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出会いで変わり始めた少年

遅くなりすみません。

華晶達はギルドを出て図書館へ向かっていた。その途中、メアが聞いてきた。


「華晶、図書館は何処なの?私何も聞かされてないけど…?」


ディーと華晶は知っているようだったので、なんだか自分だけ除け者にされている感じがして嫌だった。


ディーは呆れ顔になって「相変わらずだなぁ」と言って、続けてメアに言った。


「メアが正門の広場で興奮して飛び回ってた時に、華晶と地図で確認したんだよ。その後にちゃんとメアにも言ったのに聞いてなかったの?」


「………あっ」


思い出したようである。そう、確かにディーはメアにも図書館の場所を、1人で迷ってもそこで合流できるようにと伝えていた。だがその時あまりに興奮していた為、聞き逃してしまったのである。


メアの"あっ"という声を聞いて、"やっぱりそうなんだ"と思ったディーであった。


「ごめん!もう聞き逃したりしないから……ね?だから場所教えて〜お願いだから〜。仲間外れはやだよ〜」


やっぱり半泣きになりながら、両手を合わせて必死に祈るかのように言ってきた。


仲間外れ………そんなつもりはない。これだけで仲間外れと言えるのだろうか。"面白いなぁ"とディーだけでなく、会話を聞いていた華晶も思った。


「その必要はねーよ。もう着いたし…。ここだろ?ディー」


華晶が立ち止まった所、そこはかなり大きな建物で、入り口に"国立中央図書館"と書いてあった。外見だけでもとても綺麗で、最近できたかのように新しかった。まるで何処ぞの教会のようだ。どうやら魔法で質が保たれているよう。


「あ、そうみたいだね。にしてもさすがこの国1番の図書館。これだけ大きいと圧倒されるなぁ」


「本当だ…お、大きい…」


ディーとメアは妖精族なので、華晶が見ている大きさよりも何十倍も大きく見えている。

華晶から見ても驚くほど、その大きさに圧倒された。ずっと見上げていると建物が揺れているように見えて酔いそうな程に。


(ほんと人族は自分達より大きなものをつくりたがるな。………此処に…過去あった出来事が書き記された本がある…)


そう思うと段々柄にもなく緊張してきた華晶。こういった緊張なんていうものは初めてで、不思議な感覚だった。


「外見の観察と感想はここまでにしてそろそろ中に入ろ?僕も調べたいことができたし」


ディーがそう言うと3人は図書館の中へ入って行った。

出入りは自由だ。

中もなかなかのもので、本が一面ずらりと並んでいた。1階2階3階……と10階まで続いているらしく、1階の本だけでも1000万冊は軽く越しているぐらいのとんでもない量だ。明らかに外見よりも遥かに広く、天井も高い。空間魔法の一種だろう。


中の広さを見て華晶は、1番迷子になりそうなメアに釘を打った。


「あ……、メア、絶対に離れるなよ?ディーならともかく、お前が迷子になったら合流するのに1日以上は絶対にかかる気がするから。いいな?」


「酷いよ!まぁ、確かに私自身もそう思うけど…。な、なるべく気を付けます…」


どこか自信なさげな様子だったが、調子には乗っていなさそうだったので少し安心した華晶。メアが調子に乗った時ほど怖いものはない。


「とりあえず、歴史関連のところを探すぞ!かなりの数はあるが……」


歴史については2階からだ。

続けて何かを言おうとした華晶だが、メアが横から疑問げに提案してきた。


「華晶が1番気になるのって…あの戦争後どうなったかでしょ?本の場所、図書館司書さんに聞いた方が早いんじゃ……。聞きに行くのが嫌だったら私が聞きに行こうか?迷子のことを心配しているんだったらディーについて来てもらうし!」


「…まぁ、できるならそっちの方が手間も省けるしいいかもしれない……。んじゃ、悪いが頼めるか?」


「分かった」と言ってディーと共に聞きに行ったメア。


華晶はメアとディーが戻って来るまで情報収集の為本を読むことにした。気になる本はないかと辺りを見てみると、一冊の本が目に映った。題名は"伝説・古代に存在していた種族集結!"。題名は子供っぽいが、中身は字が多めのものだった。まさかと思って目次を見てみると、予想通り竜人族も載っていた。その上下にはドラゴン族と龍族。少し歯痒い気持ちがあり、立って読むのもなんなので席に座って机に本を置いて読んだ。


その本には様々な事が書かれていた。だが、どれも知っていること。逆に本に書いてあった内容が部分的に間違っていた…。特に気になったのは絵だ。竜人族の絵がリザードマンにとてもよく似ている。更にはリザードマンの祖とも書かれていた。勿論そんなことはない。リザードマンは確かに新世代の龍族ではあるが、見た目、能力は竜人族とは歴然の差がある。

進化したとしても、4000年でここまで大きく変わることはない。ツッコミどころ満載で何も言えなくなった華晶だった。

だが、その口元には微かな笑みを浮かべていた。


そんな中華晶に声をかける者がいた。


「あ、その本私も読んだことがあります!私、そういう本が大好きなんです!よく読まれるのですか?」


人族の16歲くらいの少女だった。突然後ろから話しかけられたのでビクッと肩を跳ねらせる華晶。まさか1人でいる時に話しかけられるとは思っていなかったので戸惑った。


「ご、ごめんなさい。脅かすつもりはなかったんですけど…。ただ、そういう本を読む人が少なくて……。私、リズフィー・フローリアと申します」


リズフィーが自己紹介をした後、状況を理解した華晶は口を開いた。


「よくは読まねーよ。今回が初めてだ。そもそも今日この国に来た」


自分でも驚いた。こんなに自然に話せるものなのかと。此処に来て話したと言えば、レトラーとギルドの受付の人だけだった。受付の人はともかく、レトラーに対してはもっとピリピリと殺気立っていたことを自覚しているので余計に驚いた。


「そうなんですか。!そのページ……竜人族についてですか?凄いですよね。種族ベスト3の強さなんですから。伝説の種族と書かれた本もあれば古代の種族と書かれた本もあるんです。今じゃもう伝説とさえ言われたあの、史上世界最大の戦争"滅びの戦争"で全滅したんじゃないかって言われています」


リズフィーの話を聞いて華晶は思った。


(滅びの戦争…。間違いなく4000年前のあの戦争のことだ。だが気になるのはその戦争で全滅?それはねーな。確かに4000年以上も経ってるからどこかで記録が混乱していてもおかしくはねーが…。戦争で全滅はしてねーよ!負けた後処刑されたやつもいる!それに処刑を免れたやつは行方をくらませている。精霊は素直な種族だ。決して嘘はつかない。………"あの戦争で全滅した"の一言で片付けるな!)


と怒りが段々湧き上がってきてその場で怒鳴りたくなったが、それを抑えて何とか落ち着いた。


「その戦争の記録、今でも残ってるのか?この図書館にその事が書かれた本はあるのか?」


確認ついでにこの図書館に滅びの戦争関連の本はないかと聞いた。


「んー、一様2階の奥から2番目の棚にあると思いますよ?でもあまり詳しくは載っていません。このフローベル王国は戦争時までとても小さな国で。歴史はとても長いのですが記録はあまり残っていないのです。文明だけが残っていて……。だからこそその文明を大切にしてるんです。戦争のことを知りたいのでしたらこの国よりラストラ王国の方が詳しいと思いますよ?この国とは商業同盟関係にあって、文献によれば戦争に参加していた国の一国ですから」


ラストラ王国…華晶はその国の名に聞き覚えがあった。戦争を引き起こした元凶の国。そう、竜人族を裏切った国だ。いつかは行こうと思っていた。


(結局行かなきゃいけねーんだな。それより…この国、ラストラ王国と同盟結んでたのか。たまたま来た国が俺が1番敵対してる国と同盟ってどんな確率だよ…)


「時間があったら行く…」


(なんか…人族と話すのに慣れたな。話してみても割と平常心でいられる。これで良かったのか悪かったのか……。同族を殺した種族……憎しみ、恨んでいることに変わりねーが、エルフとは違って寿命は短い。今を生きるこいつらはあの戦争とも関係ない。そう考えると復讐をしても意味がない……いや、やめよう。第一俺は瀧愁たちを探すために森を出たんだ。復讐しに来た訳じゃない。探すことが何よりも優先事項だ)


「ラストラ王国は世界4大国ではありませんが、大きな国なんですよ。私はあまり好きではないですけど…」


楽しげに話すものだからてっきり好きと言うかと思ったが、その正反対のことを言ってきた。


「?何故だ?」


不意にそんな言葉が喉を通った。何を思ってこう聞いたのかは自分でも分からなかった。


「!あ、はい。…ラストラ王国はフローベル王国とは違い奴隷制度があるので……その雰囲気というか、環境が苦手なんです。物や食べ物は好きなんですけど。え、えーと…あ、貴方はラストラ王国のことをどう思いますか?」


奴隷制度。子供から大人、獣人を奴隷とする。無理やり働かされ、ミスをすると殴られ蹴られる。その光景が広がっているのが嫌なのだ。それはそうだ。普通は嫌悪するに決まっている。

だが、そのおかげで栄えているとも言える。


リズフィーは華晶の名前を知らないので、なんて呼べばいいのか戸惑った。貴方という言葉を使い、華晶にどう思うかと聞いた。


「華晶でいい。ラストラ王国をどう思うか、か。即答で嫌いだ。国が違うだけでこうも考え方が違うんだな。いや、王の考え方が違う、か…」


リズフィーの戸惑いの原因を悟り、名前を名乗った。そしてラストラ王国とフローベル王国を比べた。

親から子へ。王から次期後継者へと受け継がれる考え。誰かが考え方を変えなければそれは延長線上にある。

華晶から見ればフローベル王国は延長線から外れた国、ラストラ王国は延長線上にある国だった。


「なんで嫌いなんですか?やっぱり奴隷制度があるからですか?」


と同じく理由の答えを求めるリズフィー。


「…………昔…大切な仲間がそこで殺された。騙されて、全部押し付けられて悪者にされた…」


華晶は不意に友の言葉を思い出した。水槞の言葉だ。

"感情のまま行動するのは強者にあらず。真の強者は決して半端な感情に流されないって言葉知ってるか?華晶。常に平常心を装うことは不可能だけど、強者はどんなことがあっても常に前を向いて生きることを誓うんだ。かっこいいよな。華晶も感情に流されっぱなしじゃ示しがつかないだろ?一様俺らのリーダーなんだからよ!"。


「!?ごめんなさい。嫌なことを思い出させてしまって。ラストラ王国に行ったことがあったんですね。……憎んだりはしなかったのですか?」


「別にいい。憎む…か。さっきまではそうだったな。いや、憎んではいる。ただ、今さっき友から言われたことを思い出した。強者は半端な感情に流されないってな。憎しみ、恨みは消えない。けどそれ以前に口先だけの半端な感情で行動はしねーよ」


(……だよな水槞。だが、ラストラ王国と戦争に直接参加していたやつはどうしても許せる気がしねーよ。エルフの中には戦争に参加していて、今でも生きてるやつは絶対にいる。エルフだけじゃねー。他にも敵で長命の種族は沢山いる。そいつらは何としてでも!いつかは!このまま竜人族の存在を消させたりはしねーよ)


勿論優先は瀧愁たちを探すこと。それは何一つ変わらない。その先はひとまず考えないようにした。


「いい友達ですね。私もそう思います。感情って厄介なもので…本当に抑えきれない時は体が勝手に動いてしまうものなんですよ」


優しく笑みを浮かべてリズフィーがそう言った。

感情の思うがままに行動することは時には有利に働くこともある。力の源となっているだけに、不安定なら不利に、安定していれば有利に物事を導く場合がある。


「想いの強さによっては通常以上に力が発揮できるんです。言葉も同じで、その言葉に込められた想いが強ければ強いほど力を持つんです。相手の記憶に残りやすくなるものなんですよ。華晶さんがその言葉を覚えているということは、それだけその友人の方は強い想いを込めて華晶さんにその言葉を送ったんでしょうね」


華晶は驚いた。こんな考え方をする人族もいるのかと。少なくとも昔自分が会った中にはいなかった。主観的にしか物事を見れない者が多く、客観的に物事を見れる者はかなり少なかった。だから戦争や反乱が多かったのだ。

だからそれを聞いて少し嬉しかった。時が経ち、こんな考え方もできる人族が増えたのだと。多くの仲間が犠牲になり、時が経っても昔と全く変わらない考え方をしていれば華晶の憎悪は頂点に達していただろう。

今のどころリズフィーの考え方に限るが、少しは死んだ仲間も報われるだろうか。

そんなことを思った華晶であった。


《少年は少女の言葉に感謝した。そして半端な感情で動くことはしないと誓った少年は、誓う前と少しだけ変わった。それに気づくのはもっと先のこと。》

名前:リズフィー・フローリア

性別:女

種族:人族

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