バースデー・イブ(2)
「私が人間かって?なんでそんなこと訊くの?」
「だって変だと思ったから」
「何が?」
「だってボク、お姉ちゃんのこと知らないよ?なのにそんなに親切にしてくれるのは変だよ。家まで一緒に来てくれるなんて言うしさ。それに…」
「それに?」
「お姉ちゃん、寝間着じゃないの?そんな格好でこんな時間に一人でここにいるなんて、おかしくない?」
お姉ちゃんはボクが話し終わると、唇の端っこをくいっと上げた。
「ふぅん、簡単にいくかと思ったけど、案外賢いのね」
今度はアニメのワルモノみたいにニヤリとしたんだ。
「やっぱり!じゃあお姉ちゃんは、お化…」
「私の事はどうでもいいじゃない。今は翼君の誕生日の方が問題でしょ?」
「でも……ボクを食べたりしない?」
ボクが怖がって訊いたら、またプッて笑われた。
「そんなわけないでしょ。アニメの見過ぎ」
「でも…」
「どうするの?私の協力いる?いらない?」
「い、いるよ!」
「だったらゴチャゴチャ言ってないで、はやく家に案内してよ」
お姉ちゃんは両手を腰に当てて、えらそうな態度で命令した。
ボクはお姉ちゃんがお化けだったらどうしようって、ちょっとだけ怖かったけど、お姉ちゃんに協力してほしかったから、怖いのは我慢することにした。
「わかったよ……。お姉ちゃん、本当にボクの家に行くの?パパとママに会う?」
「会わないわよ。翼君が家に入るのを見届けた後帰るわ。で、明日また翼君に会いに来る」
「それでどうやってパパやママがボクの誕生日を覚えてるかどうかわかるの?」
「そんなの、雰囲気でだいたい分かるでしょ」
「そうかなぁ…?」
「そうなのよ。お子ちゃまには分からないかもしれないけどね。それよりほら、さっさと行くわよ」
お姉ちゃんは勝手にそう決めて歩き出した。
「あ、お姉ちゃん!」
「何よ?」
「ボクの家はそっちじゃないよ!」
「………早く言ってよね」
照れ臭そうに言ったお姉ちゃんは、なんだか面白くて、ボクは、怖いって気持ちがどこかに飛んでいっちゃったんだ。
「ただいまぁ」
ボクはこっそりと玄関から家に入った。
家出してたことがばれたら大変だ。
そしたらリビングから
「おい、今玄関で音がしなかったか?」
パパの声が聞こえてきた。
「音?……もしかしたら翼かしら」
ママはちょっと心配そうだ。
「そんなわけないだろ」
「でも気になるから、ちょっと見てくるわ」
パパに返事しながらママが玄関に来るのがわかったから、ボクは大急ぎで二階に上がった。
ボクはまっすぐ部屋に入って、ベッドにもぐりこんだよ。
パパとママと同じベッドだ。
ちょっとしてからママが部屋に入ってきた。
ギリギリセーフだ。
でもボクはじっと寝たフリをしてたから、ママはボクが家出してたなんて気づかなかった。
ママはすぐに部屋を出て行ったよ。
ママが一階に戻ってから、ボクはそおっとベッドを抜け出して、窓の下を見た。
お姉ちゃんはもう帰ったのかなって、気になったから。
そしたら、ちょうどお姉ちゃんが帰っていくところだった。
お姉ちゃんはボクを見つけて、すごく笑顔でボクに手を振って、帰っていったんだ。
お姉ちゃんは明日もまた来てくれるって言ってたけど、本当に大丈夫なのかな?
もしパパやママがボクの誕生日を忘れてたら、お姉ちゃんはどうするんだろう?
子供のボクには難しすぎてよくわからないことばっかり。
でもお姉ちゃんは、明日が終わるまでは待ってって言ってた。
赤ちゃんがいると色々いつも通りにできないとも言ってたっけ。
うん、それはちょっとわかるよ。
だって、夜遅くなっても、赤ちゃんの声は聞こえてたから。
パパもママもお祖父ちゃんも妹も、たぶん、みーんな悪くないんだ。
そんな風に思ってたら、いつの間にか、お腹のグルグルが小さく小さくなっていた。




