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追跡

 試験管を取り出したベルは、立ち入り禁止と書かれた紙を破り中へと入る。

 それに続くように、グレーが顔を押さえながら扉を潜った。その場所は主に売らない額に対して先行しており、様々な薬品が置かれた教室には匂いがこもっている。その匂いは魔術痕跡やその他諸々が混ざった悪臭であるが、一部の魔法使いには好まれそうな匂いだ。


「どうだ?」

「痕跡が濃すぎて駄目ですね。転移を使ったのは確かですけど、他の魔術因子と混合して詳しい判別がつきません……ってか_これ……。ふむ」


 薬品を混ぜながらベルは答える。

 

「巷で有名な貴族主義に対してのアンチテーゼ。__だとしても、現存する貴族に対しての犯行が多いのに、わざわざこんな場所でやるのは少しおかしい。…というか、生徒会の”お抱え”が出動してもおかしくないのにな。彼女の両親は貴族至上主義だが、彼女自身はそうでもない。

 主義に対するイザコザの線はどうしても薄い。今まさに、生徒会で改革をしている最中だ。声明も行動も示している今現在理由が見当たらない。

 身代金目的や政治的要求ならば、何かしらのアプローチが出てもおかしくは無い_が。だが、今のところそれも無い。その癖、___妙に、学校側の反応早いのも気になる。この様子たと介入を渋っているようにも見えるな。学園側としては介入したくはないための俺達。___か。

 そもそも_な」

「この場所で転移を行ったのなら因子が濃すぎるし。術式の範囲からしても、犯人はそう遠くに行っては居ないですね。大体、この魔力の濃さで転移魔法を使うのは疑問に残ります」

「「下手したら魔力と体が混合するぞ?」ますよ?」

「___仲良しか?お前ら」

「打つ」

「もう殴ってますって」


 とばっちりを受けたベルが、肩を抑える。

 移転された痕跡は残っている。つまり、移転自体はしたものの、それは別の何かであり彼女が移動したわけではない。そもそも、移転を使った誘拐などピンポイントで出来るのか?


「術式だけを使用し、転移をしなかった?」

「彼女は消えていなかった__と考えるべきでしょうね。あるいは、転移ではない別の何かを行っていたか。いずれにせよ、後一分で分かります。マイ・ハ二-」

「……妙だな」

「何が?」

「少し、湿っぽくないか?」


 湿気?

 まあ、確かに。湿っぽいかもしれないが_。


「デルタ。こい」

「どうした?」

「なにー?」

「お前は実験に集中していろ。愛具動物モルモット

「にゃー!!」


「……水滴?」

「湿度が、異常じゃないか?」

「__換気はしていない。だけど、水蒸気を発する実験をするところじゃないからな」

「ふむ__」


 彼女は消えたのではなく、”見えなくなった__”か。


「出ましたよ、結果。やっぱりおかしい。大気中の魔力と結合した後はあるんですけど、どうにも人間じゃない」

「見せてみろ」


 復元された其れは、何処か見覚えのある形をした葉だった。

 ___表面の感触。匂い。

 ざっくりとした記憶はあるが、思い出せない。


「____葉?」

「泣き木の葉ですよ。珍しくはないけど、この一帯じゃぁ迷い森の方にしか群生していません」


 ああ、そうだ。

 泣き木だ。幹の水を吸い出す音が鳴き声に聞こえる事からそう呼ばれた植物。魔術的な物品としても利用され嘘の葉は、高価なモノである為一般的には知られていないが。


「____もしかして」

「迷い森の方には、悪戯好きがいますよね」

「妖精隠し。だな」

「多分ね。でも、連中がこんなに頭いいとは思えないけど」


 妖精隠し。

 神隠しと同義として語られるそれは、妖精により行われる神隠しとしての意味を持つ。彼女達は周囲の湿度を上げ、光学的な迷彩を体に纏い人さらいをするので、目の前から消えたという証言にも当てはまる。

 そして、この学園の先にある森には、そんな道具類を作り続ける集落がある。


「酔いどれが何か企んでる?」

「学園に対して危害を与えるとは思えないですけど。一応の可能性として考慮しなきゃですね」


 元来、妖精が身近である事は無い。

 彼等は、我々以上に現実的な神の使いだ。魔法という力でさえ、元々は我々の力ではなく彼等との交信の上で手に入れたものであるし、彼等は人ではなく神様の隣であり続ける。神秘は、厳密的に言えば管理される秘密だ。妖精は、神の使いとしてそれらを管理し、人の目の届かぬ秘密を握り続ける存在。

 だが、例外や常識外れは存在する。

 その集落の妖精は、その類に含まれる妖精だ。

 神秘や神のご加護を管理しない代わりに、独自の文化を使う。

 魔法道具という、魔術的な価値を植え付けた道具の生成こそ彼女達の常識外れの一端だ。流動的に住居を転々とし、日々新しい道具を作り、市場に革命を起こす。


 彼女達は”ルート・メイカー”と呼ばれていた。


「細分化、構築、循環し、事実と合成せよ。照合構成地図魔法メルヘンノイズ


 学園周辺の地図を取り出したベルが、試験管に含まれる水溶液を掛ける。

 先程採取した緑葉が溶け出たそれが、地図を侵食しある一点に集まっていく。


「こうして再構築の上で、樹齢や状態を把握して、ノーマッド達の精密な地図と照合して、当てはめると__。今月はこの辺りが怪しいですね」


 彼女達は一か月に一度の周期で住宅を変える。彼女たちが生活をするにはどうしても魔力が必要であり、迷い森では魔力を発生させる木々が多いが彼女達は消費が激しい。故に、点々と場所を変え住処を変える。


「既に移動している可能性は?」

「もし彼女達が犯人だとしても、移動にはもう少しかかりますよ。マイハニー」

「その呼び方を止めてくれ。__んじゃ、俺が会長に伝えてくる。荷物の用意任せた」


 ルート・メイカーという集団は、いわば技術屋の集団であり自身の発明に対しての誇りを持つ。

 拉致などに加担するほど暇人ではないし。そう言った趣味を持っているとも思えない。


「弓矢は要りますか?」

「そうでない事を祈るけどな」


 私は、心の底からそう吐いた。




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