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夢の中の王子様  作者: 相原華憐
2/5

学校生活~その2~

 静まり返った教室の中

 黒板を鳴らすチョークの音


 時折、誰かの咳払いや鼻をすする音が聞こえる。


 1時間目は国語の授業。

 ……だったと思う。


 普段の私であれば、黒板→机と、交互に首を上下させ、ノートと格闘しているだろう。


 でも、今日の私はそんな気分にはなれなかった。



 辺りに聞こえないように、ふぅっと小さな溜め息を吐く。


 月並みな表現だけど、時間が過ぎるのは、やっぱり

とても早い。


 入学式が昨日の事のように思える。


 私達は今、思春期真っ只中の高校2年生になったばかりで。

 一生に一度しか無いこの時期を精一杯謳歌しようと日々励んでいる。


 あと1年もしないうちに、進路という、避けて通れない大きな壁がみんなの前に立ちはだかるだろう。


 なるべくその事は考えないようにしながら、それまでの自由時間を、部活だったり、趣味だったり、勉強だったり、それぞれがやりたい事、やるべき事に打ち込んでいるのだ。




 誰もいない廊下に、どこからか迷い込んだ桜の花びらが、ひらひらと遊んでいる。


 私の席は、廊下側の3番目。

 前、後どちらから数えても3番目。


 教室の窓ガラス越しに

 それを視界の隅に捉えながら

 私はこの1年間を思い返していた。


 特に大きな出来事があったわけじゃないケド……。


 学校での他愛のない会話やバカ話し。

 夏休みにみんなで自転車に乗り、海を目指した事。

 水族館の思い出。

 浴衣を着てのお祭りや花火大会。


 友達との思い出がいっぱい詰まった1年間。


 この一年間の思い出だけでも、卒業式で号泣するには十分過ぎるよ。


 だから、これからの高校生活も充実した、素敵な日々になるのは分かっている。



 だけど……

 だけどね……

 たった1つだけ足りないものがあるんだ。


 私だって。

 柚子のような一途な恋がしたい。

 ルミのように大人の恋がしたい。


 残りの高校生活で白馬の王子様は来てくれるだろうか。


 待ってるだけじゃダメだよね。

 行動しなきゃ。


 私は決意した。





「か~れんっ!!」

 突然肩に抱き付かれ、現実に戻される。

 人が感傷に浸っている時に……


 でも、柚子のそういうところが私は大好きだ。


「ご飯食べよっ!!」


 んっ!?


 ……いつの間にか時計の針はお昼休みの時間を指していた。





「決めたっ!!私、相原華憐は夏休みまでに彼氏をつくりま~す!!」

 私はフォークを片手に立ち上がると、イスの上に片足を上げ、高らかに宣言した。

 まわりには数人のクラスメイトが、お弁当をつつく手を止めてキョトンとした顔でこちらを見ている。


 2年生になり、クラス替えがあったばかりの私達は、お互いの親睦を深めるためにお昼休みはクラスの女子全員で集まってご飯を食べている。

 この学校に食堂は無く、小さな売店があるだけ。

 教室の一角を陣取って、今日も仲良くランチタイムを満喫していた。



「あ、相原さん、急にどうしたの!?」

「でたっ!!彼氏作る宣言っ!!」

「私も彼氏ほしぃ~!!」

「華憐ちゃんって彼氏いなかったんだ??」

「がんばれ華憐っ!!」

「華憐ちゃんならすぐ良い人みつかるよ!!」


 みんなが口々に言う。


「よかったぁ。午前中ず~っと考え事してたみたいだったから大丈夫かなって思ってたけど、その調子なら大丈夫みたいだねっ!!」


 柚子……心配してくれてたんだね。

 でも大丈夫。

 素敵な彼氏を見つけるからっ!!

 私は柚子に向かって親指を立て、力いっぱいのグーサインを返した。


「あ、相原さんって、あの、その……」

 か細く、今にも消え入りそうな声で学級委員長が話しかけてきた。

 えーと、たしか……

 村山架純さん。

 だったかな??

「どうしたの??かすみちゃん。」

 私はなるべく下の名前で呼ぶことにしている。

 だって、その方が早く仲良くなれる気がするでしょ??

「あの……山崎くんと付き合ってるのかなって思ってたから……」

 頬を赤らめながら委員長は答えた。

 山崎くん??……優斗の事か。

 はっは~ん、この慎ましやかなお嬢様は優斗のことが……。


「あははっ。そんな訳ないじゃ~ん!!アイツはただの幼なじみっ!!それ以上でも以下でもないよ。小さい頃から知ってるから異性として見れないしっ!!」

 だから安心して。

 と、心の中で呟いた。

「そうだったんだ……」

 ホッとした様子で委員長はサンドイッチを少しだけかじった。

 自分だけじゃなく、他人の恋も応援しないとねっ。

 ましてや、幼なじみの優斗が関わってるんだもん……。

 面白くなりそうっ!!


 その後も私達の取りとめの無い会話は続いた。


 昼休みが終わる頃、1人のクラスメイトが言った。

「そういえば柚子ちゃんも華憐ちゃんも宮内さんと仲が良いみたいだけど……あんまり関わらない方がいいと思うよ」


 確かにルミはクラスの女子の中で浮いていた。

 1年生の時も。

 いつも人を寄せつけないオーラを出しているし、言葉使いも良いとは言えない。

 でも、その容姿のせいか男子の間では人気があり、いつもチヤホヤされているから、疎ましく思っている女子は多いだろう。


 現に、この学校でルミと仲良くしてる女子は、私と柚子くらいだと思う。

 私だって、最初は怖かったし、仲良くなるのに半年はかかった。


 でも、みんな知らないだけ。


 友達想いの本当のルミの事を。


 なるべく荒波を立てたくない私が苦笑いをしながら考えていると、柚子が言った。

「私はルミちゃんの事大好きだよ!!だって友達だもん」

 まったくこの子は。

 今すぐに抱きしめて、そのまま締め殺してやろうかと思った。


 その後は特に何もなく5時間目を知らせるチャイムと同時に、みんな自分の席へ戻って行った。





 ルミは今日は学校に戻って来なかった。

 いいなぁ。

 今頃何してるんだろう。

 私も学校サボってデートとかしてみたいし。

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