第4話 剣
俺がこの世界に転生してから、どれだけ過ぎたか分からない。
陽の光が入らないここでは、昼夜の区別がないのだ。
3日なのか一週間なのか、実は1日も経っていないのかもしれない。
スライムを狩って、疲れたら寝る。
俺は、まだ、祈りの間とスライムの広間を往復していた。
ここでは、陽の光が入らない。
レベルも5まで上がった。
レベル5
HP 55
MP 1242
攻撃力 21
防御力 2859
敏捷性 4053
称号 見た目赤ん坊のオヤジ
スライムスレイヤー
防御力と敏捷性の数値は、それなりに上がって、もうスライムに囲まれてもダメージを受けることは無くなった。
ただ、HPと攻撃力は、相変わらずわずかに上がっただけで未だにスライムに直接のダメージを与えることが出来ない。
倒したスライムは、片っ端から吸収しているので魔力はかなり上がってきた。
魔力があるのだから、その内に魔法が使えるだろうと期待している。
そこで、そろそろ、先に進んでみることにした。
スライムの広間は、祈りの間からの通路に対面してもう一つの通路がある。
いつでも先に進むことは出来たのだが、スライムに手こずる様では先がないと今まで覗いてもいなかったのである。
扉は固く閉ざされており、押しただけでは開かない。
そこで勢いよく体当たりをすると、俺の身体がすり抜けられる程のわずかな隙間が出来た。
扉の隙間に身体をねじ込むとするりと扉の向こう側に抜け出た。
部屋の広さや造りは、スライムの広間と変わらない。
大きな違いは、壁一面に激しい戦いの痕跡と思われる傷や焦げ跡が刻まれており、床には、骨や鎧兜、錆びた剣が散乱していることである。
「なんだここは?」
辺りの様子を探ったが動くものはない。
かなりの年月が経過しているのだろう。骨は触れると崩れる程、風化が進んでいる。
鎧兜の方は中に身に付けていたのであろう人間らしき骨が入っていたが、中には角があるものや腕が四本と人外らしきものも混じっている。
何か使えるものが無いか探したが赤ん坊に使えるサイズの物は見当たらない。
ふと見ると広間の中央付近にやたら骨やら鎧やらが折り重なって山のようになっている場所があり、妙に気になる。
「何か、埋まっているのか?」
どうにか山積みの骨と鎧兜を退けてみるとそこには、頭から爪先まで真っ黒い金属製の像があった。
膝を着いてうずくまった姿勢の像は、座したままで3m程の大きさはあり、姿は西洋の全身鎧に似ていた。
左腕は肩口から折れており、所々に大きな傷が入り、ぼろぼろの状態である。
おれは、何気なく、像の頭部に手を触れた。
するとまるで手のひらから力が吸いとられるような感じに手を離そうとしたがピッタリとくっついて離れない。
「やばい、力が吸いとられる。」
力が勢いよく抜けていく。
おれは、慌てて像の頭を蹴りつけた。
どうにか像から離れたがおれは、肩で息をするほど疲労していた。
『魔力注入確認。起動まで10秒。』
ブーン
まるでPCの起動音の様な音かして、像が小さく振動する。
『システムエラー、起動に失敗しました。システムプログラムが損傷しています。初期化の上、再インストールします。システムの再インストールに成功しました。システムを起動します。』
像は、ガラガラと音をたてながら外装を落としながら姿を変えていく。
「一体、何が起きているんだ。」
おれは、山積みの鎧の陰から様子を伺っていた。
この得体の知れない像が、おれにとって脅威になるのではないか心配ではあったが、それ以上に好奇心が勝ってていた。
像はゴツゴツした全身鎧の無骨な形から滑らかな表面のつるりとしたマネキン人形の様な姿に変わっていた。
大きさも2m程に小さくなっていた。
『システムが正常に起動しました。ユーザー登録を行います。登録しますか?』
「おれに言っているのか?」
おれは一瞬、考えた。
だが現状を変えるチャンスと考えるべきだろうだ。
どうせ今以上に悪くなることはない。
「よし、登録する。」
『ユーザー名を登録してください。』
「上条幸樹。』
『上条幸樹。ユーザー登録完了。上条幸樹を本機のマスターとして登録します。マスターとの魔力回路をリンクしました。マスターの基本情報がダウンロードされました。マスターに合わせて本機を再構築します。』
すると今度は手を触れてない状態で身体から力が吸い取られる。
頭の中で魔力の数値がみるみる減っていくのが分かる。
同時に像が形状を更に小さく変えていき、人間の姿をでも形作っていく。
そして形状を変えた姿は、まさに血の通った人間そのものであった。
『再構築完了しました。』
さらりと長い黒髪を後ろで束ね、大きな青い瞳に通った鼻筋、すらりと長い手足のスリムな高身長、深緑色のドレスをまとった美少女である。
おれには、その姿に見覚えがある様な気がするが、どうしても思い出せない。
これだけの美少女のことを忘れるはずがないのだがまるで靄がかかったかのように思い出すことが出来ない。
「その姿は?」
『取り込んだ魔力量で再構築できる現状を記録領域に残されていた個体の形状を参考にしました。お気に召しませんか?』
「いや、いい。OKだ。」
俺が赤ん坊の姿なのだから、女性の方が自然だろう。
全身鎧の巨人が赤ん坊を連れていたら、間違いなく目立ってしまう。
どこから見ても、人間の少女にしか見えない。
これが全身鎧の巨体であったと言っても信じるものはいないだろう。
正体が何であれ、攻撃力が無いに等しいおれには、ありがたい戦力である。
早速、鑑定してみた。
ゴーレム(特)
レベル 1
HP 1000
MP マスターに依存
攻撃力 1200
防御力 3500
敏捷性 2500
と期待した割には微妙なステータスが確認できた。
まあ、レベルがあるということは、これからもっと強くなる可能性があるのだろう。
ゴーレムの後に(特)がついていることから、特殊なゴーレムなんだろうが、元々普通のゴーレムの基準が分からない。
それはそうと名前がないと呼びにくいな。
「名前はあるのか?」
「名前は、登録されていません。」
「それじゃあ、これから君の名前は、ツルギだ。」
「ツルギ。私の名前は、ツルギ。」
同時にツルギのドレスの形状がスカートから袴へと和装に変わっていく。
腰に日本刀を差し、まるで侍の様ないでだちの美少女へと姿を変えていた。
ツルギ
ゴーレム(侍)ネームド
レベル 1
HP 3500
MP マスターに依存
攻撃力 5720
防御力 2800
敏捷性 4500
固有スキル 心眼
ツルギの名を得たゴーレム(特)がネームドとなり、ゴーレム(侍)へと特殊進化した。
なぜ侍と突っ込み所は有るが、ここは異世界である。何でもありうるのだろう。
平均的だったステータスも攻撃力が上昇し、防御力が下がって前衛向けになってきている。
ツルギは、おれの前にひざまづくと頭を垂れた。
「我が名の如くマスターの剣となりて戦いましょう。」
名は体を表すと言うがつけた名前で進化の系統が影響するのだろう。
緩い名前やアホすぎる名前にしていたらとんでもないことになっていた。
ドレス姿も捨てがたかったが、今の状況では意味がなかったしか言えない。
ツルギという前衛を手にした俺は、更に先へと進むことにした。