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夢の中の王子様  作者: 相原華憐
3/5

学校生活~その3~


「んっん~っっ」


 帰りのホームルームが終わり、担任の先生が教室を出た所で、私は両手を挙げながら力いっぱい上半身を仰け反らせた。


 午後の授業はいつも睡魔との戦い。

 今日は特に手強かったなぁ。


 隣りのクラスに足を運ばせる事さえ重労働に感じた今の私は、カバンからスマホを取り出し、優斗にメッセージを送る。


(教室で待ってるから、部活終わったら早く来い!!)


 スマホを置き、机に上半身を預けながら、カバンに付いているストラップに手を伸ばした。

 ガラスで出来た、お気に入りのクジラのキーホルダーは尻尾が欠けている。


「か~れんっ!!」

 いつもの調子で駆け寄ってきた柚子が隣りの席に座り、

 いつも通りの取りとめのない話しをする。


「昼休みの話しなんだけど、本気なの??彼氏作るってやつ」

「私はいつだって、本気で王子様を探してるよっ」

「王子様ねぇ。……私思うんだけど、華憐って理想が高すぎるんだと思う。少女マンガみたいな恋に憧れるのは分かるけどさぁ……そんなの待ってたら一生彼氏出来ないよっ」

 うっ……。

 相変わらずストレートな柚子の言葉。


 私は少女マンガが大好きだ。

 部屋にある、幾度となく読み返した恋愛マンガの山を思い浮かべる。

「でも……妥協したくないし……」

 私が口を尖らせて言うと、

「う~ん……恋愛の価値観が人と違い過ぎるのかなぁ??」

 と、首を傾げた。


 そんな事言われても……私だって分からないよ。

 恋愛の価値観とか。


「でも、柚子はいつでも華憐を応援してるからっ!!」

 柚子は自分の事を柚子と呼ぶ。

「相談ならいつでも乗るからねっ!!」

 そう言うと柚子は立ち上がった。

「え~っ!?もう帰っちゃうのぉ??」

 と私が口を膨らませると、

 柚子はウィンクをして

「これからデートなのっ」

 と、誰かさんの真似をした。





 誰もいなくなった教室。

 先ほどまでの喧騒が嘘みたいに静まり返っている。

 まるで別世界にでも入り込んでしまったのではないだろうか。

 ため息をつき、机の上のカバンに顔を埋める。


 まぶたが重い。


 そのまま私は……


 夢の……


 中へ……







 目を開けているのか閉じているのかも分からない真っ暗な部屋の中に私は横たわっていた。

「んんっ」

 手足に微かな痛みを感じ思わず声が漏れる。

 身体の自由が利かない。


 ちょっと何なのよコレ。

 誰か……


 発した言葉は、小さな呻き声となって暗闇に消えていく。


 手足はロープで縛られ、口には猿ぐつわがされている。


 状況が飲み込めない私は、取り敢えず落ち着こうと、一旦目を閉じて、頭の中を整理する事にした。


 え~っと。

 確か、教室で柚子と話してて……

 みんな帰っちゃって。


 ……。

 そうだ!!

 優斗の事を待ってたんだ。

 そしたら眠くなってきて……


 ってことは、これは夢??


 ぴちゃん。

 水滴が落ちる音がして、身体をビクッとさせる。

 カビ臭い匂い。


 夢にしてはリアルだよなぁ。

 意識もハッキリしてるし。


 身体の自由がままならない私は、しばらく様子を見る事にした。


 どうせ夢だしいつか覚めるだろう。



 カッカッカッカッ


 どこからか聞こえてきた音が徐々に大きくなり、すぐ近くで止まる。


 バンッ!!

 破裂音と共に目の前の空間が開き、まばゆい光が部屋の中に差し込んだ。


「カレンっ!!」

 光の中に浮かぶ人影は、私の名前を呼びながら駆け寄り、猿ぐつわを外す。


 両腕で抱きかかえられる。


 胸がドキドキした。


 少し切れ長の目に茶色の瞳。

 形の良い鼻は高く、ムダな肉を削ぎ落としたかのような、シュッとした頬。

 鋭い目つきとは逆に、優しく微笑む口元。


「カレン……」

 目の前のイケメンはもう一度私の名前を呼び、お互いに見つめ合う。

 前髪が少しかかった瞳に見つめられて、私は目を逸らした。

 少しづつ近づく2人の距離。




 きゃ~っ!?何コレ??

 ちょ、ちょっと待って!!

 ……近すぎるよ

 私だってまだ心の準備が……


「カレン……」


 そりゃぁ理想のタイプだけどさ、

 こうゆうのってお互いにもっと知ってからじゃないと……


「カレンっ」


 そうだよっ!!私アナタの事何も知らないし。

 でも……。

 カッコいい……。

 あれっ!?コレって夢だったよね!?

 キスくらいなら……

 夢の中だし……



 ……んっ!?夢??



「カレンっ!!」

「!?」

 気が付くと目の前にいた王子様は、短髪で小麦色の肌をした体育会系男子へと姿を変えていた。


「ユ、ユウト!?」


「まったく、いつまで寝てんだよっ!!」


 ……夢か。


 まだ頭の中が整理出来ていない私は、目の前の幼なじみをぼんやり見つめる。



 目が合った彼はニコッと爽やかに微笑んだ。

 反射的に私も笑顔を返すと、優斗は言った。

「華憐!!よ・だ・れ!!」






「しっかし、すげぇ爆睡してたよな~。」

 学校の帰り道、校門を出たところで優斗が言った。

「あんたが遅いからでしょっ!!」

 机で寝ていたせいで手足が少し痺れている。

「わりぃわりぃ。ちょっとトレーニングして終わる予定だったんだけど、先輩に捕まっちゃって」

 優斗は中学生の頃から陸上部に所属していて、高校生になっても続けている。

 勉強や恋愛にはあまり興味が無いらしい。

 勉強に関しては興味どうこうの問題じゃない気がするけどね。

「3年間部活漬けの日々でいい高校生活が送れそうですねぇ」

 私が皮肉を込めて言ってやると、

「だろ~!!出来れば卒業した後もスポーツ推薦で進学したいなって思ってるんだよね。進学が無理なら、スポーツに関係する職に就くとかさ」

 と、照れくさそうに答えた。

 この運動バカめっ。

 詳しくは知らないけど、優斗は陸上でそこそこの成績を収めているらしい。

 県大会か何かの賞状が学校に飾ってあったのを思い出した。

 進路の事ちゃんと考えてるんだなぁ。


「華憐は将来の事とか考えてんの??」

と愚問を投げかけてきたので、


「ん~。お嫁さん……とかかな??」

 と冗談混じりに言うと、


「はっは~。じゃぁ、早く彼氏探さないとなっ!」

 だって。

 自分だって彼女いないくせに。

 と思ったところで、昼間の委員長の事を思い出した。


「優斗は彼女作らないの??」

「ん~。別に今の所はいいかな」

「どうして??」

「……特に理由はないけど、そうゆうのって、無理に作ろうとするものじゃないって言うか……」


 これも柚子の言う恋愛の価値観ってやつか。


「そういえばさぁ、同じクラスの子に、ウチら付き合ってるって思われてたんだよ。全然そんな関係じゃないのに」

「あ、それ、俺も同じ事言われた!!そう見えるのかね」

「え~っ!?それじゃ私が彼氏出来ないのって、優斗のせいもあるのかな」

「俺のせいにすんなよ。ってか、お前の理想がおかしいのが理由だろ!!」


 さすが幼なじみ。

 何でも知っている。


「取り敢えず、優斗も彼女探してみれば??なんなら誰か紹介するからさ」

 ウチの委員長とかねっ。


「紹介とかいらねーしっ。彼女とかは……時が来たらでいいかな」


 な~んだ。

 つまんないの。


 家の前で幼なじみとバイバイした私は部屋に戻ると、お気に入りの恋愛マンガを読み始めた。


 中世ヨーロッパが舞台のやつで、王国の王子様と庶民の女の子が、身分差を超えて恋をしていく物語。


 こんなのばかり見てるから、あんな夢見ちゃうんだろうな。


 それにしても。

 ほんとリアルな夢だったなぁ。

 匂い、感触、意識。

 未だに鮮明に覚えてる。




 あ~もう私ってば。

 夏休みまでに彼氏作るって決めたんだもん。

 ちゃんと現実を見なきゃ。

 現実を……。

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