深夜電車
(リポグラム小説『な』禁止)
街である噂が広まっているらしい
『終電を過ぎた後、駅に残っていると、ある電車が止まるらしい』
母が噂を聞いたらしく、俺にも教えてくれた
その噂を友達にする...
「そんで?」
「いや、それだけだけど」
「はぁ?おかしい噂ね」
そう、情報は一つだけのおかしい噂だ
「まぁ近くの駅で集合ね」
「俺も?」
「あったりまえでしょ?女子一人深夜徘徊させる気?」
そこまでして行く必要ある?
まぁ行くけど
深夜 最寄駅
「ねぇ寒いわ」
「うん」
駅のホーム、小さい駅のため自販機すら撤去される始末
ひどい
「うんって」
「おやすみ」
「ねーるーとーしーぬーぞー」
「あががが...ん?」
音が聞こえる
電車の音が
青い電車がホームに止まる
運転手?が降りてくる
帽子を深くかぶり影がさしているので顔は...
黒い?
『あらお客様でしたか?乗りますか?』
その声は無機質、そう感じた、寒気がする
「どうしてこの時間に走るん?」
まさか会えるとは思わんて シンプルに疑問をとばす
『深夜帯の時間ぐらいでしか他の電車に会ってしまうでしょう?』
まぁ「そりゃそうだけど」
「のせてのせてー!」
お前は子供か
『ええ、どうぞ』
電車はいつものとあまり変わった様子は見あたら...
あったわ
運転手と座席の区切りがとっぱらわれていた、それくらいだろうか
『ぜひこちらの席へ』
いわれるがまま運転席の近くの座席に座る
「ところでどうして走ってんの?」
それは俺も聞きたかった
『この電車は本当を、真実を目指して走るのです』
「真実?」
『ええ、きっと目が覚めることでしょう』
わけわからん
「どこを走ってんだ?」
窓の外は真っ暗だ
『ふむ、えー、お客様の過去、でしょうか』
は?大丈夫かこいつ
「あっー見て見てっ 外っ外っ」
「外?おぉ」
外の景色は総じて綺麗だった
でも思っていた景色とは違う
親の笑顔、友達の笑顔、入学式や卒業式、お兄さんの結婚式、思い出深い水族館や遊園地
過去を走るねぇ、いいもんじゃねえか
「すっごくきれいだねー!」
「...そう、だね」
しばらくその景色を見ていた
しかし進むにつれて色はあせていく
『感情が足りませんね』
「感情?」
『現実を知るほどに暗く重く...』
電車の速度が落ちていく
どうやら止まるようだ
『ここが、終点のようですね』
その声は暗く重く聞こえた
「ここが?」
『はい』
黒に染まった世界、周りを見ても黒黒黒
不安を覚え恐怖に駆られる
背筋が凍る
「おい、元の所へ返せ」
『いえ、ここは答えですので』
また訳の分からん事を...
「おい、お前も元の所へ返すように言えって」
「どうして?」
「どうしてってそりゃ」
彼女の雰囲気がまるで氷のようだ
「いいじゃん、終点で、別に戻っても暗い現実を見るだけだよ?」
真っ黒の世界と彼女にえも言えぬ恐怖を感じる
「暗い、現実」
「うじうじして、はぁ、いっその事ここで息絶えたら?」
つかつかと彼女が距離を詰めてくる
それで、いいか
現実は残酷だ、未来は不安定で、それに冷たい目線、蹴落としあい
蹴落とされても脱落できずに傍観することを余儀される
圧倒的力に逆らえず、ただ手のひらで転がされるだけ
どうして生きる必要があるのか
俺の人生に意味はあるのか
命だけの俺って...
「おい、聞いてんのか」
彼女に首を絞められる
ごほっ くるしい
「ぐるじい、やめでぐれ、どうじで 」
「本当にちゃんと聞いてんのか?」
「ぎいでる、ぐるじい」
「おいっ!本当に、苦しいのか?
私の目を見ろっ!」
「だからっ苦しいって」
前を向く、彼女と目が合う
彼女は暖かい、優しい目をしていた
あれ、苦しく「おいっ!お前は生きてんのかっ!」
おれは...
ふと暖かい感情が溢れる
感謝、感動、祝福、安心、喜び、尊さ
この気持ちを伝えたい、与えたい、共感したい
そう思った、そう感じた
あの日確かに見えた特別が、夢幻だったとしてもこの気持ちを大切にする、変えられる世界を信じて
『どうやら真実は見えたようですね
またのご利用は遠慮願います
世界はもっと愛で満ちていますよ』
おれは...ぼくは...
「僕は生きているっ!」
薄れていく視界
最後に見えたのは彼女の笑顔だった
◇
目が覚めたようだ、木からの木漏れ日がまぶしい、また、失敗か
横に折れた木の枝と朽ちた紐が落ちている
それと、「水と食べ物?」
手紙も入っている
「ふっ...」
生きよう、世界は愛で満ちているのだから
度々おかしい言動等はリポグラムのせいです