1話 学校生活の始まり
学校生活が始まるその日。
空は晴れ渡り、空気は澄んでいるように感じる。
はじめての学校。
長い金色の髪を持つ少女は、これから入学する学校の制服を着こなしてはいたが、緊張と興奮した面持ちで、玄関を出て学校に向かう。
学校までの道のりは受験の時と春休み中にも歩いていたので、わかってはいるはずだが、何か違うように感じた。
今日からその少女、蓮は高校に入学するのだ。
歴史を感じる煉瓦造りの校門は開いていて、黒い制服を礼儀正しく着こなした生徒たちがくぐっていく。
その中に新入生と思しき生徒たちも緊張した面持ちで学園内に入っていった。
蓮はなんとなくその中の一人とは思われたくないので、堂々とした佇まいで胸を張り、門を潜る。
下駄箱までの道のりには、たくさんの生徒がいて、皆同じ方向に歩いて向かっていた。
道脇には桜が咲いていて、新入生含めた生徒たちを迎え入れているようだった。
蓮はゆっくり歩きながら、周りを見渡す。
あどけない表情の子や、愛嬌のある顔つきの子、背の高い子、様々な子がいることがわかる。
どの子も魅力的に見え、蓮の胸は高鳴っていく。
蓮には学園に入ってから目標があった。
それは、かっこいい恋人を作ること。
下駄箱前に、新入生から三年生までのクラス表が張り出されていた。
1-Aクラス、その中に蓮の名前を見つける。
そしてそのクラスに割り当てられた靴箱の場所に向かう。
するとそこにキョロキョロ、オドオドとしている女の子がいた。
その子は小さめの背丈で、幼い表情、肩にかかる黒髪、ゆったりした制服を着ていた。
制服の着こなしからも純朴そうな雰囲気がするその子は、自身の靴箱を探しているように見えた。
蓮はその子の横を気にせず、通り過ぎ、自身の靴箱に靴を入れると下履に履き替えた。
1Fにある1-A教室に向かおうとしたが、さきほどの少女が気になり蓮は振り返る。
女の子は靴箱の名前を見ていて、自身の名前が見つけられないように見えた。
今にも泣きそうな表情をしていて、心が揺り動かされた。
蓮はその子に駆け寄っていた。
「あの、もしかして靴箱探してる?」
女の子は顔を上げ、蓮を見た。女の子の大きな目には涙が浮かび、小さな口はぎゅっと結ばれていた。
「…っ」
「見てたけど、靴箱見つからないのかなって思って。あ、私1-Aの蓮。」
「あ、同じです。1-Aの光里です。」
光里というその子は戸惑った表情で蓮を見上げる。
「靴箱見つからないんでしょ。私も探すの手伝うよ。」
そういうと、蓮は光里の靴箱を探す。
あいうえお順のはず、と光里の場所を探すとそこには光里の名前はなかった。
「……。えっと光里さんは本当に1-Aクラスなのかな?」
「うっ。えと入り口のクラス表見たら1-Aに名前はありました。」
「ちょっと私も見てくるね。」
蓮はそういうと入り口のクラス表を見にいく。
そして、1-Aの中に確かに光里の名前があることを確認する。
聞いた名前の通りで漢字の読み間違えでもなさそうだし、とふと思い浮かんだ。
蓮は1-B,1-Cの靴箱を見にいく。
光里は蓮が別のクラス靴箱のある場所に行く姿を見て、焦った表情で蓮の元に走り寄っていく。
蓮は1-Bクラスの前に立っていて、一つの靴箱を見ていた。
そして、光里が近寄ってくるのを見て撮ると、
「フフッ。ここにあったよ。」
にこり笑いながら光里に話しかけた。
光里は蓮が指す靴箱に、自身の名前を見つけると安堵の表情を浮かべるととともに、しまったという表情をした。
「す、すいません!!わ、私1-Bだったんですね。」
光里は申し訳なさそうな表情をして蓮に向かって手を合わせる。
きょとんとした表情で蓮は光里を見る。
そして大きく表情を崩し楽しそうに笑い声を立てる。
「違うよ、光里さん。あなたは1-Aクラス。私と同じクラス。」
「え、でもここにあるってことは。」
「多分先生が間違えて靴箱に貼り付けちゃったんだと思うよ。入り口の名簿見たけど確かに1-Aクラスだったし。」
「えっ、そんなぁ……。」
光里は力なくへたり込む。
光里のそんな姿が可愛らしく思え、蓮の口元は緩む。
そして、蓮は手を光里に差し出す。
「光里ちゃん、ほら立って。」
蓮がそう言うと光里はあどけない表情で蓮を見上げる。
「一緒に教室に行こう。」
蓮が笑みを浮かべながらそういうと、光里の表情は明るく輝いた。
光里は蓮の手を取り立ち上がる。
そして、他クラスにあった光里の靴箱の名札を取って、蓮の近くの空いている靴箱に光里の名札を入れて、
二人は1-Aクラスに向かった。
蓮と光里、二人のクラスである1-A教室に入ると様々な生徒がいた。
中学の頃の知り合いもいたが、過半数は知らない生徒だった。
蓮は気にせず、堂々と入り自身の席に向かう。
隣の生徒が見ているので、軽く挨拶し机に着席し、机の上のプリントを見る。
そこには入学式日取りが記載してあった。
蓮は学校が始まる実感が湧いてきていた。
ふと光里はどうしたのかなと、顔を上げて近くの光里を見る。
光里は自身が見られていることに気づかず、じっとプリントを見ていた。
緊張している様子ではあったが、とても嬉しそうな表情をしているように見えた。
プリントに記載してあった予定通り、入学式は始まり、何事もなく終わった。
そして、新入生一同は教室に戻り、オリエンテーションを受けた。
自由な校風ということもあり、決まり事は少なく担当の先生も気さくな感じで、
硬かった教室の雰囲気も、ゆるくなっていった。
そして、高校に入って最初の日は終わった。
蓮は学校を出て、下校道で夕焼けを眺めながら、今日あったことを振り返る。
自由な校風であり、周りの生徒とも仲良くなれそうで、安心した感じがした。
そして、入り口で偶然出会った光里のことを思い出し、笑みが浮かぶ。
光里とは同じ班になり、その後も話すことが多く、一番最初に友達になれる気がした。
「って、すっかり忘れていた……。」
蓮は赤く薄暗くなった空を見上げ、中学時代に想いを馳せた。