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魔人達の目的

落ち着くために1度深呼吸をする。その後、3秒ほど目を瞑り、殺気を出さないように精霊にジェスチャーをする。

人差し指で頭を2回トントンと叩く。意思共有(テレパシー)を使えという意味だ。意思共有(テレパシー)は、片方が発動していればお互い共有することができる。

精霊はその意を読み取り、発動する。勿論魔人には気づかれないように。


(お前、あの魔人の動きを何分間ぐらい止めてられそうだ?)


(はい。最高でも10分、最低でも5分は止められると思います。上位魔人以上でしたら不可能ですが、あの魔人は魔力的に中位ですので)


(十分だ。そのうちにあの3人を逃がす)


(華晶様は?!)


(何とかなるようになるさ。精霊玉は手元にあるし、お前もいる。魔法も固有能力も使えねーが、幸い剣術だけは体が覚えてる。まあ、力は半減されてるが……)


(……承知致しました。ですが無理はなさらないでください)


(お前もな。まずは俺が出る。それと同時にあいつの動きを止めろ)


(はい)


華晶はタイミングを見計らう。魔人が兵の3人に意識を完全に向けたところで華晶が茂みから飛び出す。

それと同時に大地の精霊魔法が発動し、太い木の根が地面から飛び出して魔人に巻き付き、動きを止めた。


「?!これは……精霊魔法?ですか…」


魔人が華晶と精霊に目を向ける。華晶は剣を抜いており、戦う覚悟で戦闘態勢に入る。


「!おや、精霊、ですか。下位でもさすが精霊ですね。ではあなたは精霊師ですか?」


声色と顔色一つ変えない魔人。華晶の額には冷や汗が浮かぶ。こんなのは昔も合わせて初めてだった。


「そうだが、随分と余裕そうだな」


「確かに精霊は厄介ですが、私が人族1人に負けると?まあ、昔なら分からなかったでしょうけど、今の人族(あなたがた)に負けるほど弱くありませんよ」


やはり魔人も気づいているようだ。人族が弱体化していることに。長く生きているからこそ気づける。3人の兵は硬直こそしてはいるが、会話は耳に入っていた。

華晶は一瞬その兵達に目を向けて叫ぶ。


「おい!ぼけっとするな!さっさと行け!お前らがそこにいると邪魔なんだよ!」


急ぎのあまり言葉が荒くなる。いや、華晶の口調と性格の問題か。兵達は2秒ほどおどおどしていたが、状況を理解し、一目散に華晶が隠れていた茂みの方へと走って行った。

国家騎士団兵としては目に余る行動だ。だが、今はそれでいい。

華晶はフッと息をついて、再び魔人に目を向ける。


「おや、逃げられてしまいましたね。古代魔術の1つ、魔法魔術の無効化の式が組み込まれていますね。精霊魔法と古代魔術の応用ですか。道理で使えないわけです。……で、あなたの目的はなんです?ただ助けに来たわけではないでしょう?」


魔法魔術の無効化。その名の通り、魔法と魔術を無効化する魔術だ。効果は、対象者が式の組み込まれたものに触れているか、結界という形で、その結界の中にいる時に発動する。無効化とは言うが、圧倒的に力の差がある場合には効果がない。


ただ助けに来たわけではないでしょう?その通りだ。何が目的なのか。それが知りたかった。


「先日の件も含めて何が目的で今ここにいる?」


「暇潰しですよ。人族の文明が発達してきているという噂があったので、戦ってみようと思ったのですがこのざまです。国家騎士団でこの程度。ほんの2000年前までは殺りごたえがありましたのに」


「つまりは戦いたいだけか?嘘だな。先日魔物を引き連れて来た理由がない。様子を見に来たんだろ?その洞窟の奥に隠した、邪の魔物を生み出す邪石を」


邪石とは、強い邪気が凝縮してできる石のことだ。邪悪な暴走状態の魔物を生み出し、稀にSランク以上の魔物が生まれることもある。

邪石の存在を前から知っていた華晶は、精霊玉で感知した強い邪気で、邪石が洞窟の中にあるのではないかと考えた。

邪気は魔力やマナとは違い、感知が難しい。また、邪石が自然にできることも珍しいので、これをもとに精霊から聞いていた、"魔物が何処かで生み出されているかもしれない"ということから、この結論に至った。


フローラの回復が遅いのも恐らくこのせいだろう。この森全体がフローラの魔力そのもの。そこに本来あるはずのない強い邪気があることで、異常をきたしてしまっているのだ。

華晶は再び、何が目的なのかと魔人に問う。


「人族にしては感がいいですね。それに、まさか邪石に気づいているとは。ですけど全く嘘ってわけでもありませんよ。人族の力量を図りたかったのも事実です。魔物を通してね。……邪気は滅多に発生しないものなので、人族は知りえないものだと思っていましたが……。目的、ですか。そうですね、あるものを探しているのですよ。魔王様が」


魔王という言葉に驚く。魔王は邪悪というイメージが根強くあるが、表で動くことは滅多になく、魔王本人は他種族と交戦することもそうそうあるようなことではない。大体は言いつけがなければ部下の魔人や魔物が独断で行う。


「魔王?まさか!魔王が何故だ?…何を探してる?」


「先日、人族が魔の石印を盗んでこのフローラの森へ逃げたのですよ。人族は石印に触れられないはずなので驚きました。これに至っては我々の不注意でもありね。魔の石印を我々魔人だけで探すのはかなり困難なことでしてね。魔の石印の気配を察知することができる、邪の魔物に探させているというわけです。あの騎士団を襲わせたのは、魔の石印を持っている可能性があったからなのと、力量を図りたかったからですよ」


「目的のためなら手段を選ばねーか。やっぱり魔人は魔人か」


「当然です。あれは我々の象徴。手段は選びませんよ。そのために女神フローラには邪魔されたくないのですよ」


魔の石印とはその魔族を示す印のようなものだ。いわば国旗と同じようなもの。


「ハッ、女神フローラが邪魔?そんなに急いで探してるんならその女神フローラに聞けばいいじゃねーか。わざわざまどろっこしいことする必要なんかあるか?」


先程も言った通り、この森はフローラの魔力そのもの。フローラは森の中の音や状況を見聞きすることができる。つまりこの会話も、起きていれば聞こえているということだ。


「面倒ごとが多いんですよ。昔から魔人と女神は相性が悪いようで」


魔族は好戦的で、女神は例外を除くと平和主義。利害が合わないことが多いのだ。ちなみに例外というのは、戦の女神アテナやミネルバ、勝利の女神ニーケーなど、戦絡みの女神だ。彼女たちに至っては好戦的ではないが、戦いを好む。


「よく言う。……なら、俺も手伝ってやろうか?早く見つけねーとやばいんだろ?」


「誰が人族であるあなたに頼むと?」


「でも早く見つけないといけねーんだろ?俺なら見つけられる。で?どうするんだ?」


早くしろ早くしろと煽るように言う。わざとだ。魔人は眉をひそめて華晶を睨む。

身動きができずにいるまましばらく経ち、そろそろ精霊魔法も限界を迎えてきた。


(華晶様、そろそろ精霊魔法がもちません。もってあと2分ほどで限界です)


(ああ、分かってる)


だが、そこでさらに最悪の存在が華晶達の前に姿を現した。

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