ある作者の体験談
「ここが本部屋か?そこそこ広いな。流石貴族と言ったところか」
華晶は本部屋に入り、リズフィーが言っていた滅びの戦争についての本を探し始めた。
入って右側から3棚目までは全て小説。その横には勉学の教科書や参考書などが並んでいた。古代知識や魔法書、そして目当ての滅びの戦争は一番端の棚にあった。
「あった…これか。"滅びを招いた戦争"……。滅び、ね〜。この言葉は必ず入ってんのな。俺達にとってはある意味言葉通りか」
滅びを招いた戦争と書かれた本を手に取った……が、その横にあったもう1冊の本に目を惹かれた。"竜達は全滅していない"という本だ。単純大雑把な題名だが、世の中で全滅と噂されているのに何故この著者はそう思ったのか、気になった華晶は先にこの本から読むことにした。
[皆は噂というものをどれだけ信じているかな。これは私がほんのまだ8歳ぐらいの頃に体験した、不思議な出来事についての話だ。私はその頃、周りが山に囲まれた何もないところに住んでいた。乗り物がなければどこにも行けないというほどだったよ。学校もかなり遠かったが、両親がいつも学校の門まで荷物運び用馬車で送ってくれた。ある日私は学校でこんな話を耳にした。竜人の話だ。それを聞いた瞬間私は竜人に憧れを持った。理由は単純だ。強いと聞いてかっこいいと思ったからだ。このときの私はとても単純で、思いつきで行動をしていた。だが、友人から竜人は全滅したと言われたとき、それを認めたくなかった私は家に帰った後、竜人は全滅していなかったと証明するために、1人で山の中に入って行った。今思えば本当に何も考えずに行動をしていたのだなと思わされる。そして、竜人の姿形も知らないのにどうやって証明するつもりだったのだろうと思う。1人で山に入った私は、道のないところをぐんぐんと登って行き、地面が平地になったところに辿り着いた。日が沈み、辺り一面暗くなったところで私は足を止めたが、帰り道が分からなくなってしまった。途方にくれていると、人型をしたなにかに出会った。それは我々と同じ姿をしていたが、二本の角が生え、少し長い尾があり、手足には微かに龍鱗があり、金色の瞳をしていた。その瞳は月明かりで光ってるようにも見えとても美しかったが、当時8歳だった私は、明らかに人族ではないそれが恐ろしくてたまらなかった。竜人を探しに来たのだから普通は怯えるべきではなかったのだが、不安でそんなことは忘れていたのだと思う。私はそのまま気絶してしまったのか、目が覚めたらベットの上にいた。夢かとも思ったが、翌日両親に聞いてみると、帰ってきたら庭で寝ていたという。この出来事は今でも覚えている。その後、特徴からなんの種族なのかを調べてみたが、あの時見た種族の正体は分からなかった。あれが夢だったのか現実だったのかは分からないが、私はあの日竜人に会うことができたのかもしれない。少なくとも会えたということを信じたい。そしてもし現実だとしたら、あれは私を家の庭まで運んでくれたことになる。そう考えると悪い者ではない。…‥噂には簡単に耳を傾けず、どうか限界まで考えてほしい。それが真実なのかということを。そうすればいつかきっと自分の為になる。そして我々は一生が終わるまで考えることをやめてはいけない。それが人族なのだから。]
そんなことが書かれた内容だった。
華晶はその人型のなにかが竜人族だとすぐに確信した。本に書かれた二本の角、長い尾、手足に龍鱗、金色の瞳というのは全て竜人族の特徴だからだ。そう。この人は竜人族に会ったことがある。
気になるところが沢山あった。そこで一番最初に華晶が知りたかったのは、この本の舞台となったのは何年前か、場所、そして著者の生存である。著者本人に直接話を聞きたいと思ったのだ。
(竜人族であることに間違いねーな。だが、この話に出てくる山の場所はどこだ?著者本人からもっと詳しく話を聞く必要がありそうだ。問題はその著者の生存と場所なんだよなー。………あいつなら知ってるかな)
あいつというのはリズフィーのことだ。なにかと色々詳しいリズフィーなら知っているかと思ったのだ。少なくとも今の年代ぐらいは確認できる。どうしたらいいか考えていると……トントンとノックの音が本部屋に響いた。
「やはりここにいましたね。夕食の用意ができましたよ。…………どうされたんですか?」
なんにも返事を返さないので疑問気に聞いた。
華晶は必死にさっきのことを考えていた。
リズフィーが華晶のもとへ行き、もう一度近くで話しかけると一瞬ビクッと肩を跳ねらせてリズフィーに気がついた。
華晶は一度集中状態に入ると、他が視野に入らなくなるところがあるのだ。図書館でもそうだった。
「?!あ、ああ。…ん?丁度いい。この本の著者って今も健在か?」
「はい。生きてますよ。今はもう63ですが、小説家として沢山の小説を書いています。その本は最近書かれたものですね。ファンなので自分でもそこそこ詳しく知っているつもりです。それがどうかされたんですか?」
どうやら様子からするに、そこそこではなくかなりこの著者について詳しく知っているようだ。
(やっぱり知ってたな。……生きているならとりあえず話は聞けるか。次は場所だが……これは流石に知らねーか…?)
「この著者、今どこに住んでいるか分かるか?」
「ジョン先生が今住んでいるところ…それは流石に分かりませんが、丁度明日明後日近場でサイン会があるんです。私は絶対に行こうと思っているのですが……一緒に来ますか?」
丁度いい華晶は行くことにした。ジョンというのはこの本の著者の名前だ。
自分の好きなことに関しては徹底的なリズフィーに呆れつつも、認めつつある華晶であった。
竜人=竜人族