夕食と夜と……フローラの森
「……それより夕食ができましたよ。メアちゃんとディー君はもう先に行って待っています」
「その為に呼びに来たんです」と言ってドアまで歩いて行きドアノブに手をかける。華晶も椅子から立ち上がり、本を片付けてリズフィーと共に本部屋を出た。勿論精霊玉は忘れていない。
本部屋を出ると、隣が食卓部屋だった。運ばれてくる料理はかなり豪勢で、それらは食卓に並べられた。部屋全体が少し食べづらい雰囲気をまとっているように感じた華晶。華晶は昔、ラストラ王国で貴族並の食事マナーを含め、礼儀作法なども学んだ。これはラストラ王国との会談のときだ。なので戦争が始まるほんの少しだけ前ということになる。華晶は竜人族の長の護衛役としてついて行っていた。長と言っても、こういうときの為の代表者というだけだ。だから本当の意味での長ではない。
「あ、華晶ー!すごいよ見てこの料理!すっごく美味しそう!リズフィーまだ食べちゃだめ?」
目をキラつかせているメア。この家に来てやたらとテンションがいつもより高い。そんなに高くて疲れないのだろうか。
「本当は良くないんですけれど、どうしてもお腹が空いているんでしたらどうぞ。華晶さんも座ってください」
リズフィーは使用人の目が気になるだろうと思い、下がらせた。
華晶は、量多すぎないかと思いながらも席についた。
華晶が席につくと、先に食べてたメアを除いた3人も食べ始めた。そこでリズフィーが華晶を見て気がついた。華晶が食べていたのはビーフ。
「すごく綺麗な食べ方をしますね。どこかで習ったんですか?王族貴族の正式な食事マナーって、覚えることが多すぎて大変なんです。旅の方でしたよね?」
何故旅の人が王族貴族の食事マナーなんて知っているのかと聞いてきた。
華晶のこの食べ方は、こういう食卓でのときの癖である。もともと暗記は得意な方だったのでマナーはすぐに覚えられたのだが、焦れったくて当初はかなりこの食べ方にイライラしていた。だが、何度も繰り返しているうちに自然と慣れたのだ。4000年経っても体が覚えていた。
華晶は適当に理由をつけて言った。
「旅をしているからだ。旅をしているから何があるか分からねーだろ。だから覚えられることは覚える。それだけだ」
「そういうものなんですね〜。……ん?その手元にあるのはなんですか?」
リズフィーは華晶の手元のテーブルの上にあるものに目がいき、一旦食べることをやめて聞いた。精霊玉は巾着袋の中に入っているので分からない。
華晶は「これか?」と言って、巾着袋の上に手を置きながら答えた。
「宝物だ。絶対に無くすわけにはいかねーもの。俺だけのものじゃねーしな」
(流石に人族に精霊玉のことを教えるのはまずいな。黙っておこう。…疲れるな、この生活。竜人族にはやっぱり向いてねー。まぁ、今はただの人族と変わりねーんだが……)
あれから大体30分くらいが経ち、食卓に並んだ料理は全て完食した。この内の2分の1(はんぶん)はメアの腹の中だ。小さい体でかなり大食いなのだ。満腹そうな顔をしているが、食べたものは一体腹のどこへいったのか少し気になる。それだけ食べても太らないのだから本当に不思議である。因みにディーの方は、小さい体にしては良く食べた方だが、それでも人族の子供1人分の量。妖精族が一食に食べる平均の量だ。どう考えてもメアの食べる量は異常だと思った華晶。
「メア、食べた後だからもう遅いが、そんなに食べて後で気持ち悪くなるぞ」
「大丈夫だよ。逆にこれだけ食べないと私の場合は力が出ないの!」
「あ、そう」
席を立ち食事部屋を出ると、リズフィーが下がらせた使用人達が待機していた。使用人達は「後の片付けはお任せ下さい」と言い、食卓を片付け始めた。
「シャワールームは2階廊下左右両側の一番奥にあります。左が男性用で、右が女性用です。本部屋と同じように好きに使って構いませんよ?」
シャワールームの男性用と女性用を間違っては困るので、そこを強く強調して言ったリズフィー。
"そんなに強く強調して言わなくても分かるわ!"と思いながらも、強調した理由を理解している華晶。
~何時間後~
何やかんやで全員寝る準備が整った。もう夜で、時刻は22時。大きな月と沢山の星が窓の外に見えた。
華晶は"ベッドじゃ落ち着かない"ということで、ソファーで寝ることにした。広いベットにはディーとメアが寝ることになった。
「本当にベッドで寝なくていいの?せめて布団をかけておかないと人族の体だと風邪ひくよ?」
いつでも変わらないお母さんっぷり。
ディーは掛け布団を引きずりながら華晶の元へ持っていく。
「そうだな。ありがと。んじゃあ、電気消すぞ」
「おやすみー華晶、ディー」
「ああ」「うん」
寝る前の挨拶を交わして電気を消した。
3人はそのまま眠りについた。
~フローラの森~
フローラとは春,花,豊穣を司る女神の名をいう。フローラの森は、そのフローラが住んでいる森ということでその名がついた。だが、密かに別名も存在している。迷いの森、と。
フローベル王国の騎士団は今、そこにいた。
フローラの森にB+の強い魔物が数十体出たと世間が騒いでいたので、国王は騎士団に討伐するよう命じたのだ。行ったのは、リズフィーの親である騎士団長と副団長。そして兵50名程だ。
そしてある敵は突然やってくる。
「うわあ!!な、何が起こってるんだ?今目の前にいる魔物は数十体のB+レベルじゃないぞ!いるのは魔物だけじゃない!じゃぁ、あれは一体、なんだ…?」
地面には血を流して死んだ兵がころがっており、重症をおった者、戦っている者がいた。
「弱い人間が生きようと足掻く姿は滑稽ですね。どうしました?我々を討伐しにきたのでしょう?もう終わりですか?」
楽しそうに上から眺めているなにか。見た目は黒い服を来た男。
一兵の男はその姿を見てすぐに分かった。
「そんな……魔人、なのか…?だ、だって…情報にはB+の魔物だと…」
顔を青くし、ガタガタ震えながら一兵の男が言った。すると魔人はフッと笑って、まるで哀れだとでも言いたそうな顔をした。
「ええ。その情報は間違っていませんよ?現に周りにいるのは、あなた方が言うB+の魔物です。私が今回来たのはただの暇潰しです。騎士団はとても強いと聞いていたのですが…この程度なら拍子抜けですね。興が冷めました。さようなら」
魔人はそう言って炎を操り、一兵の男を焼き殺した。
一方他は、B+の魔物の数が予想以上に多くてかなり苦戦していた。
倒しても倒しても一向に数が減らない。おまけに魔人も出てきて、このままでは全滅してしまうと思った騎士団長フォルムス(リズフィーの父)は、兵全員にこう命令を出した。
「撤退する!生きている者は生きることを第一にして考え、行動しろ!私が引き付けている間に早く行け!誰でもいい!必ずこのことを陛下にお伝えしろ!」
兵達はその言葉にかなりの戸惑いを見せたが、フォルムスの最後の"行け!"という言葉で気持ちを押し殺して、一斉に走り出した。魔人が邪魔をしようとしていたが、フォルムスはそれを阻止することに成功した。しかし……
1人だけフォルムスと残った者がいた。
アティー、リズフィーの母だ。夫を1人残すわけにはいかないというのが理由だ。正直、この数の魔物と魔人が相手では、無事では済まないと死を覚悟した。心残りをしない為にも、勝つことではなく、生きることを第一に考えた。
兵達の方は、幸い一日目だったので森を迷わずに出ることができた。
名前:フォルムス・フローリア※リズフィーの父
性別:男
種族:人族
騎士団長
名前:アティー・フローリア※リズフィーの母
性別:女
種族:人族
副団長
名前:フローラ
性別:女
種族:春、草花、豊穣の女神
華晶の副作用あと5日