いざフローラの森へ~森で起こったこと~
あれから5分後。
「よし、皆揃ったな。では今からフローラの森へ向かう。分かっていると思うが、離れるなよ」
出発の合図がかかり、皆が正門の外へ出る。正門の外はフローベル王国の国境外。どこの国の息もかかっていない。
「やっぱりちょっと楽しみだなー。フローラの森に行くの何年ぶりだろー。ディーもそう思わない?」
「緊張感なさすぎだよメア。魔物もそうだけど、僕らが本当に気をつけるべきなのは魔人。それに華晶は今は人族と大差ないんだよ」
「あ、そっか。忘れてた」
「相変わらずだね」
メアとディーがそんな雑談をしている一方、華晶とリズフィーも雑談していた。
「あのー、華晶さんは前にフローラの森に来たことがあるんですか?」
「どうしてそう思う?」
「いえ、ただ何となく……。フローラの森はこの辺りで1番広く、不気味な森とされているので皆近づきたくないんだそうです。普通ならここにいる他の冒険家達のようにピリピリすると思うのですがやけに落ち着いてるなと思っただけです」
"そう言うリズフィーも随分と落ち着いているように見えるが"と思わずツッコミたくなる華晶。
「つまりは俺に緊張感がねーってことか?」
「いえ!そういうわけでは…」
「……ある。…随分と昔になるけどな」
少し懐かしく思い、当時のことを思い出して目を細める。
フローラの森での思い出と言えば、皆で修行したことや木に登ったこと、草花を観察したこと、精霊達と遊んだことなどだ。そんな記憶が華晶の脳内を横切る。
「そうなんですね。私は行ったことがないのですけど、お父様から何度か話を聞いたことがあります」
(お父様、お母様、待っていてください。今助けに行きますから)
不安を胸に抱えながらも自分に言い聞かせるように心の中でそう呟く。
「ふーん」
(……メアと似ていて何考えてるのか分かりやすいな。…………………そう言えばあの竜人族をテーマにした本の著者に話を聞く予定だったが…………これじゃ行けそうにねーな。どうすっかな。)
「ここからがフローラの森、別名迷いの森の領域内だ。気を引き締めて行くぞ!」
ルージェスはそう言うが、華晶やメア、ディーは相変わらずいつも通りだった。しばらく進んで行くと皆気が緩み始めたのか、雑談が多くなってきた。
そしてさらに進むと列の前方でB+の魔物が数体現れた。
ルージェスが1人で指揮をとっている。
現れたのは人食い植人と狼牙族。
植人は多様な植物をそのまま人型にしたような見た目で、非常に不気味である。薬草や魔術で名高いマンドラゴラも植人の一種である。
狼牙族は2本の長い牙を持ち、狼のような見た目の一角獣である。
異変に気づいた華晶達は前方へ移動した。そしてそれを見るなり華晶は眉を顰め、メアとディーは驚いた。
(?人食い植人と狼牙族か?………ん?人食い植人?おかしい。何故こんな所に人食い植人がいるんだ?普通の植人ならともかく、人食い植人はこの森では生きられない環境のはず。この森は滅多に人族は出入りしねーし、そもそも人食い植人は酸を放出することがある。それが原因で他の植物や生き物に害が及ぶ可能性があるから、女神フローラが対処しているはずだが何故?)
「華晶、メア、気づいているよね?」
「うん」「ああ」
「女神フローラ様に何かあったのかな…?」
「今回の魔人出現の何かと関係あるのかもしれない。前から思ってたけど、あのフローラ様が魔人の侵入を許す訳がない」
3人が思うことは同じだった。
華晶はひとまずこの状況をどうにかしようと小声で精霊に呼びかける。
「我の意に応えよ。意は精霊と共にあり」
精霊玉が淡い緑色の光を放つ。その光は少しばかり弱い。光の強さはその精霊の強さに比例し、色は属性を表す。
属性は大きく分けて、赤なら火、青なら水、黄なら電気、緑なら大地、紫なら風、白なら光、黒なら闇と、この7つだ。
(4000年以上経っても…竜人族が表から姿を消しても精霊玉が持つ力はそのままか。流石だな。光が弱い……下位か中位ほどか?)
精霊玉の力。それは精霊の力を契約なしで借りることが出来るという力。元より竜族と精霊は友好的なので、契約をする必要がなく、自身が持つ精霊魔法で精霊に関与し、力を借りることが出来る。その為、今まで使われたことがなかった。今回華晶が使うのが初めてだ。
話す分には必要ないが、力を借りるとなると今、精霊魔法が使えない華晶にとっては必要なものなのだ。
小さく光りながら飛んでいるものが1点。下位精霊なのではっきりとした見た目はない。
「お呼びですか?華晶様」
脳内に響く澄んだ少女の声。
「よく俺だって分かったな」
「気配は同じものですから。華晶様が竜人族であると知っている者ならば誰だって分かります」
「そういうもんか。聞きたいことは山ほどあるが、ひとまずあれを頼む」
華晶はそう言いながら目をB+の魔物に向ける。
精霊は「分かりました」と言って、木の根を操り、魔物を木の根で巻き付け動きを止める。
「な、どうやっているんだ!き、急に!」
「なんだ!」
「根が動いているだと?!どうなってる?!」
敵か味方かも分からない技に混乱し始めたが、今だ!とチャンスを逃さない者もいた。
誰も精霊の仕業だとは気づいていない。状況が理解出来たのは強いて言うとディーとメアぐらいだ。
10分後、全ての魔物を倒し終えた。幸いなことにけが人は全員軽傷で済んだ。
「ありがとな。わざわざ」
「いえ、これが互いの約束ですから。…………華晶様、ひとつ御忠告申し上げます」
「ん?」
(忠告?)
「既にご存知だと思いますが、このフローラ様の森に先日魔人が沢山の邪悪な魔物と魔獣を連れて侵入してきました。何とか追い返すことは出来ましたが、フローラ様はかなり消耗しており、今は精霊の泉の方で回復の為に眠られております。しかしこの数、この森の何処かで生まれているようなのです。魔人もまたいつ来るか分かりません。目的もまだ分かっていないので……華晶様、どうかお気をつけて」
精霊は心配そうに言う。声は少し震えているような気がした。
「分かった。俺も出来る限り協力する。精霊にばかり力を借りっぱなしだからな。………最後にひとつ、丁度魔人が侵入して来た日、人族の騎士団を見なかったか?」
「人族の騎士団ですか?………そういえば鎧を着た集団がおりました。ここからもう少し奥の方です。ですが、私が見かけたのは昼頃、魔人が侵入して来たのは夜ですから……
魔人が侵入して来た時、何処にいたのかまでは…」
「それだけ聞けば十分だ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ我らとの約束の証である精霊玉を今でも守ってくださりありがとうございます華晶様。では私はこれで……」
精霊はどこかへ消えて帰って行った。
華晶はなんとなくこの森で起こっていることを理解し、一度整理した。
「華晶ー!今さっきの精霊?」
メアとディーが勢いよくこちらへ飛んでくる。
「ああ。精霊玉で力を借りた。あとついでに分かったことがある」
「分かったこと?精霊に聞いたの?」
華晶はメアとディーに先程精霊と話したことを全て伝えた。
「へー、じゃあ華晶もそれに協力するんだ」
「ああ。あ、あと騎士団のこと、リズフィーには黙っていろよ。どうして分かったのか、後で説明と言い訳が面倒だからな」
「「分かった」」
メアとディーは深く頷く。少し可哀想な気もするが、致し方なし。
「華晶さん、ディーさん、メアちゃん!やっと見つけました。魔物はもう倒したんですか?なんか…何も出来なかったです……」
自分が不甲斐ないと思いながら肩を落とすリズフィー。そこにメアが優しくフォローを入れる。
「まあまあ、助けよう、手伝おうとする気持ちが大切だと思うよ」
「ありがとうございます…。メアちゃん」
フォローされていることに気づくリズフィー。余計に自分が情けなく感じられるが、メアの優しさに感謝をする。
「仕方ない、この辺で一時休憩する!けが人はこちらで治療をする。魔道士救護班はこっちへ来てくれ!」
ルージェスが全体に聞こえるよう大声で言う。フローラの森に入ってから2時間30分のところで休憩することになった。
竜人族、龍族、ドラゴン族をまとめて"竜族"と表します。ややこしくてすみません。