モキュー登場
「華晶さん、メアちゃん、ディー君、水です」
リズフィーはそう言って3人に今朝買った水を渡した。他の人もどうやら水は持参してきたようだ。
「どうも」「ありがと!」
「ありがとうございます」
「いえ。買っておいて良かったです。………フローラの森、こうやって座ってよく見てみると、歩いていた時には気づけなかったことに気づけるんですね。………私ちょっと辺りを見て来ます」
リズフィーは立ち上がって、ちょっとした好奇心からそう言った。元々好奇心旺盛な性格なので、初めてのものを目にして興味津々なのだ。
それを聞いたメアが心配そうに言う。
「大丈夫なの?私もついて行ってもいい?もし魔物と出くわしたらリズフィー1人じゃ心配だから!」
「ありがとうございます。でも私は大丈夫ですよ」
・・・・・・・
(色んな生き物がいるんだなー。いつも見る図鑑には載ってなかった生き物がこんなに。………そういえば、華晶さんは来たことがあるって言ってたっけ。実際に見るってこんなにもわくわくするんだね)
リズフィーがそんなことを思っていると、突然茂みから何かが飛び出してきた。
「わああぁぁー!な、何?!」
「?!キュウ!」
そこには兎の耳をした、リズフィーが知る限り見たことのない丸い生物がいた。真紅の瞳を持ち、白銀と純黒のモフモフとした毛で覆われている。
「か、可愛い〜!何この生き物〜!」
目をキラキラさせながらも抱きかかえたい衝動を抑え、その生物を見つめる。
するとメアが口を挟んできた。
「レッドアイラビットだー!」
「レッドアイラビットってあの?でも、見た目と色が全然違うように見えますけど……」
一般的なレッドアイラビットは白か黒の一色だ。瞳の色は真紅というより赤紫の色をしている。大きさもひと回り小さい。
「うん。変異種かな。でも、珍しくはあるけど、私たちの住んでいた妖精の森には沢山いたよ。こんなところで見るのは珍しいけどね!」
「そうなんですか?!可愛いー!」
「キュキュウ」
「懐いてるね。それこそ珍しいよ〜。臆病だから逃げると思ったのに」
嬉しくなってそのレッドアイラビットを抱きかかえる。妙に離れ難くなってしまった。
(どうしよう。連れていきたい!でも、この子野生だよね?連れて行っちゃだめ……だよね?)
そんな寂しそうにするリズフィーの様子を見てメアが言う。
「連れて行ってあげたら?その子、多分はぐれだよ。レッドアイラビットは本来群れで生活するから、それか…逃げてきたのかな?」
「逃げてきた?」
「うん。知ってると思うけど、レッドアイラビットの変異種は貴重なの。だから捕まえようとする人も多いんだよ」
毛と真紅の瞳は最高級品である。毛や瞳は加工されて高級な服やカバン、アクセサリー、家具、アクセサリー、薬などに使われる。
その肉も最高級品として貴族や王族の間で評判だ。
だが、裏で出回っている品だけに、知っている者には知られており、知らない者にはまったく知られていない品である。
因みに、フローベル王国ではこういった変異種を捕まえて売買すること、殺すようなことは違法にあたる。
「あ、ですよね。……でも、それじゃ逆に連れて行くのは危険かな………んー………」
「キュウ!」
その愛らしく、"見捨てないで"と言いたそうな目を向けられて、放っておけないリズフィーだった。
「うぅー。やっぱり連れて行きます!あなたは私が守ってあげますからね!だから心配しないでください!」
「キュウウー!」
嬉しそうな声を出す。良かったと思いながらも名前を頭の中で考える。
「あっ、あなたの名前はモキューです。モフモフでキュウって鳴くからモキュー。ちょと在り来りかな?」
「いいと思うよ、私は」
モキューに決定した。
ただひとつ心配があった。華晶がモキューを連れていくことを許すかどうかだ。同行者として華晶の意見も聞き入れなければいけない。
悲しそうに眉間にシワを寄せるリズフィーを見て、メアはどうしたのかと聞いた。
「え、ええ。モキューのこと……華晶さん、許可してもらえるでしょうか?」
「なんで華晶の許可がいるの?別に大丈夫だよー!
多分……。でも、まあ、大丈夫だよ」
かなり曖昧だ。
とりあえず華晶達のところへ戻ることにした。そろそろ休憩も終わる頃だろう。
「戻りましょう。メアちゃん」
「そうだね」
そして2人はその場を後にした。勿論モキューはリズフィーが両手で抱いている。
「どこに行ってたの?そろそろ出発するよ」
「キュウー!」
「ん?何この生き物…………んー?レッドアイラビットの変異種?なんでメアとリズフィーさんと一緒にいるのさ」
やっぱりすぐ分かるものなんだなと思うリズフィー。一人一人に説明するのも面倒だったので、華晶をメインに説明した。
………………
「なるほどねー。で?一緒に連れて行きたいと……。華晶はいいの?僕は別に問題ないと思うけど」
「好きに連れて行けばいいんじゃねーか?何故俺に許可を取る必要があるのか分からねーが……。それに、こいつも懐いてるみたいだしな」
案外すんなりと許可したことにメアは驚くが、リズフィーはありがとうございますと言って、嬉しそうにモキューをぎゅっと抱きしめる。
「そろそろ出発するぞ!」
ルージェスから出発の合図がかかった。体力も魔力も回復したようで、皆元気な状態に戻っていた。
そしてまた森の奥へと進み、歩き続ける。
名前:モキュー
性別:不明
種族:レッドアイラビット(突然変異体)