緊急事態
その後、Bランク以上の魔物が数十体出現したが、何とか全て倒すことが出来た。
だが、凶暴化した魔物出現の原因は分からずじまいであった。
そして、今日のところは暗くなるからと、途中で野宿となった。
「お疲れ様です。華晶さん、メアちゃん、ディー君。華晶さん旅をしているだけあって流石に強いですね。素早い剣さばきに高い動体視力、途中剣が何本もあるように見えたのですが…あの剣術、誰かに教わったんですか?」
「一様そうだな」
10年間の修行で会得した名なき剣術である。これは昔師匠から伝授された魔力を使わずに素早さを重視した技を参考に華晶なりにアレンジしたものだ。
身体能力が著しく低下した今の状態で使えるかどうか不安であったが、この剣術ぐらいの早さなら特に問題ないようだ。
流石に師匠から伝授された技はそう甘くなく、一瞬使おうとしたが腕と手首に強烈な痛みが走り、この剣術に切り替えた。容姿だけが変化しているならば問題なかったのだが、能力が制限されているということは竜人族並の身体能力も制限されているということだ。
だから竜人族であることが前提の技は今の状態では負担が大きいということである。
「それより私は、リズフィーが魔法を使えたことにびっくり!いつから習ってたの?」
リズフィーは風属性と地属性の魔法を使うことができる。だが、魔物との戦闘に応用したことは1度もなかった。
「7歳の頃からです。一様剣術も習っていました。でも…本格的に戦ったのはこれが初めてだったので……すみません。足を引っ張ってしまって」
「うんん。初回にしては凄いと思うよ!流石国家騎士団長の娘だね」
「ありがとうございます。メアちゃん。でも褒められると調子に乗ってしまうのでもっと厳しく言ってください。私も強くなりたいです。自分にできることはやりたいから…」
「キュキュー」
リズフィーの言葉を聞いて微笑ましく思うメアとディー。華晶も何かを感じているようだ。
(その意気込みと決意は嫌いじゃねーが……いつまで続くかな。だが、そこらの貴族よりもよっぽど強い。育ちの問題か?)
などと華晶は考える。リズフィーの人格を見極めていると言ったところだろうか。なんだかんだで他の人よりも信用していた。短時間ではあったが、リズフィーの大まかな性格も分かった。
「俺は少し抜ける。夕食はいらねーからそう言っといてくれ」
「え、いいの?って、どこ行くつもりなの?華晶」
何かと気にかけてくるディー。いつも通り、ディーと目でアイコンタクトを取って集団から離れる。
(息抜きかな。まあ、華晶には慣れないよね。目覚めたばっかりだし。最近ずっと僕達と一緒にいたし、1人の時間も大切か)
「華晶どうしたの?」
「ちょっと1人になりたいんだって。こういう集団に慣れてないから息抜きだよ」
本人が言った訳ではない。何となくいつもの態度と性格からしてそういうことだろうと思ったのだ。
「大丈夫なんですか?もう夜ですし、1人だと危険なんじゃ……」
「大丈夫ですよ、リズフィーさんも知っての通り華晶は結構腕が立ちますから。剣も護身用に持って行ったみたいですし。………僕達は夕食の手伝いをしましょう。華晶は華晶で木の実でも取って食べるでしょうから心配はいりません」
「そ、そうですか?」
…………………
集団からかなり離れたところまで来た。今はなるべく誰にも会いたくなかったからだ。
(はぁー。思ったよりも疲れるな、あの集団行動。
体っつーより精神的なストレスだな、これは)
ため息ばかりついて、疲れをあらわにする華晶。それを癒すかのように月光が目に当たる。そんな月をじっと見つめた。気が遠のいていくほど気分が楽になるのを感じる。
(金色の瞳に、龍鱗、尾、角か、今の俺には何一つ当てはまらないな。あと5日。明日であと4日か。あの時は長いと思ってたが、思ったより早いな。……4日以内で終わらせる……)
「華晶様!」
「?その色と声、昼間の精霊か?どうした」
何やら慌てている様子。表情は分からないが、声の焦り具合からして何かあったのだろう。
「それがっ……!この先に魔物と戦って負傷している人族がおりました!服装は先日見かけた華晶様の言う、人族の騎士団の兵に間違いありません!」
「?!本当か?」
「はい!」
華晶はリズフィー達にこのことを伝えた方がいいのかどうか考えたが、急を要するようだったので急いで騎士団のところへ向かうことにした。
精霊に案内してもらいながら、そこに向かって走る。
(負傷してるってことは治療が必要だな。仕方ない。精霊師を装うか。まだ魔物が近くにいるかもしれない。用心しといた方が良さそうだな)
精霊師とは、精霊と契約した者のことを言う。精霊と契約するには、精霊に認められなければならない上に、目にすることも滅多にないので、精霊師は数が少ない。契約している精霊の位が高いほど精霊師の階級も高くなる。
「なぁ、お前、回復はできるよな?」
「はい。そのことに関しては問題ありません。下位ではありますが、私は大地の精霊。回復は得意分野にございます」
「ならいい。助かる」
その後は2人とも無言で、ただ急いでその場へ向かった。