13話 告白
蓮がいつものように学校に行くと光里は既に登校していた。
昨日のことは忘れたように光里は笑っていた。
蓮は昨日に許嫁の話を聞いていたので、その笑の中に悲しさが見え隠れしているように感じた。
そして、なぜか強く抱きしめたいという衝動に駆られていた。
放課後になり、蓮は生徒会室に向かった。
そして、白を見つけると声をかけて、例のベンチに向かった。
「といいますか、光里ちゃんってあんなに可愛かったんですか?」
「落ち着いて落ち着いて。」
白は宥めるように蓮に言った。
蓮は白に、光里のことを相談しにいったのだった。
「光里ちゃん、二年生、三年生からも大人しくて可愛らしい子と人気あるみたい。」
「やっぱりですか。もう抱きしめたくて抱きしめたくて。心が苦しいです。」
「蓮さんも恋の病にかかっちゃったね。」
白は笑いながらそう言った。
「恋の病って。確かに最近光里ちゃんのことばかり考えてますけど。」
「そうそう、自覚あるね。あと胸がギューとしたりとか。」
「……なりました。今日の朝も、光里ちゃんの可愛らしい顔を見ただけでこう。」
蓮は宙を見上げ、恍惚とした表情をしながら言った。
「蓮さん、ところで一年生には光里ちゃんよりも、全学年からももっと人気ある子がいるんだけど、誰か知ってる?」
白に問われ、蓮は一年生の顔を思い浮かべる。
「光里ちゃん以外思い浮かばないです。」
蓮が即答すると、白は吹き出して笑った。
「さすが蓮ちゃん。あなた絶対うまくいくと思う。」
白は笑いながら蓮に言った。
蓮は白の言っていることがよくわからなかったが、不思議と自信が湧いくるようだった。
「待ってても時は解決してくれないよ。」
白は優しい表情で、蓮に伝えた。
「善は急げか。」
蓮は一人呟くと、白に別れを告げ、教室に走って戻る。
教室には光里の姿もカバンもなかった。
昨日に気まづい雰囲気あったから、先に帰ったのだろうと蓮は推測した。
蓮はカバンを手に持つと、走って学校の外に出る。
そして、外に出ると、光里の帰宅道を疾走する。
帰宅時間から一時間を過ぎているので、帰宅している生徒は少なかった。
しかし、その中に光里の姿はなかった。
蓮は光里を見つけられず、とほとぼと道を引き返す。
抑えきれない熱い想いを胸に抱えながら、頭では光里のことを考えていた。
歩いていると、一昨日に蓮と話た公園を横切る。
薄暗くなった公園に人影はすくなかった。
しかし、ベンチに一人座っている人が遠目に見えた。
蓮は走り出していた。
「光里ちゃん、」
蓮はベンチにぼんやりと座っていた光里に声を掛ける。
光里は声を掛けられ、驚いたように蓮に振り向く。
「あ、蓮ちゃん。」
光里は寂しそうに微笑んでいた。
その表情を見て、蓮は胸の締め付けが苦しくなり、
座っている光里の両肩を掴んだ。
「蓮ちゃん?」
光里は不思議そうな表情で蓮を見る。
蓮は深呼吸し、想いを告げる。
「光里ちゃん、私は光里ちゃんのことが好きなんだ。」
「私も好きだよ。」
光里はキョトンとした表情で言うので、蓮はズルッと滑りそうになる。
「ち、違う。違わないけど、言いたいことが違う。」
「?」
「光里ちゃん、許嫁のことがあるのはわかってるよ。でも、光里ちゃんは自由に恋愛すべきだと思う。」
「……。そんな簡単にはできないよ。」
「そうだとは思う。だから、だから、」
蓮の顔が熱くなる。緊張で声が出づらくなっている。
光里の方はというと、不思議そうな顔で蓮を見ている。
「光里ちゃん、だから、まずはお試しで、私と付き合ってみない?」
「お試しで付き合う?」
「私は光里ちゃんのこと好きなんです。」
「えー!?」
光里は驚きの声を上げる。
蓮は言いたいことが伝わったことにほっとした。
「ダメだよ」
光里は戸惑いながらもはっきりと言った。
胸が急に締め付けられ、心臓が止まるようだった。
「どうして?」
蓮は声を絞り出して言った。
「私には許嫁がいるし、無理だよ。それに蓮ちゃんには、翼咲先輩や白先輩がいるじゃないですか。」
「……関係ない。光里ちゃんのことが好きなの。」
「……そんなこと言われても。」
光里は苦しそうな表情をし俯く。
「それに、私は蓮ちゃんのことを……、いや誰もそういうふうに見れない。」
光里は顔を上げると、悲しそうにそう言った。
蓮は何も言えなかった。
ただ、じっと光里を見つめていた。
光里は表情を崩さず、蓮を見つめ返していた。
光里に受け入れられず、蓮はフラれたのだった。
蓮は光里を置いて、とぼとぼと一人帰途についた。
その晩、蓮は胸が苦しく泣いた。
そして、枕に顔を当てて涙を流した。
人を初めて好きになり、初めて告白して、初めてフラれたのだった。
失恋の痛みを知った。




