信用してもらえる気がしないんですが?
お待たせしました。
のんびり書いてくので相変わらず不定期更新ですがどうぞよしなに。
次はそんなにかからないかもです。
このまま勘違いされっぱなしで話が進むのはちょっとマズいのでは?
俺自身なんでこの世界に来たのか全くもって謎だし。
「いや・・・特に深い事情とかないんだよなあ、強いていうなら旅人って訳じゃなくて気付いたらこの都市の周辺にいた、みたいな?なんで体が再生するのかもわかんないし」
等と言いつつ、ふと剣がぶっ刺されていた右肩を見てみるとウジュルウジュルと肉が蠢き回復、いや再生していく様子が見て取れる。
気持ち悪っ!!
視線を感じるので顔を上げるとクルフ君が物凄く微妙な顔で俺の肩を凝視している。
まぁそうなるわな、俺も多分今そんな顔してるもん。
「その傷の治り方はリジェネと言うよりは呪いによるものなのではないか?先程首の薄皮一枚を切ったときは気付かなかったが、周りの瘴気や穢れを取り込んで傷が塞がっているのが何よりの証拠だ」
「えっ?何?瘴気?もしかして俺人間辞めてる感じ?」
「・・・私が以前討伐した魔人が同じ様な感じで肉体を再生していたが、まさかサカザキ殿は」
再び剣に手をかけるクルフ君。
若干頭痛がしてきた俺。
「待て待て、何か勘違いしてる様だけど俺は人間のつもりだぞ!!剣から手を離せって!!」
「・・・すまないがやはり信用しかねる、おかしな動きをすれば即座に首を跳ねさせて貰う」
なんなんだよもう、どうすりゃいいってんだ。
俺が一体何をしたってんだ。
いや、仏さんから靴泥棒はしたけれども。
「面倒くせぇなぁもう、何を説明しろってんだよ。言った所で絶対分かってもらえないだろ。えーっと、あれだ、俺が別の世界から来たって言ったらクルフ、お前は信じるのか?」
「いや、そんな話は聞いたことがない。次元移動の魔法は既に使い手が居ない筈だ」
次元移動?そんなのがあんのか。
ここから無事に出られたらそれを探して旅でもしてみるか?
まぁ無事に出られる気が全くしないんだけども。
「皆が知ってないだけで案外使い手がいるんでないの?俺はさっさとこの世界から元の世界に帰りたいの、わかる?突然この世界に跳ばされてなんも分からないうちに今首を跳ねられそうになってます、これで全部、説明終わり」
「仮に本当だとしても時期が時期だけにやはり信用は出来ない、魔物が活性化している上で魔王の陣営も不穏な動きをしている。そんな時に結界を突破して君が現れた・・・話は終わりだ」
クルフ君が握っている剣から光が溢れ出す。
何か神々しいなあ・・・悪いものには光の属性ってか?お約束だな。
椅子に深くもたれかかってぼんやりとそんな事を考える。
不思議と死ぬ気が全くしないんだよなあ。
「いいよいいよ、やっちゃえよ。先に言っとくが面倒な思いをする事になるぞ?」
「抵抗する気か?」
「しないしない、面倒なのは俺の死体の片付けだよって言いたかったの」
「どうとでもなる。部下の遺品については感謝している・・・が、すまない、さらばだ」
目を開いたままだってのにやはり動きだしたクルフ君をかけらも捉える事が出来ない。
気付けば俺の首は宙を舞っていて・・・。
「はいリスポーン」
「・・・は?」
次の瞬間にはクルフ君の後ろに立っていた俺。
あー、やっぱり死体も残るのな。
宙を舞っている俺の首が丁度地面に落ちる。
死んでも再生するのにタイムラグが全くないのが分かったのは収穫だなあ。
剣を振り抜いた姿勢のままこちらを見つめ呆然とするクルフ君。
そんな彼の肩にそっと手を置いて一言。
「な?面倒だろ?んで、この死体どうする?」
「何故死んでいない、幻覚か?」
「俺がそんなの使える様に見える?魔法の魔の字も知らない状態なんだけ」
喋っている途中で再び宙を舞う俺の首。
死体増えちゃうけどいいの?
◇
「ハァ・・・ハァ・・・」
「クルフ君、もう気は済んだ?だから言ったじゃん片付けが面倒な事になるって」
「ふぅ・・・一体どうなっているんだサカザキ殿は」
「こっちが聞きたい。どうなってんだろうね俺は」
なんとなく周りを見渡せば室内に積み重なる俺の死体。
首が無いのが二人、体にデカい風穴が空いてるのが二人、殆ど塵になってるのが一人。
部屋は血塗れである。スプラッタ。
魔法ってすげえなあ。
ふと気になった事があったので自分の死体を押しのけて椅子に座り直しクルフ君に質問する。
「所でこんだけ大きな音を立てておいて誰も来ないのは何で?」
「・・・何かあるかもと防音、防御用の魔道具を使用しておいたからだ」
「なるほど、まあ、その何かを起こしたのは君だけどね。俺は何もしてないよ」
「これだけの事をされて怒っていないのか?死に対する恐怖は?」
「何でだろうね、今は別に怒る気力も無いというか。実際もう何回も死んでるけど流石に慣れる」
普段の俺なら全部知るかとばかりにブチ切れて暴れまわるんだろうけど何かもう疲れた。
ひたすらに眠い。
「クルフ君も困惑してんだろうけど敵意は無いってのは分かって貰えたか?別に逃げやしないから取り敢えず話は終わりにして今日は寝かせてくれない?なんなら檻の中でもいいよもう」
「・・・何故そんな平然と・・・少し待って貰えるか」
クルフ君も若干パニックらしい。
少しの間目頭を抑え、唸っていたかと思うと突然目を開けて懐から高そうな小振りの杖を取り出し、更に俺の死体を探り始める。
「何してんの?」
「何、ただの片付けだ」
そう言いながら俺の血で地面に魔法陣を書き始めるクルフ君。
何かまた物騒な事を始めたようで。
5分程してそれを書き上げたクルフ君は杖を地面に突き立て、よく分からない言葉で詠唱を始める。
んー?詠唱が必要な魔法と必要ない魔法があるのか?
その辺も誰かに教えて貰わなきゃな。
少しの間それをぼんやりと眺めていたが、詠唱が終わり、魔法陣から光が溢れ出した辺りでふと気付く。
俺の体、足先から分解されていってね?
糸が解れていくみたいに分解される俺の体。
え、何やってんのコイツ?
「おい、クルフ」
「どうした?」
「いや、どうしたじゃねえよ。何か俺の体が消えていってるんだが」
「私の師匠が編み出した魔法でな、死体を神に生贄に捧げることで指定した範囲内にいる死体と同じ種族、もしくは同一の個体をこの世から消し去る魔法だ」
「何そのトンデモ魔法」
「これでもこの世界で147位でな。これ位出来なくては」
「上位の奴が軒並みやべぇ奴ばっかの人外魔境なのはよく分かったわ。所で何でまだ俺殺されようとしてんの?」
「何、敵意も相変わらず無いことだし、これで死ななかったら流石に諦めるさ。サカザキ殿、君が相変わらず不穏分子だという事に変わりないのは理解してもらいたい訳だ」
「化けの皮が剥がれてきたな。お前は最高にクレイジーな野郎だ」
またサラッと殺そうとしやがって、ドン引きだわホント。
「ははは、どうせ死なないんだろう?部屋を綺麗にするついでだ、君も綺麗になっておくといい」
疲れた様な顔で笑うクルフ君。
いやまあ殺した奴が平然と復活して椅子に座って寛いでるのを見たら錯乱してもしゃあないっちゃしゃあない。
「掃除ついでに人を殺すなアホ。俺をなんだと思ってんだ」
「殺しても殺しても湧いて出てくるコックルみたいな感じかな?」
「あ?」
なんとなくニュアンスでゴキブリみたいなやつだと察する俺。
確かに髪も黒いしジャージも黒いけども。
殺される事よりゴキブリ扱いされた事に怒りを覚えつつ消し去られる俺であった。