ホムンクルス誕生
1
「やっと完成した……」
俺は目の前にある光の繭を見ながらつぶやいた。
「ここまで長かった……」
思い返せばたくさんの記憶が蘇ってくる。
始まりは妻の死だった。平凡な錬金術師だった俺には幼馴染がいた。生涯の愛を誓い合った俺たちは結婚して、幸せな生活を送る。ずっと先まで二人でともにいるはずだった。けれど、幸せが崩れるのは一瞬だった。
ある日を境に妻は体調を崩し、ベッドに横たわる日々が続いた。
すぐによくなる思った。
……だけど現実は非常だった。
妻は不治の病にかかっていた。全身のマナが失われていき、新たなマナを生み出す力が衰えていく病。生物が生きる活力の源であるマナが失われれば、待っているのは死だ。
俺は妻の病を治そうと研究を始めた。
マナが失われる原因を特定しようとしたが、根本的な原因が判然としない。マナを補充する薬を作ったが、失われる速度のほうが速い。マナの拡散を阻害する薬を作ろうと各地を巡って素材を集めたが、病の進行を抑えるほどの成果がでない。
そして、俺の無能がとうとう妻を死に至らしめた。
死の間際に、妻はつぶやいた。
「今度は、失敗しない……。またあなたに会って、あなたを愛します」
息を引き取った妻を、俺は涙を流しながら抱き留めた。
そして俺は誓ったのだ。妻を、妻の魂を、再びこの世に呼び寄せると。
それから俺は、死者蘇生の研究に明け暮れた。王国で禁忌とされている生命の創造。俺は妻をホムンクルスとして生み出すことを目的に研究をつづけた。
研究はなかなかうまくいかなかった。まずホムンクルスの作成は、突出した才能が必要な研究で、平凡な俺は所属していた錬金術ギルドの図書館に通い詰め、少しでも関連のある資料を集めた。
やがて俺が怪しい研究をしているとギルドにばれ追放されてからは、独学でホムンクルス作成の理論を作り上げた。
ホムンクルスの素材を集めるために、危険なダンジョンにもぐって深層を探索し、竜の住む山を登り、何度か死ぬような目にもあいながらなんとか素材を集めた。
そしてとうとうすべての素材を集め終わり、ホムンクルス作成の準備が整ったのだ。
妻を呼び戻すためには、妻の魂をホムンクルスに吹き込む必要がある。今はまだそのための理論は完成していない。だけどその前に、まず完璧なホムンクルスを作れることを確認する必要がある。
禁忌のホムンクルス作成を試す時がきた。
作り上げた理論に従い、複雑な魔法陣を書き上げ、必要な素材を配置し、マナを循環させる。
膨大なマナの光が室内を駆け巡り、目を開けていられない。やがて光は魔法陣の中央に収束し、光のマナが楕円をかたどり繭のようなものを形成する。光の繭がいまかいまかと誕生のときを待ちわびて脈動する。
俺の研究の集大成が、いま実を結ぼうとしている。
心臓が脈打つ。光の繭が、ひときわ強い光を放つ。繭の脈動がどんどんその間隔を短くしていく。
光が強くなっていく。やがて俺の視界が光に埋め尽くされる。
そして光が爆発した。
なにも見えない。俺はとっさに目を手で覆う。
やがて光は徐々におさまっていく。
視界に色が戻ってくる。
光の繭があった場所に、人の形の影があった。
視力が戻ってくるにしたがって、影はその輪郭を鮮明にしていく。
影は、髪の長い少女の形をしていた。