学校生活~その4~
やっぱり変だよ。
最近何かおかしい。
そりゃあ、「華憐ってちょっと変だよね」とか、「考え方おかしいよね??」って言われた事は何回もあるけどさ…‥。
そんな事じゃない。
最近毎日のように見る夢の事。
意識や感覚がリアルに感じられる。
そして……今も。
これって……夢……だよね??
ロウソクが灯る薄暗い部屋の中、身体の自由を奪われた私は、唯一自由を与えられている首を振り、辺りを見回した。
両手足にロープが巻かれ、背後の木の板に固定されている。
大の字に磔にされた身体。
何か違和感を感じる。
辺りに散乱する奇妙な形の道具の数々。
壁に掛かる数本のロウソクと鞭。
ちょっと待ってよ。
これって……
私もよく分からないケド……アレだよね。
一部の大人達の崇高な趣味ってやつ??
「だ、誰か……」
声にならない声を絞り出すと、
「やっと目が覚めたようだね、私のカレン」
部屋の隅から聞こえる声。
声のした方へ視線を向けると、焦げ茶色のフードに身を包んだ何者かがフワッと立ち上がりこちらに近付いてきた。
「こ、ここは……アナタは……た、助けて……下さい」
混乱しながらやっと出た言葉は、まとまらないまま空中をさまよう。
男が近付きながら纏ったフードを脱ぎ捨てる。
白い肌に白髪の長い髪、整った顔立ち。
笑みを浮かべる薄い唇からは感情が読み取れない。
上半身裸の彼は私の前に……
えっ!?
上半身裸??
「きゃーーっ!!」
自分の身体の違和感に気付き、悲鳴を上げた。
だって、私、私、服を着ていない!!
「カレン」
私の顎に細い手を当て、持ち上げながら、顔を近付けて来る。
この人両目の色が違う。
茶色と青の瞳。
オッドアイってやつか……初めて見た。
ってそんな事どうでもいいよ。
何なのこれ??
私こんなの望んでないよ。
「やめてっ!!」
……目が覚めた。
ここはいつものベッドの上。
夢か。
やっぱりおかしいよ。
ピンポーン
「おっはよ~!!」
クラスで一番早く学校に登校する私は、今朝も山崎家のチャイムを押し、近所迷惑も気にせず大声で叫んだ。
優斗の朝練に合わせている為、毎朝一緒に登校しているのだ。
ガチャリ。
ドアが開き、女性が顔を出した。
「あらん、私のカレン。今日も元気がいいのね」
ウェーブのかかった肩まである髪の毛に、ふっくらとした艶っぽい唇が特徴の彼女は、おっとりとした表情で言った。
優斗の母親の山崎美香だ。
ウチの母親とは大親友らしい。
「みーちゃんおはよ。優斗は?」
幼い頃からそう呼ぶように教育されてきた私は、何の違和感も感じない。
「優斗はねぇ、自分のパンツを洗っているわ。きっとカレンが夢に出て来たのね」
意味深な笑みを浮かべ美香が言った。
はっは~ん。さてはオネショだな!?
……でも私関係ないじゃん。
「変な事言ってんじゃねーよ!!さっき牛乳こぼしたの見てただろっ」
奥から優斗の声が聞こえる。
なぁんだ、つまんないの。
準備を終えた優斗が靴を履き、外に出て来た。
「ちゃんとカレンの事守ってあげるのよ」
「コイツの事なんか誰も襲わないから大丈夫だって」
「優斗は逃げ足だけだから誰も守れないよね」
「うっせ」
「じゃぁね、みーちゃん。行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
そんな会話をして私達は学校へ向かった。
「最近変な夢見るんだよね……」
今朝の夢を思い出した私。
でも内容は絶対に言えない。
あんな夢。
「どうせお前の事だから妄想バリバリの2次元的な夢だろ??」
「う~ん。そうっちゃそうなんだケドさ。妙にリアルなんだよね。意識とか感覚とかさ」
もしかしたら深層心理ってやつなのかな。
「そんなに気にするなって。俺だって妙にリアルな怖い夢とか見る事あるし。起きたら大概忘れてるけどね」
心のどこかではあんな事を望んでいるとか。
「それより華憐さ、ファーストキスした事あるんだって??」
「げっ!?誰に聞いたの??ルミ??」
「さぁね。で、いつ?誰と??」
「そ、それは言えないよ。それに、ファーストキスって言っていいのかどうか……」
「ふ~ん。ま、大して興味はないけど」
興味無いなら聞くなっつーの。
……ファーストキスかぁ。
ずっと前の事だし、もう忘れてもいいのかな……
学校に着き、柚子やルミ、クラスメイト達に囲まれながら、いつもの楽しい1日が始まった。
4時間目の体育の授業。
調子が悪いと言って、自主勉をする事にした私は、数人のクラスメイトと教室で机に向かっていた。
頭がボーッとする。
ここ最近毎日だ。
急激な眠気や目眩、身体全体の気だるさ。
波があるから最初はあまり気にしなかったけど、毎日続いている。
病院で見てもらった方がいいのかな。
頭がクラクラする。
外の空気を吸おうと思い、ベランダに出た私は思いっきり深呼吸をした。
「か~れんっ」
校庭でテニスラケットを振る柚子の姿がぼやけて見える。
ダメだ……立ち眩みが……
意識が朦朧とし、手すりにもたれ掛かる私。
「華憐っ、危ないっ!!」
「きゃ~~っ!!」
誰かが叫ぶ声。
ふっと身体が軽くなり、目の前が真っ暗になる。
深い闇へ吸い込まれて行く。
恐怖なんて無かった。




