人に示しを
「君たちがいくら問題児だとしても、学園側は、優秀な君たちを手放す事は無い。努力と研鑽を行い、己の高みを目指す人材が学ぶべき場がこの場所だからだ。__だがね?ある程度の規律は必要だと思わないかな?
我々は個人ではなく団体だ。私が言うのも何だが、常識ある規則というのは時に重要でね。犯罪がブームになる前に、少しばかりは自重していただきたい。が__。
ま、そういう私も、人のことを強く言えるものではない。
私だってそういう人間だ。気持ちは分かるがね」
歴代会長が愛用する深々とした椅子に、彼女は腰を下ろしていた。
周辺の壁には歴代会長の肖像画と、天井には絢爛豪華なシャンデリア。名校と呼ばれるに相応しい佇まいをしている生徒会室では、知らん顔で口笛を吹くベル、頭を抱えながらも下手に笑う私。そして、意に返さず取った表情のグレーが、彼女の前で整列させられた。
他の生徒は別用なのか見当たらない。いつも通り気品を隠さず、異端児たちを纏める彼女は言葉を続ける。
エレメント・ニーファ
王族の血筋でありながら、この学園の歴史において史上初めて、生徒中心の団体である生徒会を設立した女帝。その実力は、他校からも高い評価を受け、生徒からの人気も高い。
「どうかな?私の提案は」
そんなもの決まっているだろうに、彼女は終始笑顔を崩さない。
「すまないとは思っている」
「右に親父です、会長!」
「ベル、止めろ。会長が凍る」
とはまあ言って、彼女は悪い人間ではない。
その実力と絶え間ない研鑽により、一年の頃からこの学園のトップであり続け、生徒会という組織をっち上げたのは彼女の人脈と家柄のお陰だ。
そして、会長は貴族中心的なこの学校の改革に努めるべく、多種多様な人材の発掘に対して力を入れている
「今回の事はこれにて不問とするがな、愛するべき問題児諸君。今度は、もう少しバレない様に務めてもらいたい。君達のせいでお仕事が尽きないよ、全く」
「__本当に申し訳なく思います、先輩。それで、用事というのは?」
「愚痴も大切な用事の一つだ、もう一つあるが」
嫌味を言い終え、彼女は書類への手を止めた。
「学生の大半が貴族であるアルベール魔術学園だが、我が校にも少数ながら一般生徒が入学している。生徒間同士での貴族風潮は其処までではないが、世論になるとそうはいかない。貴族ではない彼等に対して、よく思わない貴族や、それに属する団体は多少居る。
我々学園側としては、家柄に囚われない優秀な生徒。魔術敵性が無くとも、魔術に対して努力を怠らない生徒。そう言った新生児を求むべきものだが、残念ながら今の環境間で難しいのが現状だ」
「___確か、アナザー新聞でも取り上げられていたな。魔法学に対しての社会問題だったか?」
許可も無く書類を取り、目を走らせながらグレーが答える。それに便乗する
その行動をとがめようとするが聞く訳はなく、会長も諦めているのか首を横に振る。
好奇心に駆られたグレーとベルを止めれる人間は殆どいない。
「ああ。ナード周辺では貴族による奴隷雇用政策が新しい問題として浮上している。それもまあ、民衆による政治の介入が現実味を帯びてきているせいだろう。我が学園の問題も、他人事には出来ないのさ。
今まさに、名のある貴族だけでは学園の生徒数確保が難しいのが、我が学園の直面していた問題だ。貴族と呼ばれる基盤があやふやな今、生徒数の確保は重要な問題だ。
我々の学園の出資者も、その問題に興味を持ち始めていてね。今回の新入生における学術大会でも、平民出身の学生が多く選定されることになったし、平民出身の魔術師が活躍の目を見せる為、これまで以上に観客数を増やしている。
あと一時間程で始まるが、観客は満員。報道陣も揃い大盛り上がりだそうだ。今頃、パフォーマンスをしている最中ではないかな?私も見に行きたいが、こういう状況でね」
「ええ。知っていますよ。その正に、観客動員の警備としてのアルバイトを受けましたから」
ナード周辺では、奴隷や一般市民による反乱で、貴族側に死傷者が出ていると聞いている。
血で血を洗う権力闘争が激化し、暴動鎮圧のための組織が作られる等、その熱は膨張の一途を辿っているらしい。
それにはこの学校の生徒も無関係ではなく、生徒によっては、この学園に避難という形で匿われている者もいる。
「ああ。そう言えば先程、先生が怒っていたね」
「___あの、先輩。一緒に謝ってくれませんか
「もちろん。事情を話しておいたさ」
「ありがとうございます!」
正直、胸が下りた。
身近な拳が、振るわれない事への安心感だ。
「君のバイトにも少しは関係がある事だからね」
__その話題を振ったという事は、それ関係の話だろう。
成程。どうやら、一肌を脱がなければならないようだ。
「___被害者。_か?」
「四時間程前、一人の女学生が友人の前で行方不明となった。場所は講堂西側の占い室。転移魔法に対しての残滓が見つかった為、何処かの場所に飛ばされたと思われている。教員たちは慌てて対応をしているが、正直、手が足りない」
「アストミアの令嬢だな。おっとりした性格で攫われるには危険意識がない子だった。その友人というのは?」
「彼女も、貴族出身だ。フェルランドと言えばわかるだろう?グレーミン。消えた子のご両親は、一般人に対してあまりいい感情をお持ちでなくてね。徹底的な貴族至上主義という奴だ。今回の件が漏れると少しばかりややこしい。先程も言ったが、学園側は今まさに学術大会で手が離せない。
暇でこの件に介入できる人材は、君達だけだ。
君達だけが、人を助けられる」
人を、助けるか。
彼女はそう言って、此方の目を覗いた。
其処には、確かに信頼が含まれている。
其の眼から私は目を伏せ。ベルは目を閉じ微笑み、グレーは前を見据える。
我々は誰もが罪を背負っている。人を傷つけ、生きる意味を守る為に此処へ来た。その意味を無駄にせず、確かな意味を成す為に此処へ来たんだ。
私は、彼女の為に。
猫は、友人の為に。
青年は、人の為に。
それぞれに忘れがたい思いがあり、それを成すために存在している。
「___で、そいつを見つけろと?」
「無傷で連れてきてほしい」
「事件性がある場合は?」
「デルタの判断に任せるよ。ただ、犯人がいる場合は、君たちの命が最優先だ。前の様に無茶をしないように」
「___まあ、やりますよ。_お前らもな」
「もちろん。淑女を助けるのは、紳士の務めですからね」
「患者を助けるのは、医師の務めだからな」
そして私達は、意味ある一組織として活動しその意味を探し続ける。
彼女は、目を伏せる俺に声を掛ける。
「我々に必要なのは多様性だ、デルタ。君の様に、魔法使いとして壊滅的でも魔法学に対して先見の目を持っている生徒も多く入れたい。_任せるよ」
「それ、褒めているんですか?」
「褒めているさ。私は、ほめて伸ばす良き先輩だからね」
アルベール魔術学園では、生徒の活動の促進として各分野に精通した団体が存在する。
学園の存続を信条とし、常に学園の暗明を陰から支える。
困り果てた生徒の模範となり、絶望と対峙する存在がいる。
英知の為に、全ての回答を集める者がいる。
私達は、どんな場所でも手を差し伸べる者になろうと考えたんだ。
「頼んだよ、探索部」
我々は、全ての学生に手を伸ばし。
そして、君を救うだろう。
我々は、探索部。
未知を理解し、人を救う者なのだから。