旅の始まり
「ところで華晶よ、森から出ることができないというのはどういう意味なのだ?」
エレルドは先程から気になっていた事を聞いた。
「あ、ああ。瀧愁達が俺にかけた魔法…みたいなものだ。あいつらが俺を眠らせる時に使った力が何かに影響して森から出られなくなったんだ」
「何かとはなんだ」
「俺もよく分からねーが、おそらく精霊に影響したんだろうな。あいつらが使ったのは精霊魔法だ。俺らが使う精霊魔法はマナと自身の気持ちに作用する。だから充分あり得ることだ。もしもまだ戦争の最中に目が覚めて、また戦争に参加されたら……とか考えたんだろうな」
呆れたような悔しいような感情がこみ上げてきた。
「……そうか…。で?どうやって森から出るのだ?探しに行くにもまず、出られなければ意味がないであろう?」
その通りだ。だが、華晶には考えがあるようだった。
「エレルド、お前の力で何とかできねーのか?確か…無効化魔法があっただろ?」
「無効化?……ん〜。あるにはあるが…良いのか?」
良いのか?というのは副作用を伴うからだ。
副作用は無効化した魔法の内容によって変わる。
唯一共通することは、容姿が少し変化するということだ。どう変化するのかは明確ではない。
この場合だと、1週間の副作用が続く。魔法や固有能力が制限されるだろう。つまり、能力的に言うと人族と変わりない。副作用なので時間が経てば元に戻るが、それでも一時的に力が使えなくなるのだからエレルドは華晶に確認を取った。
華晶は少し考え後に…
「……受け入れよう。姿が変わるのは正直どうかとは思うがな…」
華晶は副作用の内容を分かっていた。昔エレルドに無効化魔法について教えてもらった時、副作用についても色々と教えてもらったことがあるからだ。
「いいだろう」
エレルドはそう言って、大きな手(爪)の先を華晶の額に当てて無詠唱で無効化魔法をかけた。華晶は目を瞑ってじっとしていた。
かける瞬間、額に触れているところから淡い緑色の光が放たれた。
「終わったぞ?だが…その姿は……」
エレルドのその言葉を聞いて目を開けた華晶は驚いた。
「!この姿…人族か?!能力も人族と変わりねーっていうのに姿もかよ…まあ、ある意味都合はいいんだが……」
(憎い人族の姿は気に入らねーが……はぁ〜そんな事を言ってたらきりがないな)
そう、憎い種族など華晶にとっては山ほどいる。
「都合がいいとはいえ……よいのか?その姿で」
エレルドは華晶が人族を憎んでいることを知っている。だからこそ少し心配になった。
「ああ。だが、やはり力が使えないというのは不便だな」
受け入れたのだから仕方がない、と後から言い残して旅支度をした。
「もう行くのか?」
とエレルドが聞いた。
「かかっていた魔法も解けたしな。これ以上先延ばしにする訳にもいかねーだろ?」
華晶はそう言って支度を終わらせた。
元々支度をするほどの私物は持っていないから、身なりだけを少し整えた。
「よし、行こう。色々とありがとな」
「うむ、困った時は友として助けになろう。召喚魔法か意思共有で我を呼べ」
「気軽に呼ぶわけにはいかねーだろ。まあ、何かあったら…な」
華晶は「じゃ」と別れの挨拶をして行ってしまった。
その後ろ姿をエレルドは黙って見送った。
《始まった少年の仲間探しの旅。これからどうなるかは……誰にも分からない》
この先一週間ほど華晶は、人の容姿で魔力を必要とする魔法と固有能力は使えません。