

いつもなら(・・・・・)……



ボクのお腹は、またグルグルがはじまった。


痛いなぁ

悲しいなぁ……



そんな風に思ってたら、水色の空がぼんやりしてきたんだ。

昨日、公園の電気や信号がまあるいキャンディみたいに見えたときと同じだ。



でもすぐに



「また泣いてるの?」



昨日のお姉ちゃんの声が聞こえてきて、ボクは急いで目をこすった。



「翼君は泣き虫だね」


笑いながら言われて、ちょっとムッとしたボクは


「泣き虫なんかじゃ…」


泣き虫なんかじゃないよ!って言いかけて、でも止まっちゃったんだ。

だって、お姉ちゃんが両手にいろんな色の風船を持ってたから。


ぷかぷかと浮いてる風船に、ボクは驚いて、一気に楽しくなった。



「うわあ、どうしたの?この風船、お姉ちゃんの?」

「違うよ。翼君のだよ」

「ええっ?ボクの?」


ボクはもっとびっくりして大きな声をあげた。


「うん。お誕生日だからね。お部屋に飾ってもらおうと思って…」


お姉ちゃんはボクによく見えるようにかがんで風船のしっぽを引っ張ってくれた。

そのとき



「あら?」


お出かけしてたママが戻ってきたんだ。

家の前にいたボクとお姉ちゃんを見て、ママは不思議そうに立ち止まった。



「まあ、可愛い風船ね」


お姉ちゃんはパッと立ち上がったよ。



「あの、これ、翼君のお誕生日に飾ってください」

「え…?翼のことを知ってるの?」

「あのねママ、このお姉ちゃんはボクの…」


友達…じゃないよね、じゃあ、知ってる人?

何て言ったらいいかわからなくて困ったけど、代わりにお姉ちゃんが話してくれた。


「今日が翼君のお誕生日というのは、聞いてます」

「そうなの?でも誰から?」

「ボクが話したんだよ」


今度はボクが答えた。

でもお姉ちゃんが「違うのよ」って言ったんだ。



「え?」

「実は、ここのお祖母ちゃんから聞いたんです。私、前に近くの公園でお祖母ちゃんと知り合って、時々おしゃべりする仲だったので…」


ボクははじめて聞いた。

お祖母ちゃんから聞いたこともなかったもん。

ママだってびっくりしてるよ。



「まあ、そうだったのね…」

「だから今年は私も参加させてもらおうかなって」

「もちろんよ」 

「やったー!嬉しい!」


ママはパンッと手を叩いて、ボクと同じようににこにこ笑った。


「それにちょうどよかったわ。今年はちょっとバタバタしちゃって、毎年飾ってたバルーンを用意できなかったの。それ、使わせてもらっていいかしら」

「はい。ぜひ」

「ありがとう。あ、どうぞ中に入って?」

「急にすみません」

「いいのよ。きっとお祖母ちゃんも会いたいんじゃないかしら?」

「ありがとうございます」


ママはボクとお姉ちゃんの横を通り過ぎると玄関に向かった。



「お姉ちゃん、お祖母ちゃんのお友達だなんて言ってなかったのに…」


ボクはママには聞こえないように小声で言った。

そしたらお姉ちゃんは「ごめんごめん」って、手をあわせてあやまってきた。



「どうして言ってくれなかったの?」

「翼君が本当にお祖母ちゃんのお孫さんかわからなかったからよ」

「じゃあそれを確かめるために昨日ボクを家まで送ってくれたの?」

「まあね。でも言った通りでしょ?ママ、翼君の誕生日を忘れてなんかなかったじゃない」

「うん!」


「え?何か言ったかしら?」


ママが玄関ドアを開けながら振り向いた。



「なんにも言ってないよ!」

「いえ、大丈夫です」


ボク達はパッと顔を前向けてママに返事した。

ママは「そう?」って首をかしげてから


「パパ、パパ、お客様がいらしたの」


家の中に叫んだ。

すぐに奥からパパが出てきたよ。




「お客様だって?」

「そうなの。お義母さんと親しかったそうで…ええと、お名前は…」

三笠(みかさ)です」

「三笠さんね。お義母さんから翼の誕生日を聞いてたんですって。それでお祝いに来てくださったの。さ、どうぞあがって?」

「お邪魔します」

「それはわざわざすみません。母がお世話になりました」

「いえ、私もお祖母ちゃんとのおしゃべりは楽しかったです」


お姉ちゃんはパパにお澄まし顔で言ったよ。

でもそれを聞いたパパは照れ臭そうに鼻をかいたりしてた。



リビングに行くと、テーブルの上にはジュースとかサンドイッチとかチキンとか、ご馳走がいっぱい並んでて、ボクはびっくりした。

だって、朝から唐揚げの匂いが全然しなかったから、今日はもうパーティーはなしなんだと思ってたんだ。



「よかったね。翼君」

「うん!」


お姉ちゃんがボクの耳にコショコショって言った。

それから部屋を見回して


「あの、翼君の妹さんは…」


パパとママ両方に訊くように呟いたんだ。

ママはテーブルの前で何かしながらボク達に背中を向けたまま答えたよ。



「二階で寝てるの。昨夜夜泣きで眠れなかったみたいね」

「そろそろ起こしてこようか」


パパが言ったよ。


「そうしてくれる?もうすぐお義父さんも来られるだろうし」

「了解」


パパがタンタンタンって階段を上る音、ボク、結構好きなんだ。

ママの音はトントン、時々ダンダン、妹は…トストスかな?

そんな事思ってたら、お姉ちゃんがまた訊いたよ。




「翼君の好きな唐揚げは、ないんですね」


そしたらママの手がぴたりと止まった。


「そうなの。翼はお祖母ちゃんの唐揚げが大好きだったんだけどね。でもほら、その代わり、ケーキはいつもより豪華なのを予約したのよ?じゃーん!」


テーブルの上には、チョコレートケーキが登場したんだ。



「わぁ!二段だ」

「すごいですね」

「でしょ?今受け取りに行ってきたの」


そうか、ママはそれでお出かけしてたんだ。

ボクはママにありがとうって言おうとしたけど、ちょうどピンポーンってチャイムが鳴った。











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