第2話 スコー②~僕とジャーニー~
--------数時間前---------
「はっ、はっ、はぁッ、、、」
走る。ただ走る。
だがやみくもに走っているわけじゃない。
逃げているのだ。
「どうして・・・どうしてこんなっ・・・なんでっ・・!」
今朝は確か、そうだ。
8時くらいに起きて、いつも通り大学に行こうとしたんだ。
雪が降っていたから、もちろん授業なんてやってない。
けれどなぜか、そのまま僕は外に出てしまったんだ。
数年ぶりの大雪に浮かれていたのか?
今となってはその時の自分を叱りつけたい、いや、
殴ってでも止めたい。そんな気持ちだ。
こんな状況になっているのは、その気まぐれのせいなのだから。
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しんしんと雪の降る街に繰り出し、人が居なくなったビルの群れの中を歩いていた。
行くあてなどとうに失っていたが、たまにはこんな時間の使い方もいい。
べつに散歩は趣味じゃないけど、雪の日ともなれば話は別。
それは言うなれば、日常からはなれた別世界の様相で
まるでおとぎ話の中にいるような、おかしな高揚感すら与えてくれる。
道端に散りばめられた薄汚いゴミ屑や、もはや掠れて誰にも理解されない道路標示。
そういう「不純物」すら、真白く美しい雪が埋め尽くしていく。
その白銀は視界だけでなく、きめやかな雪に街の雑音も吸い込み、
普段なら聞こえる大通りの喧騒や、文明の生み出した無粋な機械音だって
今日は全くと言っていいほど気にならない。
その不自然な自然の静寂に耳を傾け、少しだけ悦に浸っていると
先の角の向こう側から、人の声が聞こえた。
「$&%$%‘($I)$’&$!!!△○×■$%%&$(!!!!」
なにかモメているのだろうか?
よくわからないまま、ただ好奇心で足は声の方へ歩み出す。
パシュッ
「え・・・?」
倒れこむ男の大きな体。
相対する者の手にある拳銃からは、薄く硝煙が上がっている。
純白だった雪は、飛び散った血飛沫で真っ赤に染まり、
僕の平穏も音を立てて崩れていった。
間違いなく行われた「殺人」。
その凶弾の主は、クッとこちらに顔を向け、
恐ろしく不気味な翁の面の下から、僕をしっかり捉えていた。
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そのあとは、ただひたすらにその場から逃れたい一心で
がむしゃらに、逃げるように走っていた。
「っはぁ、っ・・はぁ、ぁっく・・ハァ・・」
ようやく「追手」から逃げ切ったと思い、僕は雑居ビル、
中でも特段古びた建物の地下階段にへたり込んでいた。
全力疾走なんていつぶりだろう。
肺と胃の奥がぎしぎしと軋み、吸い込む空気は喉を突き刺すように冷たい。
脚はガクガクと震えて、自分の荒い呼吸だけが「生きてるぞ」と実感させる。
「そうだ、まずは警察に・・・?いや救急車?学校・・バイト先・・・」
完全に混乱していて頭の中が慌ただしい。
どうするか決めるより先に、脳はまずポケットの中の携帯に手を伸ばす。
「 オイ、おまえ 」
心臓がバクンッと確かに音を立て、0.3秒の間僕は死んでいた。
流れる静寂の中で、どうか自分ではありませんようにと祈ることしか出来なかった。