第8話 レベルアップ
ツルギの一撃は四つ手猿の腕をまるで大根でも切るかの如く切り落としていた。
「いいぞ、ツルギ!」
俺が声をかけた瞬間、パキンと軽い音をたて、刀が刀身の半ばから折れてしまったのである。
ツルギはそのまま片ひざをついてしまった。
「やはり折れてしまったでござる。まだ、それがしが使いこなすのは早い技でござった。」
スキル「高周波ブレード」は、レベル1で使うには、負荷が大きい技であった。
しかも、これまでの攻防でダメージの蓄まっていたツルギの刀は、その負荷に耐えられず折れたのである。
これは、冗談抜きにダメかもしれない。
「ツルギ、動けるか?」
「何とか。でも魔力が残りわずかでござる。」
「悪い、補給してやりたいが俺も空だ。」
ズドン!
間一髪、避けたが俺達がいた場所の地面に四つ手猿の叩きつけた拳が突き刺さる。
これは怒らせただけか。
ツルギも刀を失って四つ手猿の攻撃を受け流すことができない。
激怒した格上相手に武器なし、攻撃力なしではお手上げだ。
しかし、今更、あのエルフの少年を捨てていけない。
その時、俺の視界の隅に一角豹の死骸が目に入った。
「まだ、終わりじゃない。ツルギ、何とかして時間稼ぐんだ。」
「承知。」
ツルギは折れた刀を手に四つ手猿に斬りかかった。
四つ手猿の注意がツルギに集中する。
その隙をついて、俺は一角豹の死骸に飛び付いた。
「吸収!」
俺の手のひらに一角豹が吸収されていく。
『 魔力が
MP1242→2310
になりました。
レベルアップ条件クリア。
契約中のゴーレムのレベルがあがります。
ツルギ
ゴーレム(侍)ネームド
レベル 1→2
HP 3500→5200
MP マスターに依存
攻撃力 5720→9350
防御力 2800→4630
敏捷性 4500→7950
固有スキル 心眼、合気』
そうか、いくらモンスターを倒してもツルギがレベルアップしなかったのはこういう訳だったのか。
「マスター、力が込み上げてくるでござる。」
四つ手猿の攻撃を受けていたツルギの動きが明らかに変化した。
四つ手猿の右腕の打ち込みを受けることなく、左手で払うと巧みな足さばきで後方へ流す。
ツルギは相手の動きに逆らうことなく、水が流れるように四つ手猿の攻撃を受け流す。
正に合気の動きであった。
続けて、四つ手猿の手首をとると関節を極めて、そのまま地面に投げつけた。
背中から地面に叩きつけられた四つ手猿は、驚きの表情を浮かべる。
しかし、四つ手猿は、直ぐに飛び起き、残った3本の腕でツルギを捕まえようと突進する。
だがツルギは、体さばきで軽くかわし、四つ手猿の足を軽く払う。
足を払われ、バランスを失った四つ手猿は自分の突進した勢いのまま顔から地面に突っ込み派手に土煙をあげた。
俺は、単に一角豹を吸収して、魔力をツルギに補給するだけのつもりだったが、ツルギがレベルアップするとは嬉しい誤算だった。
俺が魔力の総量を上げることによってツルギのレベルが上がるなんて仕組みは、レベルの低いモンスターを吸収して、ちまちま魔力総量をあげていたらいつまでたっても分からなかっただろう。
それにツルギのレベルアップによるステータスの上昇と、獲得したばかりのスキル『合気』の効果で四つ手猿との力量差は、補ってもおつりがくる程だ。
そうしている間にツルギは、幾度も四つ手猿を投げ飛ばし、突きや蹴りを叩き込んでいた。
その様子を見て俺は、ある違和感を感じとった。
何か、おかしい。
四つ手猿を倒すどころか、弱っている様子がないのである。
ツルギの攻撃が四つ手猿に通用していない。
考えてみれば、ツルギの攻撃力は四つ手猿の防御力を越えていない。
その上、武器のない今、素手の打撃では、ダメージを与えることは困難であった。
後一手、何か無いのか。
辺りを見回した俺の目に地面に落ちていた折れたツルギの刀の刃先が写った。
これだ。
俺は、刀の刃先を拾うと産着の袖を破って巻き付けた。