第9話 決着
ツルギと四つ手猿との戦いは、ツルギが一方的に投げ、叩き、蹴っていた。
しかし、決定的なダメージを与えられずに四つ手猿の怒りが貯まる一方であった。
俺は手に握った折れた刀の先端を見つめた。
このまま俺が四つ手猿に斬りつけても倒すどころか傷の一つも付けられないだろう。
でもやるしかない、いつまでもこの状態が続くとは限らない。
俺は意を決してツルギと四つ手猿の戦いに飛び込んでいった。
ツルギに気を取られている四つ手猿の背後から一気に間合いを詰めて、背中に飛びついた。
四つ手猿は背中にしがみついた俺を捕まえようと手を後ろに回す。
「危ない、マスター!」
「いいから俺に構わず攻撃しろ。」
ツルギは、俺に気を取られている四つ手猿の顔面に拳を叩き込んだ。
鈍い音がして、四つ手猿の鼻血が散った。
四つ手猿の動きが一瞬止まる。
俺は、リスの様にスルスルと四つ手猿の頭によじ登ると手にした刀の先端を逆手に持ち替え、力を込めて四つ手猿の右目に突き立てた。
ギャオー!
四つ手猿は絶叫をあげるが致命傷ではない。
「ツルギ!」
俺が声を掛けた時には、ツルギは折れた刀を両手で構え、刺さった刀の先端目掛けて突きを放った。
ガキン!
ツルギの全力を込めた突きは、寸分違わず刺さった刀の先端に命中する。
四つ手猿は動きを止め、ゆっくりと崩れる様に倒れた。
ツルギの突きが、俺が刺した刀の先端を四つ手猿の頭蓋内に押し込んだのである。
「ツルギ、良くやった!」
「マスター、無茶は止めてくだされ。」
「まあ、倒せたんだからいいじゃないか。」
レベル5→12
HP 55→180
MP 2310
攻撃力 21→105
防御力 2859→4350
敏捷性 4053→6848
称号 見た目赤ん坊のオヤジ
スライムスレイヤー
流石に手強い大物を倒しただけに大きくレベルアップした。
そうそう四つ手猿も忘れずに吸収して俺の魔力は
MP2310→3080
にあがった。
四つ猿の消えた後には、ツルギの刀の先端が残されており、ツルギはそれを拾うと懐紙に包み懐にしまいこんでいた。
いきなり強敵が出るのは、もう勘弁して欲しいものだ。
しかし、何かを忘れている様な気がする。
「そうだ、エルフの少年のことを忘れていた。」
「そうでござる。大事な情報源でありまする。」
「苦労して、助けたんだからな。」
「ところでお前、その言葉使いなんとかならないのか。」
「何がでござる。」
「いや、そのござるだよ。」
「マスターのメモリーの中の侍言葉は、これでござるよ。」
俺は次の言葉に詰まった。
この何だか微妙におかしな「ござる言葉」は俺の記憶から来ていたのである。
俺の侍に対する知識ってこんなものだったのか。
「まあいい。エルフの少年の所に戻ろう。」
「承知いたしました。」
そういうとツルギは俺をひょいと担ぎ頭の上に乗せた。
「マスターお疲れでしょうから、それがしに乗ってくだされ。運びまする。」
「分かった、頼むよ。」
正直、俺自身、かなり疲れていたので運んでもらえるのは助かった。
エルフの少年は、岩場の裂け目に隠した時のままの状態でいた。気を失ってはいたが命に別状はなさそうだ。
俺は、気付け薬の代わりにスライム部屋で採取しておいたリポデ草をすり潰してエルフの少年の口に突っ込んだ。
「うぇーっ!」
エルフの少年は口の中に広がったリポデ草の味に目を見開いて起きるとリポデ草を吐き出した。
「もったいないな。味はともかく、少しは体力が回復するのに。」
エルフの少年は俺の姿をみてさらにギョッとした顔をする。
「今、しゃべったのは君なのか?」
エルフの少年は俺の顔をまじまじと見つめながらつぶやいた。