夢の世界へ
小鳥のさえずる音。
まぶたに陽射しを感じて、そっと目を開ける。
ここは何処だろう。
曖昧な記憶を辿る。
多分……ベランダから落ちた。
私……死んじゃったのかな。
って事は、死後の世界??
でも、この場所、どこかで見覚えが……。
木々がざわめく森の中、私は上半身を起こした。
柔らかな風が、髪の毛を揺らす。
さらさらと流れる川の音。
木漏れ日が作り出す光のヴェール。
コレって……夢の中で見た景色だ。
でも、意識はハッキリしている。
私は立ち上がり、身体に異常がないか確認した。
特に何も変わった所は無さそうだな。
スカートに付いた葉っぱを払いながらシャツを直す。
学校に居たときのままの格好だ。
どれだけ考えても答えが見つからなそうなので、私は考えるのを止めた。
夢か現実か分からないけど、とりあえず意識はある。
「ガサガサッ」
何かが動く音。
1メートル先くらいの木陰から男の子が顔を覗かせている。
5~6歳くらいかな??ボサボサの髪の毛、薄汚れた布生地を着た、不安そうな顔の男の子。
「ちょっと、キミ……」
私が声をかけると、男の子は慌てて走り去って行った。
一体、何なんだ。
しかし、なんて美しい風景なんだろう。
空を仰ぎ、目を閉じた私は、お腹いっぱい空気を吸い込んだ。
太陽の光。
風の香り。
踏みしめる大地の感触。
リアルなんてもんじゃない。
状況は分からないけど、この夢の世界で、私は確かに生きている。
不意に背後から物音がした。
振り返るとそこには……
金色の髪の毛、凛々しい顔立ち、白銀の甲冑を身に纏い、白い馬に跨がった1人の騎士が。
それはまるで、1枚の肖像画を見ているよう。
やっと逢えたね、夢の中の……
「お~じさまっ!」
私は両手を挙げて走り出す。
夢なら夢でいい。
この状況を精一杯楽しんでみよう。
だから、夢なら覚めないでっ。
「止まれっ」
シュッ
何かが空を切る音。
白銀の騎士が振り下ろした剣は、私の目と鼻の先でピタリと止まった。
「えっ!?」
剣先を向けられ、両手を挙げたままギリギリで止まった私は、まるで有名な製菓メーカーのロゴのよう。
「貴様、何者だ!!」
「わ、私は、えっと、華憐です」
いきなりの現実的対応に戸惑う私。
ちょっと、夢と違うじゃんっ。
「レオノール様!!」
「どうなされました??」
「お怪我はありませんか??」
白銀の騎士の後ろに、数名の従者らしき騎士が集まってきた。
「大丈夫だ。カレンとやら、貴様ここで何をしている?」
「えっと…私もよくわからないけど、気が付いたらここにいて…」
「レオノール様、最近噂の魔女ではないでしょうか?」
「見てくださいあの異国の格好。それに、こんな森の中に1人で居るなんて怪しすぎます」
「両手を天に掲げて、何か魔術でもやろうとしているのでは??」
「よし、城へ連れ帰って調べよう」
「痛っ、ち、ちょっとやめてよっ!変なとこ触らないでよ!」
1粒300メートル級の私は、ロープでぐるぐる巻きにされると、馬の上の騎士に抱え上げられた。
何よコレ。
お願い、夢なら早く覚めてっ。