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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
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一章 4話 疑問と踏破者

 目の前の男。トマスはすぐに落ち着きを取り戻した。

 そしてさっきと違って鋭い印象を受ける。

 ――やっと私を相手として見た。


(どうやら話し合うつもりはあるみたい……)


 さっきの様な油断もつけ入る隙もないだろうと、私自身もトマスへの認識を改めた。


(手強い……きっと私なんかじゃ相手にならないくらいに)


 言い触らすと言ったけれど、きっと脅しても無駄だと感じられる。

 それは恐らくトマスが私の目的、執着心に気づいたからだ。


(共倒れはできない……)


 だからこそ……この交渉はトマスの手のひらの上だと嫌でも思い知らせる。


「……君はどこまで知っている?」


 ソファーから体を傾けじっくりと、トマスは試すかのように私を見つめる。

 うーんどう説明しようか……正直に言おう。


「何にも知りません」


「……それは嬉しい事だよ。君は冒険者について知らないぐらいだしね、今はこれ以上詮索もしないであげよう」


 トマスは私の答えに満足したのか、気が抜けたかのようにドッサリと体をソファーに預ける。


 そんなトマスの様子とは逆に私は気を引き締められる。


(まるで別人だよ……)


 脅されていた男とは思えない、さっきまでの私が優位だったのが嘘の様だ。

 まぁそれもそうか、さっきは油断している相手に、前世の記憶と言う名の武器で不意打ちをしただけだし。


(ってそんな事より、どう動こう……)


 私としては正直、ここは無理をする場面ではないのだ。

 さっきはムカついて暴走してしまったけど、そのおかげで魔物が存在していると知れただけで大収穫だ。

 なので正直この場はできるだけ、トマスの言う通りにして穏便に行こうと思っている。


 もし脅して本当に共倒れや、もしくは口封じなんかされたらそれは本末転倒すぎるしね。


(もしもこんな所で死んでしまったら、私にもう次があるとは限らないから……)


「少しだけ休憩しようか……紅茶でもどうだい?」


 体をソファーに預けていたのもつかの間、トマスは直ぐにソファーを立つ。


 紅茶だって? こっちの気持ちを知ってか知らずか、どうやら随分と余裕みたいだ。

 ……当然私の答えなんて決まっている。


「休憩なんて全然大丈夫です!さっ続きをぜひ!」


 そんな私の言葉にトマスは本当に疲れた顔を見せる。


「ははは、休憩させてくれないかな……。紅茶を取りに行くから、まだ帰らないでくれよ?」



 ◆◆◆◆◆



「それでどうする? お互いにいろいろ衝撃的だっただろう? 僕は逃げも隠れもしない、今日は一回帰って心を整理してから、明日でもいつでも、君が好きな日程に話すことにするかい?」


 休憩し終わったトマスは、ソファーに戻り早々に余裕を取り戻したのか、ニヤニヤと私に選択を委ねてくる。


「今日、今すぐにお願いします」


「僕が疲れてるんだが、かわいい生徒の頼みだ、しょうがないなぁ。うーん、どうしよう」


 体感10分近くも休憩したくせに恩着せがましく、この男は。


「よし、じゃあ質問形式にしようか。 それなら僕も楽できるし。もう僕は隠すこともないから答えるだけで、聞かれたことはなんでも答えるよ。その代りと言ったら何だけど質問は、今日は5個までね? それと僕は疲れてるからなぁ、範囲が広い質問に対しては

 ――マトモな答えが得られると思わないでね?」


 トマスはそう言いながらソファーに埋まるように背を預け、心底楽しそう紅茶を飲む。


(えっ!? いきなり5回、何でも質問に答えてくれるの!? 破格すぎない? 落ち着け、飛びつくな私、罠かもしれない)

 

 危なかった、前世の記憶(小説)がなければ、きっと目の前にぶら下げられた餌に遠慮なく食らいついていただろう。

 トマスが私と話し合うつもりがあるのは、私が魔物を知っていたからだ。知らない筈の情報を持っていたからだ。

 

(そりゃ私の「何にも知りません」なんて言葉、信じるわけがないよね……)


 もしここでバカ正直に聞きたいことを聞いていたら、それ(質問)を知らなかったとバレてしまっていた。

 ソレはとてもまずい、もしかしたら何も知りえないと、そう判断されて用済みとして消されるかも知れないからだ。

 ジワリと、嫌な汗を書く……。


(やっぱいいですなんて、帰らせてくれるわけなんてないよね。あれよく考えたら、ひょっとして私の人生、もう詰んでる……?)


 甘い考えだった。私は最初、交換条件とかで情報を引き出せたらいいなぁ、なんて思ってたけど、そもそも私は何で無事に帰れると思ってたんだろうか。

 そもそも徹底的に存在を隠されてる以上、魔物なんて存在を知っているだけでもう消される対象なのかもしれないのだ。


(じゃあ何でわざわざ5個の質問なんて? やっぱり私が何処まで知ってるのか確かめたかったから? 冥土の土産にだったり!?)


 ネガティブな考えがどんどんと浮かんでゆく、相手の意図が分からない、どうしたらいいかも分からない、私は勉強ができるだけで賢くはなかったから……。


 そんな私の内心を見透かした様にトマスは声を掛ける。


「ははっクライナちゃん、無用な心配だなぁ。僕を脅した心意気は一体どうしちゃったんだい?」


 悠々と、まるで最初に私が職員室を訪ねた時の様に、悪戯ぽく笑うトマス。


 その様子を見て私は更に身を固くする。


(やっぱりだ……。さっきからの余裕は、いつでも私を始末できるから……)


 ネガティブな感情が身を包む、そんな私にトマスは言葉を続ける。


「あのね、僕が驚いたのは君が魔物を知っていた事、唯一点だけなんだ。別に言い触らされたってどうってことに無い、取るに足らない事なんだよ」


 だから君が考えている様な事は無い、安心してくれと、安心できない笑顔でトマスは私に笑いかける。


「取るに足らない事……」


 脅しにすらなっていなかった、そんな現実を私は受け止める。


「そうさ、取るに足らない事さ。そうだな、家に帰ったらご家族に相談してくれてもいいんだよ? そんなに思い悩むは必要はないんだ」


 じゃあ一体なんの為に……。

 そんな疑問を溶かすかの様に、トマスは更に言葉を続ける。


「だから単純に考えてくれればいい、“君が本当に聞きたいことを聞いたらいいんだ”……例えば僕は今日、なんで学校に居たんだろうね?」


 だから明日でもいつでも良いと言ったじゃないか。と笑うトマス。


 そんなトマスの言葉を聞いて、カチリとピースが嵌まる。


(……そっか、やっと分かった、試されてるんだ私)


「……今日じゃない。今、お願いします」


 今じゃないと駄目なんだ。


「ふふ、そうかい、なら急いだ方がいいんじゃないかな? さっ質問をどうぞ」


 嬉しそうに紅茶を飲むトマスを見ながら、私は考えを纏める。


 もう1つ目の質問は……決まった。


「その地獄の穴に行く事に、参加するのには何か条件はありますか?」


 どんな情報があってもそれは参加できなきゃ意味がない、先程の問答の内容を聞いたら考えなくてもわかる。


――まず私は前提条件をクリアしているのか?


 何らかの要因で参加できないかもしれない。例えば冒険者学校は選ばれし物しか入れないのだ。

 例えばお金、権力、才能、道具、もしくはそれ以外の何かが要るのかもしれない。

 もしなんらかの才能が無ければ入れないのならば、どれだけ頑張っても詰みの可能性がある。


(まぁ試されてるって事は、あり得ないと思うけど)


「なるほど……良い質問だね。いやはや驚きだよ。そんな君に地獄の穴の正式名称を教えてあげよう。勿論だけど質問回数に影響しないよ」


 地獄の穴って言うのが恐れ多いだけだと思うんだけど。

 それに正式名称は殆ど予想できてる。


「そんなに良い質問ですか? 当たり前だと思いますけど?」


 トマスの目が遠慮なく、ギラギラと私を見ている。


 分かりきっていた事だけど、これは私を恐れたわけでも、私の為でもなく、トマス自身が自分の為に私を見定めているのだ、利用できるか人材かどうかを。

 それを嫌でも実感してしまう、まったく気後れしないけど。


「おや、正式名称の方は反応なしか、知っていたって感じかい? 【迷宮(ダンジョン)】って言うんだけどね。うんうん、本当に良い質問だよ。あれだけ魔物に執着してながら目先の利益に走らない、その慎重さは評価に値するからね」


 何だかさっきから必要以上におだてられている様な、持ち上げられている様な……。


「……それよりも早く本題を進めませんか、一応門限があるので」


「門限か、なるほどね。話が脱線しちゃうのは僕の癖なんだ。それで参加の条件だったかな、そうだなぁ。簡単に言えば才能的には誰でも参加できる、特に君はね。立場的には、誰でもは無理だね。けど僕がある方法でねじ込んであげよう。……僕の目にかなったらね」


 そんなトマスの協力的な言葉に思わず動揺してしまう。


(……私が参加できる!?)


 試されていると思ったけど、そこまでしてくれるのか……。

 想像以上に協力的だ。それだけ私は評価されているって事なのかな?

 それよりもトマスの言葉に気になる事がある。


「あの、才能的には誰でも入れるって事は、特殊な才能が必要って訳じゃないって事ですよね? なのに特に私がどうとかって、……もしかして私には何か特殊な才能や素質、能力とかがあったり?」


 才能……。その魅力的なフレーズに惑わされた私は、思わず質問回数などを考慮せず口を開いてしまう。


 やっぱり異世界転生なのだろうか? なんか凄い能力、才能が私にあったり!?

 うん! そう想定したら、さっきまでのトマスの態度は腑に落ちる。きっとそうだ!


「いーや……ないね! ハッキリ言う、君は弱い。言っただろう? 冒険者学校を卒業してやっと1人前になるかどうかだと、頭も君は優れてない、もしかしたら優れてる可能性もあるかもしれないが、そうだとしても君じゃ無理だ。何処でその知識を手に入れたかは知らないけど明らかに魔物、それどころか迷宮自体を舐めている、彼らの怖さを知らない」


 しかしトマスは、そんな私の期待をへし折るかの様な言葉を告げる。


「僕はね? 君の自殺の手助けをしているに過ぎないんだよ、君を試しているのも、いかに周りに迷惑や被害を出せずに死ねる人間か、見てあげているだけだ。君は特別なんかじゃない、それどころか弱者だ。君の才能については今は説明しない、質問に含まれてないからね。……質問回数を消費すれば、答えてあげるけど、それは選ぶべきでない選択と言っておいてあげるよ」


 今日一番の呆れた表情をして、トマスは凄まじい程の言葉を私に浴びせる。


(確かにこいつ(・・・)の言っている事は正しい、けど一つだけ間違っている)


 ふふふふ、私が特別な人間じゃないだって?

 ――前世の記憶があるこの私が?

 内心笑いが止まらない。今は反論はしない、ただこいつの目にかなうようにするだけだ。


 ……ダメだ、結構ムカつく。


「ちっ! 次の質問ですけど、わざと(・・・)とまるで嫌がらせ(・・・・)のように、さっき言葉を濁しながら説明していた冒険者学校の活動について……。あやっぱりもう少し考えます」


 この質問はダメだ、『――君の様に冒険者学校をよく知らない学の無い田舎者等』と先ほどトマスは言っていた。

 都市部の人には常識的なのだ、つまり情報を秘匿した表向きの看板があるって事で、トマスはこの質問に対して表向きの活動についてしか答えてくれないだろう。

 しかし、かと言って裏の活動についてを質問したら答えるだろうが、先程行った通り結局片方の情報しか手に入らない。

 両方の情報が欲しいのだ。じゃあ2回で両方質問すればいいじゃん、と思ってしまうけど、それはきっといい手では無い。他の質問を考えよう。


(冒険者についてはしっかり裏の情報まで答えた癖に、冒険者学校については表向きの隠さなくていい、情報まですら教えてくれなかったのはわざだよね……)


 ……さっきの言葉と言い腹が立つ。


「良い質問と思うけどねぇ」


 他人事の様にニヤニヤと笑うトマス。

 ますます腹が立つ。


「………………」


 ……。


「……良いのかい? そんなに考えていて、まだ質問が4つも残ってるじゃないか」


 紅茶を飲み尽くしたからか、退屈そうなトマス。

 考え中なんだから、急かさないでほしいな。


「……冒険者学校の卒業者達が呼ばれる名称を教えてください。卒業者全員の共通名称だけで良いですから」


 範囲の広い質問に答えない、その言葉を思い出し咄嗟に条件を加える。

 ふふふ、どうだ完璧な質問だろ! 果たして何が出るか……。


「へぇ、知らないなりによく考えたんじゃないかな、本当に良い質問だよ、期待以上だ。そうだね、大勢の人達からは“王国聖騎士”、一部の人達からは【踏破者】と呼ばれているね」


 期待以上ね。そういう意図は無いんだろうけど、答えがわかった今は馬鹿にされている様にしか聞こえないよ。

 まぁこれで全ては繋がった。


「そうですね、先生、お互い時間も怪しくなってきた所ですし、3つ一気に質問しますね」


――私が今日(・・)の“何時(いつ)”に“何処(どこ)”で“何をしたら”、王国聖騎士に成れますか……?



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