表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
3/42

一章 2話 彼女の謝罪、或いは永遠の別れ

――【魔物(モンスター)】が居ない世界の冒険者は何を生業にしているのだろう?


 ……ダメだ、記憶を思い出そうとしても、何も出ない。

 前世の知識ならば船乗りや開拓者など思い浮かぶけど、私自身の記憶には何もなかった。

 けど冒険者と云う言葉は確かに前世じゃなくて私自身が聞いた言葉の筈だ。


(うーん……私が冒険者って名前を小耳に挟んだのは、たしか財宝の噂だったかな?)

 

 確か、確かお偉い様が財宝をどうたらとかで。


(そっちじゃない、確か他にも聞いたはず……あっ!)


 冒険者学校っ! そんな学校あった気がする、きっとそうだ、それで聞き覚えがあったんだ。

 多分パトリク先生の自慢話だったかな、この言葉が出たの。

 冒険者学校かぁ、何を勉強するのだろうか? 気になる。


(もう少しで学校に着くし、私は先生に()受けが良いから、着いたらパトリク先生に聞けばいいか)


 そんな事を考えていながら歩いていると、私を見てからこちらへ歩みを早める、大人しそうな水色の髪の少女が目に入る。


「おはようございます、クライナ様ぁ」


 わっ!……えっと、カリーナか!


――私の数少ない友達のカリーナ・ルンギだ。


 カリーナは私の取り巻き……なんて者ではなく、ちゃんとした私の友達だ。

 私の友達と思えないぐらいのいい子で、今思えば、私が良くない事をしている時は何時も悲しそうな顔をしていた気がする。


「おはよう、カリーナ」


 そして何故かこんな私をすごく慕っている子だ。

 これまでの私はそれに気づいたことも報いたことは無かったけれど……。


「クライナ様、何か良いことがお有りでした? 何時もより優しいお顔をしていますわぁ!」


 うふふと上品さと優しさが混ざった笑顔を私に向ける。


(うっ、眩しいっ!)


 これまでの私はこんな笑顔を浴びても浄化されなかったなんて……。

 さっそくカリーナは変わった私に気づいたみたいだ。

 前までの私はいっつも怖い顔をしててあまり人を寄せ付けなかったからなぁ。

 ……よしっ。


「あぁ、朝から大切なお友達と会えたからかなぁ。あっそう言えばカリーナって冒険者学校について知ってる? どんな事を勉強してるのか気になっちゃって」


 今までの私は友達をあまり大切にしてなかったが、私は変わったんだ!

 これからはガンガン攻めていこう!

 ……やっぱり恥ずかしくなったので、誤魔化す様に質問する。


「あらあら、嬉しいですわぁ、んー冒険者学校の授業ですか? タイムリーな話題ですねぇ、授業の内容は厳しい修行や鍛錬やクルア教についてよく学ぶのでは? 一般の方じゃ入れないので、あくまでも憶測程度の情報ですけれど……」


 何故そんな事をと云った疑問の表情から、急に腑に落ちた顔になるカリーナ。


 うーん照れでもするかなって思ったけどカリーナは意外にやり手らしい、なんてことなしに流されてしまった。


(それよりも、一般人が入れない、修行や鍛錬……? もしかして、もしかするのかな?)


 けど何がタイムリーな話題なのだろうか? とそんな疑問も吹き飛んだ。

 何故ならもうすぐ私の抱えてる疑問は解決する筈だからだ。


(おっ見えてきた、やっぱり目立つなぁ。うん、質問はもういいや、もうすぐ聞けるしね! 後は学校に着くまでカリーナとの会話を楽しもう!)


 白く大きな建物が私の目に入る。

 その建物を見てまず最初に目につくのは、大きく立派な時計塔だろうか。

 この時計塔はとても重要な物で一刻毎に鐘が鳴り、私も含め市民達はそれで大体の時間を把握する様になっている。


 どうやらに学校に着いたようだ、いつもの様に別クラスのカリーナと別れる。

 まだ始業まで時間があるし、さっそくパトリク先生を探しに行こう!



 ◆◆◆◆◆


――突然だが、私の通っているは聖クルア王国学院、通称【クルア学院】はとっても宗教的な学校だと思う。


 この世界では【聖クルア教】が絶対的な宗教で、この学校ではそれについて学ぶ、他にも文字や計算、歴史(聖書)など色々な物がある。

 今はどうやら学院代表スピーチが近いので、王国聖騎士の授業をしているみたいだ。


「王国聖騎士は~この王国出身の騎士であるが~この国の騎士ではなく~クルア神の騎士であり~」


(……駄目だ、まったく授業に集中できない)


 何故なら今、私の頭の中はパトリク先生が見つからず聞けなかった冒険者学校の事と、いじめていた少女、【アリア・リーベ】に謝ることで一杯だからだ。

 教室内の斜め後ろの方の席にいる、彼女の方をチラりと見る。


――私がいじめていた少女、アリア・リーベ。


 桃色に近い髪色でショートの、気の強そうな蒼い目をした少女だ。


(きっとすごく恨まれてるんだろうな……当たり前だけど)


 私が彼女をいじめた理由は彼女が自分と似ていたからだ。

 なのに自分と真反対で家族と仲がいいから嫉妬していた。


 そして遂に私がしてしまった嫌がらせを見て、これまで彼女を快く思っていなかった女子達が、彼女を今日までいじめていたわけだ。

 ……結局いじめのきっかけは私だし、彼女からみたら私も紛れもない、いじめっ子のボスだろうけど。


(でも、だからこそみんなの眼の前で彼女に頭を下げて、謝罪して、もういじめが起きないように、けじめをつけよう)


 それで許されるとは、到底思わないけど……。


 ◆◆◆◆◆


 前世の記憶の影響なのだろうか……?

 なんと気がついたら授業が終わっていた。ほんの少しだけ前世の知識を覗いていただけなのに。

 実はまだ記憶の整理がついていないのかも知れない、これで今日の授業は終わりだし、さっさと帰ろうかなぁ?


(…………みんなの前で、謝るにはまだ覚悟する時間が足りてないよ)


 前世の記憶があろうが心は15歳のちっぽけな少女な訳で。

 恥ずかしい思いや、周りの反応や急に私なんかに謝られたアリアさんもどう思うか気になるし、不審や迷惑に思われてしまうかも、などと色々な思い(言い訳)が胸に浮かぶ。


 そんな事を考えていたら、そそくさと帰ろうとしていたアリアさんが、目に入る。

 だけどその前を、燃えるような赤い髪の少女が塞いでしまう。


「おい! アリア・リーベ、何帰ろうとしてんだ? あぁ!?」


 そのドスの効いた声に思わずおんなじ教室にいる私まで内心ビビってしまう。

 そしてそんな大声を出した少女は……


――いじめっ子の少女、フィネ・レマード。


 燃えるような赤い髪のポニーテールの少女で、クラスの人気者であり、アリアさんをイジメていた主犯格でもある。


「はぁ、うっさいわね……目の前に居るのにわざわざそんな大声出さないと喋れないわけ?」


 流石アリアさんだ、普通の少女なら怯えて黙ってしまうかもしれないが、彼女は噛み付く。

 ……だが昔より注意深く彼女を見れば、少しだけ震えているように見える。


「はッ! ビビってる癖に強がってんじゃねえよッ!」


 怯えるアリアを見て気分を良くしたのか、フィネは表情をより楽しそうに歪める。


(…………やっぱり今日謝ろう)


 それを見て覚悟を決めて私は歩き出す。


「……っ! 誰が怯えてなんか! 用事がないなら帰らしてもらうわ、急いでるから!」


 何か用事があるのか、急いで帰ろうとするアリアさんを、何時もよりニヤニヤとした女子達が囲みだす。

 今日はいやに直接的な嫌がらせで、とても悪い予感がする。

 私は足を速める。


「……おいおい、そんなに急いでどうしたぁ? たくっ 優等生様はスピーチの練習で忙しいってか? あぁ!?」


 周りに知らしめるように大声で、フィネはアリアの足を止める一言を放つ。


 きっと全校生徒には、明日ぐらいに発表されるだろう筈の、ソレを知っているフィネに私は驚く。

 それはアリアさんも同じだったみたいで。


「なんであんたがそれを!?」


 なんで知っているのと、言わんばかりに驚くアリア。


 選ばれる本人であれば、何かしらの連絡はもう来てるみたいだけど、フィネ・レマードが知っているのは絶対にありえない事の筈だ。


「くくっ、テメェのお友達がな、教えてくれたんだよぉ」


 ニヤリと得意げに語るフィネ。


 ……きっとアリアさんは、仲の良いの友達にだけ教えていたのだろう。

 だからこそ強いショックを受け、思わず動揺してしまう。


「……嘘よッ!? 何がしたいの! 一体何が望みなの!?」


 なんでとばかりに言葉を吐き出すアリア。


 ……大体想像はついてしまうけれど。


「分かってんだろ? 辞退しろよ! 学院代表スピーチを辞退しろ!」


 やはり、そして代わりが誰なのかも想像はつく。


「な、なんでよ! 絶対に嫌ッ! お母さんもお父さんも妹も楽しみにしてるってッ! 家族みんなで聖騎士様のご無事を祈るのよ!」


 家族か、母様は私が選ばれなかったから、きっと怒るんだろうな。

 ……今はそんな事、もう構わないんだけど。


「はっ! 祈りだぁ? お前が祈りを捧げるなら今年も聖騎士は全滅だろうなッ! そんなお前よりも、このクラスにはよりスピーチに相応しい人物がいると思わないか?」


 そう、聖騎士は帰ってこない、それはもう常識と化している。

 もし私が……。

 否、誰が学院代表スピーチをやったとしても、きっとその未来に変わりはないだろう。


――フィネ・レマードは問う。


 今、この場所にやって来た者に答えを求め。その瞬間、周りの目が一斉に彼女へ向く。

 アリア・リーベも睨むように蒼い目をこちら(・・・)に向ける。


(ごめんなさい……睨まれても仕方ないよね)


 今までの私なら、自分が選ばれなくてアリアさんが選ばれた事に烈火の如く怒りを抱いていただろう。

 そして母様の事もある、アリアさんが辞退する事に賛成して。


 “きっとこの光景に加わっていただろう”


(…………それが紛れもない私だったんだ)


「……っ! クライナ・アナベル!? 貴方の仕業なの!?」


 アリアは少しも怒りを隠すことを無く、こちらを睨む。


 フィネ・レマードはなんのためにこんな脅迫をしているのだろうかと、ふと思い浮かぶ。

 私の為? そんな訳ないか、十中八九、アリアさんに嫌がらせをしたいだけ、私を利用して嫌がらせをしているのだろうけど。

 緊張を誤魔化すかの様に続々と出てくる、意味の無い疑問を頭から掻き消す。


(緊張で吐きそうだ……けど今しかない、今が最大の機会の筈だ、私!)


 少しだけ息を吸う、そして覚悟を決めて息を吐く。


「そんなつもりはないです。私はアリアさん、あなたが最も相応しいと思っているので」


 内心は震えながら、それを感じさせないように、力強く1文字1文字ハッキリと私は言葉に出す。


 言ってる事は事実だ。才色兼備で容姿端麗なアリアさんだし、家族も楽しみにしているみたいだし、私なんか母様も妹も呼びたくないしね。

 私なんかより相応しいし、応援してるよ!


――そんなクライナの衝撃的な言葉に、フィネもアリアも含めその場にいた全員が、唖然として硬直する。


 よし! 今が謝る絶好のチャンス。


「アリア・リーベさん、これまでの非礼な言動や行動をお許しください! 私はあなたに嫉妬していました、だから嫌がらせをしてしまいました、これで許してくれなんて言いません、けどっ、ごっごめんなさい!」


――非を認めしっかりと頭を下げるクライナ。

 信じられない光景が、元から衝撃を受けていた全員にさらに追い打ちをかける。


「そして、聖クルア学院代表スピーチ、応援しています。邪魔する奴は許しません、ぜひ頑張って!」


――本心からそう云っているのが、分かるように珍しく笑顔を見せるクライナ・アナベル。


 もう何が何やら、謝られたアリアを含めその場いる全員は完全にフリーズしていた。

 そしてそれを見て、今のうちに退散しようとするクライナ、前世の記憶があろうが15歳の少女には中々苦しい体験だったのだ。


(ふぅ、これでひとまずは大丈夫の筈、本当はアリアさんから返事を貰いたいけど、そんなすぐ心の整理ができる問題じゃないよね……)


「それじゃあ、用事があるので……」


 まるで逃げるかの様に教室から出ていくクライナ。


(パトリク先生を探さなきゃだから仕方ないよね?)


 しかし背後からの足音がそんなクライナを許さなかった。


「待ってくれッ!」


 まさかアリアさん? じゃなくてフィネ・レマード!?


「……まだ何か様ですか?」


「クライナさん! 本当にいいのか……!?」


 ええっ? まさかのクライナさん呼び!? そんな事よりも一応釘を刺しておこう。


「アリアさんの事? 私が言えることじゃないけどもういじめたらダメですよ」


「それもだが! 学院代表スピーチのことだ!」


 あれ……? 雲行きが。


「いいですよ。それにやりたかったとしたら、自分の実力で掴み取りますしね」


 これは本心からだ。掴み取れるとは限らないけどね。


「……そうだよな、あんたの言う事ならそれに従うよ。余計な真似して悪かった、じゃあな!」


 本当に申し訳なさそうに去っていく、フィネ・レマード。


(嘘でしょ……?)


 いじめも全部、全部、完璧に私のせいだ……。

 ほんとに本当にごめんなさい……アリアさん!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ