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サツキとうんこ

「第六回うんこ祭り招待作品」



 「うんこ」


 北国の心も凍りそうな寒さの厳しかった長い冬も終わり、僕らの住む街にも暖かい陽射しと土の香りと共にやっと春が訪れたのである。


 僕と幼なじみのサツキは高校へと進学した。


 「うんこ、うんこ」


 「桜が咲き始めたね」


 サツキはうんこと言って微笑んで、桜が咲き乱れる通学路の坂を下っていく。


 サツキがうんことしか言わないのには訳がある。


 中一の冬に交通事故に遭い、半年間意識不明が続き、目が覚めたサツキはうんこ以外の言葉を話すことが出来なくなっていた。


 「うんこ、うん」


 「そうだな、クラス一緒で良かったよな」


 うんことしか言わないサツキだが、何故か僕は最初からサツキが何を伝えようとしているのか理解できた。


 そんなこともあり、最初は入学に難色を示した高校も、僕と対と言うことで入学を許可した。


 何と言っても、入試の回答欄にもうんことしか書いて無かったのだから、高校の決断も大した物だと思う。


 新しいクラスでの自己紹介もうんこだった。


 それを僕が横で通訳した。


 クラスのほとんどは中学からの持ち上がりで知り合いだったので、何の心配も無かったが、一部の生徒や、話を聞いていたはずの担任も目を丸くして驚いていた。


 桜並木も終わり、家までは、まだ何も植えられていない畑が続く。


 スキップしながら先を行くサツキに、自分が背負った数奇な運命を気にとめている様子はない。


 それは僕という存在がいるからなのだろうか?


 それとも、僕がいなくてもサツキは今と変わらずに生きているのだろうか?


 そんなことを考えると僕は少し不安になる。


 「うんこ?」


 そんな僕の不安に気が付いたのか、サツキが僕の顔をのぞき込んでいる。


 「なんでもないよ。さぁ、早く帰ろう。入学祝い大宴会するって、うちの親とサツキのおばさんが言ってたし」


 「うんこ!」


 そうやって僕らの高校三年間は始まり、そしてあっという間に過ぎ去っていった。


 その間、サツキとはつき合うようになり、ごく普通の高校生カップルとして過ごした。


 今では全てが思い出に変わり、僕は進学のために上京することになった。


 家の近くの駅までサツキは見送りに来てくれた。


 伏し目がちで、言葉も少ない。


 言葉と言ってもうんこだけだけど……


 「もう電車が来るよ。じゃぁ……サツキ、電話もするし、メールも送るからな?」


 「……うんこ」


 サツキは僕の上着の裾を掴んで下をむいたままで返事をした。


 今では僕の他に意志の疎通が出来る友人が何人か出来た。


 僕がいなくてもサツキはこの町でなら暮らしていけるだろう。


 ホームに電車が入ってきた。


 別れの時間が近づいてくる。


 電車が停車し、僕は乗り込んだ。


 すぐにドアは閉まり、僕らはガラス越しに向き合う。


 発進し始めた電車に向かって叫ぶサツキの姿が見えた


 サツキは泣きながら叫んでいた。


 「うんこ、ちんちん!!」

 

 

 サツキが何と言ったのか、それはまた何処かで……

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